第17話  アイドルコンサートの在り方?

 話が数日前後するが、冬休みに入ってすぐの土曜日に男性アイドルグループ、サファイアのドームコンサートに行かないかと部の後輩、三田ちゃんに誘われ、参戦した。四枚セットのチケットに当たって、川西ちゃんと後二人、どうしようかと相談していたところに私が部室に来て、話を聞きつける。


「何ですって、サファイア?私はガーネットの大ファンだけど、サファイアも好きなの。っていうか、あそこの事務所ならどのグループでもコンサート行きたいわ。」


「そうなんですか?メグ先輩がそんなに乗り気でうれしいです。あと一人は、…。」


「あっ、芦谷ちゃん、いいところに来たわ。ねえ、アイドルグループのサファイアのコンサートに一緒に行かない?チケット、ちょっとお高いけど。」


「え、アイドルのコンサート…。私、行ったことがなくて作法がよくわからないけど、いいんですか?」


「三田ちゃんと川田ちゃんが教えてくれるって!高校生の時に友達とアイドルのコンサートに行くって、とっても重要な経験だと思うの。」


「メグ先輩がそういうならお願いします。」


 芦谷ちゃんは誘われたのがうれしいようで、少し戸惑った笑顔が可愛かった。

 三田ちゃんも川田ちゃんも四人のメンツがそろってホッとしたよう。


「芦谷ちゃんと行けてうれしいよ。私に任せて。アルバムとDVD貸してあげる。覚えたほうがいい曲もチェックしとくね。メグ先輩、ありがとうございます。芦谷ちゃんはこういうのは興味ないかと思っていたのに。」


 私はガーネットが本命なので以前のコンサートのメッセージうちわ(大好き)でしのぎ、今回は財布のひもをぎゅうぎゅうに締めておくつもり。

 一年生三人は、芦谷ちゃんにレクチャーするため、うちわづくりの予定を話し合っていた。


 野球やサッカーや他のスポーツ観戦もテンションが上がり、応援の一体感は気分がいい事だろう。しかし、アイドルのコンサートはもっと凄い。

 まず、コンサートをやる日が少なすぎる。もちろん、全国ツアーについて自分も旅をすれば何回も見られるかもしれないが、大抵一回か二回。チケットの入手が困難で、ファンクラブに入ってないと無理。

 転売防止策をパスしてゲットしたチケットだが、五千円以上するのに席がアイドルと遠すぎて豆にしか見えないこともある。

 でも行きたい。大好きなあの人を一目見るためなら…。



 コンサート当日、開演よりも二時間早く開場するのに合わせて待ち合わせしたのに、周りにはもうファンの女の子たちがたくさんいた。みんなおしゃれしてかわいい子ばっかり。気合入ってるな。

 今は日本中どこへ行っても元気な高齢者が青春を楽しんでいるが、アイドルコンサートには若い女の子ばかりが数千人は集まる。探せばいるだろうけど、男の子の姿も、高齢者もおじさんもおばさんも見当たらない。たった十人前後のアイドル男子たちがこの人数の女子を集めるなんて、どれだけかっこいいのかわかるだろう。


「メグ先輩、ここです。」


「わあ、三人ともお揃いのグッズのパーカーだね。買っちゃったんだ。」


「はい、メグ先輩はクールに決めてきましたね。意外です。」


「フフッ、ガーネットファンはクールだから。川西ちゃんのショートブーツ、いいね。芦谷ちゃんのミニスカート姿が見られるなんて、可愛いよ。それにしても三田ちゃん…メイクが達人だね。」

  

「何ですか、先輩。その間は!」


 三田ちゃんはまるで別人のように可愛くなっていた。普段もそこそこかわいいのたけど、この顔を写真に撮って合コンこの子が来るよって言っておいて、ノーメークの三田ちゃんが来たら男子は絶句するだろう。ヅラハンターメグとして三田ちゃんの目が二重になっていて、カラコンして、アイライナーが上手いとこまではわかるけど、もっと何かがなされている。しかも色遣いが大人しめで、口紅が目立ちすぎない上級者テクニック。詐欺師だ。

 


 早めに会場の中に入って席を確認する。うーん、ここからだとお目当てのアイドルは大豆じゃなくてソラマメくらいの大きさだろうな。ざわざわしているが、期待に満ち溢れている高揚感が感じられる。ちょっと薄暗くてもうペンライトをちらちらさせている人もいた。


「メグ先輩、この会場の雰囲気、心地いいですね。」


「芦谷ちゃんもわかる?悩みがある人もいるだろうけど、このコンサートを楽しみにしてきた女の子たちのプラスパワーが満ち溢れてるの。ここにいるとちょっとした風邪とか悩みなんて吹き飛んでしまうから。今回はサファイアだけど、私は本当はガーネットが好きなのよ。芦谷ちゃんも自分の好きなグループ探すといいよ。今度デビューするプラチナもいいって話だよ。」


「まずはサファイアから取り掛かりますね。メグ先輩、このコンサートに声をかけてくださってありがとうございました。」

 

 

 コンサートはすごい熱気だった。アイドルの歌を聴き、メンバーの踊りのフォーメーションを目に焼き付け、推しのアイドルの名前を叫び、動き回るソラマメが誰かを特定し、うちわを振る。もうやること盛りだくさんで大変忙しい。

 そしてメンバーの誰でもいいからこっちを見て笑ってくれないかと念じる。


「あっ、てっくん、今絶対私のこと見た!」


「違うよ、私と目が合ったんだって。」


「私に微笑んでくれた…幸せ。」


 コンサート中、どんなに大声で歌の合いの手を入れようと、自分の世界に浸ってお姫様になってもかまわない。そういうところなのだから。

 私は個人的にコンサートの衣装に引き付けられる。普段だったら絶対に着ないデザイン。夢のような舞台にふさわしい、キラキラした、アイドルのオーラを増幅させるエネルギーを持つ衣装。

 見ている私たちの心を一瞬にして引き付ける魔法がかかっているに違いない。

 一度でいいから着てみたい。できればガーネットのアキ君のやつ♡

 コンサートの前か後に、デザインした衣装スタッフによる、このコンサート衣装のこだわりとか工夫したところを説明してもらいたいくらいだ。動いたときにどう見えるようにとか、アイドルをよりセクシーに見せるようにとかあるだろう。

 舞台にスクリーンがあるから始まる前か帰り際にVTRで流してほしい。

 だってコンサート中はゆっくりと衣装を見ていられないんだもの。

 

「メグ先輩、私これから心が揺れたときコンサートのこと考えるようにして落ち着くようにします。」


「よかった芦谷ちゃん、そんなに気に入ってくれて。」


 

 後日、芦谷ちゃんはプラチナのファンクラブに入り、ガーネットは私、サファイヤは三田ちゃん、とコンサートのチケットをゲットする方法を確保し、参戦可能なコンサートに驚異の出席率を誇るようになった。もちろんお金がかかる。芦谷ちゃんは優等生美人タイプだったのだが、こっそりバイトするようになる……それは後日の話。ほとんどのお小遣いはチケット代金になり、CDやDVDは友達に借りて、友達の中で『ドケチの芦谷』と言われるようになった。


「だって先輩、今年の年間コンサートスケジュールから来年を予測して予算を考えると、どうしても少し足りないんです。私、あのコンサートの雰囲気が忘れられない!冬休み以外もバイトしたい!」


 こうして三学期早々、私は芦谷ちゃんに誘われてこっそりアルバイトすることになった。

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