第21話 抹殺してやる?
裏サイトの噂はこれで沈静化すると思ったのに、あっという間に大炎上した。
それも違った方向に。
中山寺さんの得意げな手柄話に生徒会も黙認していると判断したのか、学校中の生徒は、『裏サイトにグレースを中傷する投稿をした犯人を、中山寺さんのインサイダー取引で逮捕された叔父さんの知り合いのホワイトハッカーが見つけ出してさらし者にするらしい。』とか『どうやら車に乗っていたのは生徒会のメンバーでグレースの生徒を助けるために先生と駆け回ってたいのにこんな騒ぎになったのは不本意で、生徒会は犯人を特定した場合抹殺するっていう話よ。』と、失敗した伝言ゲームのような噂で沸き返った。女子ってどうしてこういう曖昧な噂が好きなんだろう。
「お掃除部は無責任な噂に興じてはダメよ。」
図書準備室で本の整頓を手伝いながら後輩たちにくぎを刺しておく。
「はあい。」
明らかに残念そうな一年生たちの声。
「でも、メグ先輩知ってますか。何でも生徒会書記として優先輩と中山寺先輩とどちらが有能か、この犯人捜しで決着をつけるらしいって。もう優先輩は犯人の目星がついていて、中山寺先輩はインサイダー取引で捕まった叔父さんの伝手で探偵まで雇ったってところまで噂は進んでます。とっても面白いですよ。」
「芦谷ちゃん、それ本当?私は書記二人が表で目立ってる隙に、生徒会長と副会長が犯人を厳重注意の上、先生たちに突き出したらしいって話だったよ。」
芦谷ちゃんと竹田ちゃんの報告にのけぞる。
伝言ゲームは新たな章に入っているじゃないの。
「全部間違ってるわ。」
またまたぐったりした優と、意気揚々とした中山寺さんが登場した。
「お掃除部がかかわっていたから教えてあげるけど、ここだけの話よ。この話が広がったら、この中の誰かがしゃべったってことになるからね。」
中山寺さんが語りだしたエピソードは噂よりは大人しいもの?だった。
川村先生は次期教頭候補として、もう一人、社会の片野先生と静かなバトルを繰り広げていた。決定打のない片野先生が、川村先生の私生活でなにかスキャンダルがないかと、なんと川村先生のお向かいのおばちゃんを買収して、探らせていたというのだ。
「私、本を車に積み込むときお向かいのおばさんと目が合って、会釈していたの。で、優に話したら怪しいっていうから、二人で探りに行ったのよ。」
探偵を雇ったんじゃなくて、自ら探偵していたのか。優も巻き込まれたね。
「ちょうどおばさんが先生の家を伺ってたから、優がはったりをかましておばさんを締め上げたの。あれは凄かったわ、お向かいをストーカーしている証拠があるとか、警察に通報するとか、ご近所にあなたの噂をばらまくとか言って、どんどん自白に追い込んでてさ。私、これから優に逆らうのはやめようと思ったわ。」
結局、ことがことだけに生徒会会長に報告して手を引いたのだと。
「私と優がどんなに有能か知らしめることができてよかったわ。私たちが手を組んだら鬼に金棒よ。でも、きっかけは私がつかんできたってことを忘れないでよ。」
中山寺さんって、佐智と同じプラスパワーに溢れている人なのに、優はどうしてこうぐったりしているのかしら。
「きっかけは中山寺さんが川村先生に車で送ってもらったからでしょ、まったく。」
「すみません、優先輩。」
一緒に車に乗っていた竹田ちゃんが申し訳なさそうに謝る。
「いいのよ、竹田さんは部の後輩だし。マンガ、私にも貸してね。」
「優は私以外の人には優しいのね。」
「違うわ、お掃除部の人だけに優しいの。」
「だったら私もお掃除部に入るわ。テニスはもう引退したし。いいでしょ?みんな私のことは愛梨って呼んでくれてかまわないわよ。」
「……ようこそお掃除部へ、歓迎します……。じゃあ本の整理手伝って。」
来るもの拒まず、お掃除部のモットーだったな。
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