第22話 アルバイト先は葬儀場?

「メグ先輩、祈ってばかりいないで働いてくださいよ!」


「ごめんね、どうしても祈らずにはいられないの。」


 またも芦谷ちゃんに誘われて、今度は葬儀場のアルバイトに来ていた。

 これは絶対に将来の職業を考えて体験しているわけではないが、とにかく時給がよかったんだもの。コンサートのグッズがたくさん買える。

 近年家族葬とか身内で葬儀をする人が増えたが、今日のは大掛かりなやつで、参列者が多くてお茶出しやお供え物を受け取って祭壇の横に置くなどの細々した仕事がたくさんあった。

 黒のワンピースは貸してもらえたので、黒ストッキングと黒のローファーは通学用ので身支度している。やることは難しくないが、バイトの場が葬儀って…。

 しかし、助かったことには(?)故人は106歳のおばあさまで若い人や事故で急に亡くなるといった悲痛な現場ではなかった。スタッフさんによると、昨夜のお通夜は親戚一同が久しぶりに揃い、大宴会だったそう。

 湯呑を回収して洗った後、もう一度、祭壇のそばで祈ろうとしたとき、多分八十過ぎのおじいさんが近くでよろけた。


「大丈夫ですか、葬儀が始まるまで椅子で座っていてください。」


 席に案内しようとすると、よろよろしながら受付のほうに行こうとする。


「ワシが喪主だから、色々と挨拶しないとな。」


 マジか、失礼ながら今日の主役になってもおかしくない、このおじいさんが喪主か。106歳まで長生きすると、先に子供が亡くなりそうで怖い。

 遺影のソノさんはニコニコしたぽっちゃりしたおばあさんで嬉しそうな顔。

 よかったですね。楽しい人生でしたか。

 しみじみ祈っていると、後ろで芦谷ちゃんの叫び声が聞こえた。


「どうしたの、芦谷ちゃん。」


「メグ先輩、私、霊が見えるようになりました!」


「えっ、霊が?」


「遺影に写ってる人が、目の前を歩いていきました!ひっ、こっちに来る!」

 

 芦谷ちゃんの視線の先を見た私は恐怖のあまり固まり、声が出なかった。

 遺影の中でほほ笑むソノさんがこっちに歩いてくる!

 私にも霊が見えてるんだ。ソノさんは何か言い残したことがあって、霊の見える私たちに伝えたいのか。ならば伝えなくては!


「驚いた?おばあちゃんと私、似てるから。それにおばあちゃんったら還暦(60歳)にハワイで撮った写真を遺影にしてくれっていうもんだからね。」


 ソノさん、106歳で亡くなって、60歳の時の写真を使うなんて反則では。

 孫が困ってますよ。



 こうしてアルバイトや部活を頑張りつつ、充実した学校生活の日々が流れた。

 四月、私は高校三年生になった。正門を清めながら、一年を振り返る。

 楽しかったな。今年も自分と周りの人が幸せだといいな。


「メグ、いつまで祈ってんの、新一年生勧誘に来なさいよ!」


「ごめん佐智、今行く!」


「ズラハンターメグが五秒以上見た一年生には必ず声をかけて。メグが声をかけた子は私と愛梨が生徒会としてフォローするから。」


「優先輩、わかりました。」


 誰もが喜びいっぱいで入学するわけではないだろう。期待と不安、そして不本意な気持ちがあってもおかしくない。そんなあなたに私たちは声をかける。


「ねえ、よかったらお掃除部に入らない?一緒にお掃除すると楽しいよ。」


        本編おわり。 番外編に続く。

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