第3話【縁の下の力持ちのお陰で世の中回っているのを忘れるべからずby魔王様】

 この時誰もが知る由ない事態だが、魔王城にて幾数の不運が重なる事となる。

 魔王は勇者によって出来た絨毯じゅうたんの汚れを取るため、手際良く清掃道具をポケットから出す。


 ※布巾や歯ブラシ、洗剤等の日用品が望ましい。

(まだ汚れてから時間も浅い……まだ間に合うかも知れん!?)

 嫁に日夜イビられるため、あらかじめ想定された魔王のお掃除教訓3ケ条を参考にする。


 ①汚れは時間が勝負。

 ②焦らず慌てず侮らず

 ③真心込めて汚れ落としを


 そんな魔王の智略掃除タイムを知らないポンコツ勇者。


 己に向かってきたと勘違いした勇者は伝説の剣を構えていたが、魔王様の圧倒的威圧に剣を地面へと向けてしまった。


 魔王は人間と違い4M強もある身長だったが、勇者の真下である汚れた床を掃除する際に、何を焦ったのか


 RPGで良くある武器と武器のぶつかり合いの閃光が、魔王城を突き抜け一瞬の明かりを与える。

 魔王と勇者の意地掃除欲意地俺TUEEEがぶつかり合う――――魔王城が地響きと共に少しだけ左に傾き、砂煙が辺りに充満する。


 数秒間の沈黙の後……現場に立っていた者はおらず、そこには絶命した拳闘士と魔法使いの姿がある。


 互いに歴戦の猛者であったのだろう。

 魔王との壮絶な闘いの後が――――一切ないのは、この際置とこう。


 そして我らが魔王様は、清掃道具を持ったまま息も無く床に大の字で伏していた。


 辺りを見渡せば先程いた勇者の姿はなく、妃様のお気に入りの絨毯も行方知らず。

 数秒前まで豪華絢爛ごうかけんらんだった床は、何もない殺風景な石畳になっている。


 人間代表と魔界代表による壮絶なる闘いは、こうして両者相討ちにより静かに幕を閉じた――――


 しかし、ここまで前フリが長かったこのお話の主人公は、心優しき経営者の魔王や自分勝手な勇者ではない。


 その者はごく普通の魔物であり、特別な力やカリスマ性等、欠片どころか微塵もない。


 だが、魔王様の容姿そっくりな見た目と、完全模写の様な精巧に計算された仕草だけが、彼自身が誇れる唯一の取り柄だった。


 そして、この異常事態に1番早く気付くも仕事以外は臆病な性格のせいか、柱の影で隠れ見ていたのだ。


 早く助けたいのだけれども『どうしよう……どうしよう……』と迷っていたら、もう既に終わっていたのに気付いた可愛そうな人。


 部下が休日でも出勤し、魔王在る所に〝その人物有り〟と言われる程、縁の下の力持ち界でのスーパースター。

 そう、本作品の主人公は―――――


『アッ、アレは―――――人の敷地に土足で踏みいる集団ゆうしゃパーティー!!クソッ……何故、指定休日中誰も居ない時に……!!』


 この、オドオドと柱の影に隠れているのが本作品の主人公であり、何れ世界を牛耳る事になるお方。


 そう――――〝魔王の影武者〟その人である。

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