第20話 その噂は本当?

 今日の部活は家から持ってきた使い古しタオルを、みんなで雑巾にリメイクするお裁縫。新製品の洗剤とかお掃除グッズにお金をかけたいのでこういうところは節約しないと。


「佐智、なんだか機嫌悪そうだね。嫌なことでもあったの?」


 針をチクチク動かしながら聞いた。


「ズラハンターメグ、最近鋭いね。…実は父さんと喧嘩しちゃってさぁ。聞いてよ、まったくもう。」


 佐智は父親との親子げんかについて話してくれる――。



「佐智、遅い!外はもう真っ暗なのにいつまで遊んでるんだ!」


「だってまだ夜の八時前だよ。夕ご飯はメグたちと食べるって言ってあるし。」


「日没前には帰りなさいって言ってるだろう!」


「そんな中学生の部活の帰宅時間みたいなこと言わないでよ。父さんは私のこと信用していないの?」


「佐智のことは信用しているが信用できない不審な輩がいるから言ってるんだ!」


「大丈夫だってば。」


「どうして大丈夫って言えるんだ!――ああ純一(佐智の兄で大学生)、おかえり。お前帰るのが遅くなったらもっと静かに帰ってこないと、物音で寝ていたのが起きちゃうじゃないか。忍者のようにこっそり帰宅しろ。それと駅前で職務質問されるといけないから大学の身分証明書ちゃんと持っておけよ。―ええと、佐智はとにかく可能な限り早く家に帰りなさい、いいな。」


「ぎぃー!やっぱり信用してない!」



「ってことがあったのよ。お兄ちゃんなんて帰宅が深夜どころか、成り行きで友達のところに泊まって帰ってこないことがあっても何も言わないくせに!」


「うちも帰宅時間についてはうるさいよ。」


「うちもです。弟には何も言わないのに。」

 

 そんな話をしながら雑巾を一枚縫い上げたところにぐったりした優と、勝ち誇ったように意気揚々とした中山寺さんが現れた。中山寺さんはテニス部を引退したあとすっかりお掃除部の一員のようになっている。今度は優に何かあったな。


「中山寺さん、何かあったの?」


 優に説明させるよりは元気な中山寺さんに説明してもらおう。


「まあ、のんきなこと。学校裏サイトの噂を知らないなんて。」


「えっ何それ。私、裏サイトなんて見ないもの。どんな噂なの?」


「休日にグレースの生徒が先生の車に同乗して出掛けたのを見たってやつよ。」


「……それ、この前の川村先生宅のお掃除のときのじゃない?竹田ちゃんと中山寺さん、先生に家まで送ってもらってたじゃないの。本が持てなくて。誰かに見られてたんだ。噂は怪しげだけど、真実はなんてことないじゃないの。」


「そうよっ!やましいことは一ミリもないのに、よくもこの中山寺愛梨を陥れようとしてくれたわね!私生徒会で、あれはお掃除部の部活の一環で、先生の奥様に整理収納のレッスンを受けるのを私は生徒会の一員として正しく郊外部活動が行われたのか監視していたから噂になるようなことは一切なかったって一刀両断にしてやったわ。車の中には私のほかに竹田さんもいたしね。バイト代貰ってなくて正解だったわ、さすが私、先見の明があるわね。」


 唾を飛ばす勢いで一気にしゃべっり、自画自賛した中山寺さんを、お掃除部みんな呆気にとられてながめた。中山寺さんを陥れるつもりって言ってるけど、竹田ちゃんを陥れるつもりだったのかも、そもそもただの愉快犯かもしれないのに、この人はどうしとてこういうふうに考えるのか。

 優が疲れているのは上手くフォローして事を収めたからだろう。


「それで、その裏サイトの件は片付いたの?」


「私は先生方にも生徒会でも信用されてるから、お掃除部はおとがめなしよ。」


 得意げな中山寺さんを見て、佐智が(誰が信用されてるって?)という顔をしたけど、中山寺さんは気がつかなかったみたい。


「まあ、部外者の中山寺さんが証人になってくれてお掃除部としては助かったわ。ね、優。」


「それが中山寺さんったら裏サイトに投稿した犯人を見つけて天誅を下すとか、お父様に頼んで社会的に抹殺してもらうとか、エキサイトしちゃってここに引きずってくるのも大変だったのよ。」


 既に優と中山寺さんには、ほうじ茶とひとパック三本入って百円のみたらし団子が川田ちゃんによって出されていて、中山寺さんは当然のように二本食べていた。


「この時期によくない噂が立つと、受験志望者数に影響するから先生たちがピリピリしてるのよ。少しの間は大人しくしていたほうがいいわ。」


 優はそう言うと、残っていたみたらし団子を急いでほおばった。

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