魔王〝バカめそっちが本物だ!!〟その時から私は本物になってしまった

泥んことかげ

第1話【勇者とて正義とは限らない】

 ――――時は、勇者と言う数多く大量生産伝説の剣銃刀法違反たずさえ。


 各地方に渡り個性豊か色物な仲間を集め、道険しく困難な冒険を歩む職業がある時代。


 そこに生を受けた少年を仮にAとしよう。


〝始まりの村〟で生まれたその少年Aは、特段何の変哲もない人生を歩んでいた。

 村で一番可愛い幼なじみのヒロインとイチャイチャする訳でもなく、村が魔物に襲われる事も一切ない。

 何百年も抜けなかった伝説の剣を抜いた訳でもない。

 例えを言えば、学校で卒業したら貰える卒業証書がその剣だとすれば、つつさやと言っとこう。


 つまり、成人すれば誰でも剣が持てて、夢の大冒険が出来る時代。

 剣を手にした少年Aは、待ちきれないで封を開けてしまう子どもの様に、足早に〝始まりの村〟を出た。


 その目的はただ1つ……壮大な冒険と最大の悪である魔王と呼ばれる者を倒すために――――


 ちなみにこの世界には、幾千年と伝えられていた事がある。

 

 それは、強きが〝正義〟、弱きが〝悪〟――――だが、何を持って正義や悪なのか?


 勇ましい者は正しいのか?。魔の王様は正しくないのか?


 これは、そんな壮大な闘いに意図せず巻き込まれ、ある意味悲しい男のお話である。


 ★


 人間と魔界、2つの世界は密接に関係しており、入国審査さえ通れば誰でも出入りが可能である。


 勇者、魔法使い、拳闘士の三人。

 通称〝勇者一行ゆうしゃパーティー〟は、旅の目的である最終局面に到達していた。


 ――――〝最終面の魔界城謁見えっけんにて〟――――


 大人数でも収容できる広く豪華な装飾の数々と、高く色鮮やかな電飾が部屋全体を照らしている。


 ここに2つの命の灯し火が消える頃。

 最後に想いを伝えようと勇者の横で、這いつくばりながら最後の言葉を口にする者がいた。


 男は視界がボヤけながらも、座り込む勇者の膝を掴みながら言った。


『俺の故郷に帰ったら伝えてくれ……拳闘士は、立派に闘っ――――』


 男は拳闘士として立派に魔王と闘い、そして格好良く大往生する。

 直接の死因は冒険途中に腹が減り、猛毒蜥蜴もうどくとかげを食べた事による食中毒だった。


 勇者は涙を流す事なく静かに拳闘士の手を床に下ろすと、息も絶え絶えの魔法使いを強く抱き締めた。


 乱れた服と折れた杖が闘いの悲惨さと、圧倒的壮絶さを物語っている。


『あのね。貴方に会えて良かったよ……仇、必ず討ってね――――』


 魔法使いの最後の言葉に、声にならない声を出して勇者は大号泣した――――


 可愛いらしくて紅一点の彼女は、もうこの世にいない。

 冒険が終われば告白しようとした矢先だった。


 彼女の直接の死因は乱れた服……否、露出度の高い服のせいで風邪がこじれただけだった。


 真実を知らない勇者は後悔で肩が震え、数秒でも彼女の乱れた体を脳裏に焼き付けながら誓った。


〝必ず魔王を倒す〟――――と。


 勇者が怒りに震える茶番劇をしている間に、悪の根源であり絶対的強者魔王はというと……。


 子どもが熱中する戦隊物等での変身シーンに、大人なら『この間に攻撃すれば良くね?』と思うだろう。


 しかし、生まれつきの〝悪〟、〝支配者〟は違った。


 人間とは違い強靭な肉体に加えて圧倒的力量と、生まれついてのカリスマ性でせんさきを見ていた。


『今日は職員ぶか全員が休日……クソッ……疲れた体で無茶したせいで――――』


 魔王の手元には職員ぶか達の緊急連絡先名簿があったが、王特有の焦りが生じ人命は救えなかった。



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