第29話 俺、陣形を伝授される
「とは言っても、君のパーティはフルメンバーの様子。六名を超えることはできないからな」
「システム的な問題なのか」
「だが問題はない。なぜなら、私が君に伝授する陣形はそもそも五人用だからだ」
「五人!! 減った!」
「六欲天との戦いには、陣形を以て臨むつもりだ。では君のパーティから二名を我が城に預けていってくれ」
「なにぃっ」
パーティメンバーを選別しろと言うのか……!
辺境伯のイーヒン、俺、そしてイクサまでは確定。枠は残り二つ。
振り返ると、女子たちが既に火花を散らし合っているではないか。
「ここはルリアさんが戦力的には外れるべきでは?」
「ええー。年齢順でいいんじゃない? カリナが待ってるといいよー」
「ねえルリア、それだと下から二番目の年のあなたも待機組になっちゃうけど」
「し、しまったーっ!!」
「ふむ……。ではみんな、ここは公平にくじびきでどうかしら」
「やってやろうではないですか!」
「よっしゃー!」
「お姉さん、なんか不安なんだけど」
おいばかやめろ、そういう運が絡むタイプのやつはいかんって!!
そして案の定。
「おっしゃー!!」
ガッツポーズとともに雄叫びを上げるルリア。
圧倒的運の良さ!!
運が絡めば無敵!!
マスキングされているラムハの、真の能力値っぽい運の良さすら素でトリプルスコアつけてそうだからな。
で、次はカリナだった。
ステータス的に、運の良さでアミラよりも1だけ上なんだよな。
何故かラムハが悔しがっている。
「どうして私が落ちるの……!? おかしい……!」
おかしいも何も、お前、運の良さが最低値じゃないか……。
アミラとラムハをお留守番にして、俺たちは六欲天捜索に向かうことになったのだった。
回復役がいないなあ。
大丈夫かなあ……。
ここで、辺境伯の能力値が表示される。
俺のパーティに加わったためだ。
名前:イーヒン
レベル:55
職業:辺境伯
力 :142
身の守り:97
素早さ :125
賢さ :88
運の良さ:65
HP475
MP288
剣55レベル
光の呪法15レベル
☆剣
・飛翔斬・真空斬・裂空斬・竜破斬
・円月斬・十六夜
★呪法
・レイ・ブライトネス・ブライトヒール
・レイウォール
☆呪法剣
・シャイニングスラッシュ・流星剣・彗星剣
★陣形・陣形技
・青龍陣/ドラゴンファング
・白虎陣/タイガークロウ
・朱雀陣/フェニックスドライブ
・玄武陣/タートルクラッシュ
うん、情報量が多すぎて頭がパンクするな?
レベルこそイクサの方が高いが、間違いなくイーヒンは歴戦の戦士だ。
呪法剣ってなんだ!?
呪法と技を両方使えるからこそ身につくやつか!
そして陣形。
陣形それぞれに固有技があるらしい。
これは確かに、イクサじゃ覚えられないよなー。
「私のステータスを確認したようだな。陣形は、誰かが指揮を取って行使しなければならない。そして指揮する者にはそれなりの賢さや指揮能力が必要となるのだ。殿下では残念ながらできなかった。いや、これらの陣形を使いこなせるものは、我が辺境伯領においても十年に一人現れるかどうかだろう。それほど、陣形は難しいものなのだ」
「そりゃなあ。でも、それだけ難しいって言うことは、使いこなしたら凄いんだろ?」
「無論」
イーヒンは笑ってみせた。
俺の父親くらいの年齢のはずなんだが、イーヒンから感じる気迫みたいなのは全然次元が違うんだよな。
「では実践してみせよう。今回の指揮は私が取る。だが、陣形を学んだ後はオクノ。君がこれを指揮せよ」
「おうよ!」
ってことで、実戦編なのだ。
辺境伯領は、もともとモンスターの多い地域なのだそうだ。
だからこそ、辺境伯領をわざわざ作り、城壁で森と人の世界とを隔てている。
なので、外に出た瞬間にモンスターと遭遇なのだ。
『グオオオオオオッ!!』
咆哮をあげる、ばかでかい人形の怪物。
全身に土塊とか、草や小さな木を生やして、まるで丘がまるごと動いているようだ。
「ひゃー!!」
ルリアがこれを見て腰を抜かしかけた。
六欲天よりは小さいけど、人型ってのはでかく感じるよなあ。
「スプリガンだ。本来は古代文明の財宝を守る役割を負った怪物だが、たまにこうやってはぐれ出る者がいる。こいつの突進を喰らえば城壁とてひとたまりもないぞ」
イーヒンは淡々と説明しながら、歩み出る。
「陣形開始! 白虎陣で迎え撃つ! これは防御に特化した陣形だ!」
イーヒンが中央に立ち、その両脇をルリアとカリナが固める。
で、さらに両脇を一歩進み出た状態で、俺とイクサが分かれて担当。
スプリガンを懐に迎え入れるような態勢だ。
『グオオオオーッ!!』
スプリガンが叫びながら、俺たち目掛けて襲いかかってきた。
城壁をもやすやすとぶち抜くという威力。
まともに食らったらやばいのでは!?
