第19話 運命

 病院を出ると、近くのバス停まで歩いた。


「ありがとね。お母さん喜んでくれてると思う。」


秋が笑顔で美緒に話しかける。


「私なんて全然…!秋ちゃんの友達でいることしか出来ないや。」


首を振る美緒。


すると美緒の手を握る秋。


「それだけでいいの。」


秋の手は凄く温かかった。



 家のドアを開ける。

玄関には男性の革靴が置いてある。

美緒はリビングを覗く。


「あら美緒、おかえり。」


美緒を出迎える母。


「お父さん?なんでいるの?」


母の後ろには、がたいの良い男性が座っていた。


「なんだ、お父さんが家にいちゃ悪いってか?」


父はグラスに入ったビールを飲み干す。


「だって、いつも仕事でいないじゃん」


「誰の為に働いてると思ってんだ。」


「はいはい、いつもご苦労様です〜」


そう言いながら、母はグラスにビールを注ぐ。

美緒は父の目の前に座り、夕食を食べ始めた。


「美緒、進路は決まったのか?」


グラスを片手に質問してきた。


「まだ…迷ってる。」


「そうかー。」


そういうとそれ以上は何も言わず、またビールを飲み干した。

しばらくして父が立ち上がり、トイレへ向かおうとした。


その手前で足を止める。


「自分のやりたいことをやりなさい。」


そう言うとトイレに入っていった。

美緒は何も言わずにご飯を頬張った。



 次の日、美緒は朝早くからバイト先へ向かった。

店内には仕込みをする翔の姿があった。

外で手を振る美緒に気づき、店の鍵を開ける。


「美緒ちゃんどうしたの?こんな朝早くから。学校は?」


「あの、しばらくお休みもらってもいいですか?」


美緒の言葉に驚く翔だったが、生き生きとした美緒の表情を見て優しく微笑んだ。


「バイトリーダーに抜けられると結構困るんだよなぁ。…なんてね!お店は俺に任せて、美緒ちゃんはやりたい事を全力でやりなよ!」


「小野寺さん…。」


「後悔だけはしないようにね!」


翔の笑顔に勇気をもらえた気がした。

美緒は全力で走っていった。



 教室に向かう秋。

その後ろから全速力で走ってくる美緒。


「秋ちゃーーん!!」


秋に飛びつくように両肩を掴んだ。


「美緒、どうしたの?そんな慌てて。」


「行こう!北海道!!」


急な美緒の言葉に戸惑う秋。


「え?ちょっと落ち着いて。北海道?急にどうしたの?」


「今しかないの!今しか…」


息を切らし、膝に手をつく美緒。

その背中を優しく撫でる秋。


「もしかして…前に話してた彼?」



 学食のテーブルで向かい合って座る2人。

温かいコーヒーを飲み、落ち着く美緒。


「ちゃんと話してくれる?前ははぐらかされたから…。」


秋は少し悲しそうな表情を浮かべた。


「ごめんね。その時は自分の中で葛藤してたんだ。…でも、今はもう大丈夫。」


「高校2年の時、いきなり美緒の前から姿を消したんだったよね?」


「うん。夏祭りでね、このネックレスを貰ったんだ。…凄く嬉しかった。」


美緒は首につけたネックレスを左の手のひらに乗せる。


「それで、その2日後に連絡が完全に途絶えた。その時に彼が最後にいた場所が…」


「北海道…。」


秋はまっすぐ、そして遠くを見つめた。

美緒は不思議そうに秋を見つめる。


「秋ちゃん?」


少しして秋は、美緒の目を見つめ話し始めた。


「2年前…私とお母さんは、北海道へ旅行中に事故に遭ったの。」



「え?」



『運命なんて信じてなかった。

けど、私たちの意志にかかわらずめぐり合わされたこの偶然を、運命と呼ぶのだろう。』



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