第2話 ドロォ……

 気付くと俺は何かに浸かっているようだった。でも、何に浸かっているかわからない。とにかくドロドロしたものだということは分かったのだけど。


 目も耳も機能していない。その上、なぜか腕も足もない。ただ触覚だけが働いている。

 その触覚を以て自分の体を探ってみると、信じられないことが分かった。

 どうやら俺は、大きなイモムシのような体になってしまったようだ。

 嘘でしょ神様。こんな予定じゃなかった。チート能力はどうしたんですか神様。うんとかすんとか言って下さいよ。


―――すん。


 言うのか。……じゃないや。そう、なんでこんなことになってるんですか、俺は。なんでこんな不自由な体に生まれちゃってんですか。


―――あなたの最期が「ぷちっ」て感じだったので、「ぷちっ」てなりそうなうじ虫・・・に転生させてみました。


 えっ…? うじ虫って、あのキモい奴ですか? なんでそんなのに転生させたんですか? 神様、良心の呵責はなかったんですか?


―――人の死にいちいち悲しんでいたら、身が持ちませんよ。


 さっき「神の慈悲が~」とか言ってませんでしたっけ。


―――そのかわり、世界観はあなたの想像通りなはずです。ではごゆっくり。


 あっ! ちょっと待って下さいよ!


 電話の回線を無理矢理切られた感じだ。もう応答はないと感覚的に分かる。

 これはとんでもないことになってしまった。俺はうじ虫に転生してしまったのか……。

 その現実を受け入れたくなくて、改めて自分の体を確認する。


 体勢は浅いプールの中で逆立ちしているという感じでも、そのプールに溜まっているのは水ではなく、粘液状の何かだ。

 目は明暗が少し分かる程度で、物体の認識はできない。人間で言えば、常にまぶたを閉じているという感じだろうか。周りが見えないせいで、自分の体のサイズを比較できない。まぁ、さっきの神様の言葉をふまえると、ただの小さなうじ虫になった可能性が高そうだ。


 音も何も聞こえないけど、ただ静かなだけなのかもしれない。神様は脳内に直接語りかけてくるタイプだったからノーカンだ。

 四肢もなく、頭があるところを上半身とすれば、下半身の先端だけが外気に触れている。どういう仕組みか分からないが、その先端で息をしているようだ。


 ドロドロのプールで逆立ちして、口じゃなく、つま先で呼吸しているんだ。完全に人間じゃない。なんだこれは。

 神様は俺にチート能力を付与して転生させたはずなのに。


 今気付いたけど、目が見えないから仮に美少女がいたとしてもその姿を拝めないし、人間じゃないからハーレム形成とか夢のまた夢じゃないか。


 あっ、絶望。  

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