三十路女勇者の最終決戦
戦場には、見知った顔もちらほらと見える。それは女も男も、だ。まずこの男たちは選択肢から外す。以前までの私の姿を知られているからだ。
となれば、新顔であろう男にターゲットを絞る。そしてなおかつ、田舎出身者が好ましい。私が勇者であることを知らぬ人間はまずいない。しかし、私が魔王を倒した後にどのような生活を送ってきたかを知らない人間は、少なからず存在する。
それは、都市部からの情報が入ってきづらい田舎の者だ。とすれば、『魔王を倒したあとは生け花してましたあ』と言っても違和感を抱かないだろう。
「いやあ。勇者様って初めて見たけど、お綺麗ですなあ」
そして私は、そんな条件に合致する男を見つけ出した。
婚活パーティ初参加、参加するためにわざわざ田舎から出てきた、これまでの私の素性を知らない男。
「あら、お上手ですのね」
「お世辞じゃあねえです。勇者様――」
「リリィでよろしいですわ」
彼しかいない。小柄で小太りで、気の小さそうな男。私の好みとはまるで正反対の男だが、彼しかいないのだ。好みではないが、誠実で優しそうな人柄であると感じる。何も問題ないではないか。
「んじゃあリリィさん。ご趣味とかはありますか?」
「ええ。お料理と生け花を少々……」
「はあ、さっすがだなあ。素敵な趣味です」
「うふふ、ありがとうございます」
これまでの婚活パーティでは感じたことのない、確かな手ごたえを感じる。会話も盛り上がり、穏やかな時間が過ぎてゆく。彼しかいない、そうだ、私には彼を選ぶしかない。
穏やかな時間も過ぎ、彼と私は別れ、別の卓へとそれぞれ向かう。私は私で、素性を知られている人間が多く、彼以外とは上手く会話が進まなかった。彼も彼で、他の女性にはあまり相手にされていないように見える。
「さあ!運命の時間です!お配りした記入用紙に、気になった異性の番号を記入してください!」
そしていよいよ、運命の時を迎える。
結局あの後、私も彼も話が弾んだ異性はいなかった。きっと彼は、私を選んでくれるだろう。彼の番号は8番。これを記入すれば、長かった私の戦いに、終止符が打たれる。
そんな中、ふっと私の中に考えがよぎった。
――これでいいのか
結婚をするために、妥協した相手を選んでよいのか。それ自体が相手に失礼ではないのか。これから一生を共にするパートナーを、そんな考えで選んでよいのか。好きでもない相手と結婚して、私は幸せになれるのか。
――これでいい
そんな考えを、振り払う。
私はなんのためにここまで頑張ってきたのだ。結婚するためだろう。結婚して、家庭をもち、母に孫の顔を見せるためだ。彼を逃したら、もうそれは叶わないだろう。
様々な感情が巡ったが、私は記入用紙に、『8』と記入した。
「――以上が本日成立しましたカップルとなります!ありがとうございました!」
司会の男のアナウンスを皮切りに、参加者は散ってゆく。
成立したカップルはカップル同士で、しなかった者は落胆して一人で。
かく言う私は、一人会場に取り残されていた。
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