俺は思わず動き出しそうになるが、どうも体の動きが重い。
なんというか……陣形に足を引っ張られているような?
まさかこの陣形、素早さが下がる?
そして、スプリガンが俺たち目掛けて衝突した。
だが、奴は攻撃前に体勢を崩したように見える。
陣形の懐に入り込み、絡め取られたというか。
「ひえーっ!」
「くっ!」
ルリアとカリナが、慌てて身を守る。
だが、直撃したはずの奴の攻撃が、あまり効いてこない。
「懐に招き入れ、敵の本来持つ力を殺し受け流す! これぞ白虎陣! 反撃を行うぞ! タイガークロー!!」
まるで自分の体がひとりでに動くようだった。
俺のバックスピンキックがスプリガンを穿ち、イクサの裂空斬がスプリガンの肉体を一部断ち割る。
思わず後退した怪物に、ルリアの二段突きとカリナの連ね射ちが炸裂した。
連携とは違う。
同時に攻撃が発動した。
スプリガンは防ぐこともできず、尻もちをついた。
「好機! シャイニングスラッシュ!!」
振り抜かれたイーヒンの剣が光の軌跡を生み出す。
それはブーメラン型の光線になってモンスターに到達し、その胸を爆散させた。
倒れ伏すスプリガン。
「おおー……なるほど、これは……。陣形ってなんというか、パーティで魔法っぽい戦場を作り出す技なんだな?」
「飲み込みが早いな。その通り。そして陣形技とは、その陣形の特性を用いて行う連続攻撃だ」
「なるほどー。メンバーとか使う技の違いで威力が変わる?」
「……君は大したものだな。もっとも、技を使える者は才能ある者に限られている。だからその心配は普通しなくていい。メンバーの差も陣形ならば埋めることが可能だ。だが……」
イーヒンは俺たちを見回し、天を仰いだ。
「なんということだ、オクノ。君のパーティは、誰もが技を使えるのか……!! それほどのメンバーで構成された陣形など、この私にも経験がない」
前代未聞っぽいぞ!
……ということで。
ピコーン!
『白虎陣/タイガークロー』
覚えた!
俺はこの要領で、敵を食い止めながら後衛一名を死守する玄武陣、防御を捨てて連続攻撃で敵を仕留める青龍陣、中央一人が遅くなって囮となり、周囲斜め四方向にいる四名の攻撃力を上げる朱雀陣をマスターした。
状況に応じて使う感じかな?
玄武陣と白虎陣だと、白虎陣が攻撃的。
玄武陣はどうしても守りたい人がいれば、そいつを後衛に置けばいい。
白虎陣は全員後攻になってのカウンターだ。
全て覚えた頃には、夕方になっていた。
「驚いた……。まさか一日で全てをマスターしてしまうとは。君は天才だな」
「なんかシステム的な恩恵を受けてるみたいなので……! しかし俺でも頭がパンクしそう」
「頭で覚えるな。体で覚えればいい」
イーヒン、いい師匠だなあ。
なるほど、これならイクサも技を覚えられるはずだ。
だけどこの人、技名をやたら漢字で表記する癖があるんじゃないか……?
お蔭でイクサが苦労したではないか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます