第3話
僕たちのいた市は人口が12万人、ベットタウンだけどほとんどが年寄りしかいない。だから僕たちのクラスはずっとふた組だけ。
だから、標準語という権力によって確立された発音で挨拶をした簑輪さんが、みんな気に入らなかったんじゃないかな? 知らないよ。でも確実に言えるのは、僕はどうでもよかった。というか、記憶に残ってない。
そうだ、簑輪さんが小説に書きたいときのために劇的な場面を用意してあげる。僕と君が最初に会ったとき、僕はすごく胸を焦がされた。これが、初恋なのねとファンファーレが鳴り響いたよ。あぁそのときはまだ精通していない僕はこの情動がなにかわからないが、今ならわかる。童貞の中学生は都会からきた女の子をみてトキメキで死にそうだった。いっそあの場で誰か僕を殺してあげればよかったんだ。きっと血のかわりに精液が噴出されるだろう、それほど睾丸がうなっていた。
簑輪さんから連絡があって、なんとなく卒アルみたんだけど、すごく筋肉質になったよね? いや、いいと思うよ。スポーツやってた? あぁ格闘技をはじめたんだ。あの頃の簑輪さんってけっこうまん丸としてたよね、いや写真でみただけなんだけど。
あっ、違った。僕はずっと簑輪さんに会いたかったよ。あの黒板にたけかんむりを書く手つきからして周りの竹林を見て育った奴らとは違う、過剰に美化された竹をその字に託したような竹。ハイセンスでインターナショナルな竹。排ガス吸って高層ビルのすきま風に吹かれて育った竹。どれがいい? いやどれでもいいか。とにかく一つ一つの所作にまるでビニールハウスの果実のように限界まで熟した魅力を振り撒いていたよ。たぶん。
――
僕のことも話した方がいいね。アニオタだったよ。
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