第2話【思い出は美化される物也】


『ちくしょおぉぉぉぉっっっ!!』と泣きじゃくる勇者に、魔王は何もしてあげられなかった。


 普段ならば魔王城しょくばには多数の部下スタッフ達がいて、不測の事態が起こっても対処は容易い。


 だが、今回の勇者一行パーティーは突然やって来たせいで、尊い二人の命が犠牲となった。


 例を挙げるとするならば、休日中のハンバーガー屋で銃刀法違反の珍集団が、好き勝手暴れ回った後に、顔色1つ変えずにハンバーガーを注文するような物だ。


 勇者の皮被った悪魔か?否、魔王なのか?――――と、小一時間問い詰めてやりたいと思う魔王。


 だが、〝極悪非道〟、〝冷酷非道〟な魔王の智略は凄まじかった。


 いくら相手が勇者であろうと、こちらには魔王として生まれた宿命がある――――何れ、闘う時が来た時のために、幾年も作戦を練っては準備をしていたのだ。


 威厳ある魔王は、勇者に向かってゆっくりと近づくと、『貴様……勝手に人の城の壺や衣装道具を壊して何が魔王退治だ?事前にアポを取ってくれればこんな事にはだな――――』と口撃こうげきをした。


 冷静沈着に返答する魔王の話を聞いてか聞かずか、勇者は仲間の死体を床へと下ろすと『俺は仲間の魂を背負っているんだっ!!数多くの悲しみの連鎖……ここで断ち切る!!』と、大義名分八つ当たりを発動した。


 あまりの開き直りに少しだけ退く魔王。

『フッ、少しは貴様もやるようだな……』と、取り敢えず労いの言葉を口にする悪の権化魔王。


 王たるもの決して動じず、相手を見据え次の一手を打つのも王たる仕事である――――


 この時の魔王は気迫に圧されながらも、目の前にいる勇者一行の処遇を決めかねていた。


(あっ……話聞かないタイプの勇者だ。どうしようかなぁ、知り合いの葬儀屋も休みだし……放置して闘うのも縁起悪いよね?せめて花だけでも……)


 そんな悪の考えを知らない勇者は『いくぞぉぉお!!』と言いながら、恨みMAXで魔王に突進してきた。


 勢いに任せて腰に掛けてある伝説の剣を抜き去り、僅かに反応が遅れた魔王の鼻先をえぐる。


『今の不意討ちを避けた!?……中々、やるじゃねぇか魔王っ!!』と尚も吠える勇者。


 鮮血は鼻から頬を伝い、ゆっくりと絨毯じゅうたんを染め上げる。


 魔王でさえ土足では入れない聖域サンクチュアリに1人ならず3人入り、尚且つ鮮血頑固汚れが付着……


 刹那――――魔王の脳裏にある言葉がよぎった。


 付き合い初め『結婚してもあなた自身が変わっちゃったら意味ないからね?……ずっと一緒よ?――――』


 結婚当初……『ウフフフッ!!世界で一番あなたが大好き!!いつも、お仕事お疲れ様!!』


 100年後……『妃である私が肩を一回叩けば、凝ってるのよ。結婚してるのにそんなのも分からないの?』


 数日前……『ちょっと?この絨毯お気に入り汚したら殺すわよ?』


 これは、走馬灯か?――――否、死の予兆と言う奴だろう。


 魔王は冷や汗と身震いが止まらなかった。


(今すぐ掃除せねばっ!!我の命はない……)

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