第15話 それぞれの秋?
選挙演説の前に生徒会長がしたある提案に、私たちは、えっそんなことがと軽く驚いた。
「今までの生徒会は立候補者が少なく、人材が不足していたかもしれません。今回、書記に二名の立候補者が出ましたが、生徒会としては大変うれしく思っています。それだけ聖グレースに対する愛校心にあふれる人がいるということですから。会長が二人というのは都合が悪いかもしれませんが、書記が二名いても構わないのではと生徒会で意見が出ました。そこで皆さんにお聞きしたいと思います。投票する場合、書記は二名共選んで構わないという人は、二人の名前の上に丸を付けてください。書記立候補者の二人はどうですか?」
「私は歓迎します。生徒会の活動で部活動に参加できなくなるのが寂しかったのですが、分担すれば少しでも部活動に参加できます。それに中山寺さんはクラスメイトですが、とても責任感のある人で、身内に逮捕者が出たのにこうして選挙に出席している精神力の強い人です。必ず聖グレースの生徒のために力いっぱい頑張ってくれると思いますし、ぜひ私も一緒にやっていきたいと思います。」
「ちょっと!身内に逮捕者って、あれは叔父よ!しかも父には五人の兄弟姉妹がいるうちの一人で、ほとんど付き合いなかったのよ!」
たしかに一人でしょい込むよりも、分担したほうが優のためだ。
どうせ大変なことは中山寺さんにやらせて、自分は陰から操るんだろうな。
逮捕の疑惑について、全校生徒の前で説明する機会をあげるなんて、優らしいけど、中山寺さんこれから大変だよ。下僕にされなきゃいいけど。
もちろん書記は二人でということになったが、佐智が怒りまくっていた。
「せっかく私が考えた相手を褒めているようで、実はけなしている絶妙の演説が使われなかったじゃないの!五回は書き直したのにっ!」
少しだけ心配したけど、書記二人(どういう話し合いがあったのか、中山寺さんが書記その①で優がその②だそうだ)は思ったよりうまくいっているようで、優に手柄を立てさせたくない中山寺さんはいつも優に張り付き、新米書記二人がくっついていると生徒も
親友の優をとられた私は、部活動に精を出すことにした。
「泉先輩、私、祈る日々のおかげで何かに守られているようなことが多々あったんです。聞いてください!」
「まあ恵さん、何があったの?」
「昨日なんですけど、私、駅から自宅まで自転車なんですよ。その自転車がパンクしてて……。」
自転車がパンクなんて運が悪い。私は運が悪いなって思うことが多いけど最近はあまりなかったのに。自転車を押して商店街の自転車屋さんまで行き、パンクを直してもらい帰ろうとすると、自宅近くの必ず通る交差点の横断歩道で車が横転していた。驚いていると、救急車が到着する。
もしいつも通り帰宅していたら、巻き込まれていたかも…。
それに欲しかった服を買いにお店にいくとすでに売り切れ。その二、三日後従姉のお姉さんから同じような服を紙袋に一杯もらった。おさがりだけど、むしろそこそこのブランド品で店で買わなくてよかったとしみじみした。
聖グレースに入学して友達も、先輩後輩もいい人に沢山出会えた。
「そう、事が上手く進まない時は、無理に進めようとしないで立ち止まって冷静になったほうがいいことってあるわ。恵さんはとても成長したわね。よかったわ。これなら部長を任せられそうだわ。」
「私ですか?私より佐智や友ちゃんやゆかりんのほうがしっかりしています。」
「あの人たちには他にやってもらいたいこともあるし、部長は全体を見渡して違和感があったら注意を向けて解決していく、ヅラハンターメグが適任よ。」
泉先輩にそんな風に思ってもらえるなんて、嬉しい。
たとえヅラハンターと呼ばれても。
「ヅラハンターメグ、いつまで拾ってるのよ。もうクルミは全部拾ったでしょ。まあ、どんぐりまで拾っているの?」
部長見習いとして泉先輩と組んで部活動をすることが多くなった。といっても普段とあまり変わらない日々だが、お掃除をしながら学校の隅々まで気を付ける所を教えてもらっている。
この学校は伝統があるだけあって敷地が広く、ビワ、イチジク、夏みかん、カキ、クルミ等の木が紛れるように生えている。園芸部の花壇ではないので、見つけたもの勝ちで貰ってもいいけど、喜んでゲットする女子高生は少ない。お掃除部を除いて。
今日は全員でクルミ拾い。一本しか木はないけどバケツ一杯取れた。
「ヅラハンターってつけるのはやめてください、私カツラ容認派なんです。先輩、もう少しだけ拾わせて。」
私は遺伝子の本能の部分が強めで、潮干狩りに行くといくらでも貝を掘りまくり、山菜取りにいけばどれだけ採っても満足せず迷子になりかけ、栗拾いに行けば帰るのが嫌になり、リンゴ狩りに行けば見渡す限りのリンゴを自分で収穫できないのを嘆く。あまりのことにいちご狩りには行かないようにしているくらい。
今日拾ったクルミは部のみんなで木づちで割って、中身を取り出してお菓子の材料として家庭科部に渡すことになっている。
家庭科部には後からできたお菓子とお茶会に場所を貸してもらう。
「メグ、どんぐりなんか拾ってどうするの?渋くて食べられないわよ。」
美術準備室を貸してもらって木づちでガンガン、クルミを割り、一年生が竹串で中をほじる。ほじっている人は無言だ。
「こんなにピカピカしているどんぐりが食べられないなんて…。何とかならないかな、佐智。」
「何とかなるなら昔の人が何とかしてるって。今よりもっと食べ物に真摯に向き合っていた時代の人が無理だったのに。」
「ここにいたのね、ハイこれも。」
生徒会で遅れてきた優が現れた。
「えっ優、これ栗じゃない!」
ふっくらとつやつやした栗が十粒くらい。
「あら、もう実がなるようになったの。何年か前のお掃除部の先輩が植えてたけど、あそこは服にくっつく草が多くて大変なのよ。優さん大丈夫だった?」
「中山寺さんに、この学校に栗の木があることも知らないの?知ってるなら実を持ってきなさいよって言ったら、気持ちよく採ってきてくれたの。」
「中山寺さんは?ギャッ中山寺さんオナモミやセンダン草だらけじゃないの。取ってあげるよ。」
髪は乱れて草の実をいっぱいつけた制服の中山寺さんが優の後ろにいた。
「ありがとう、中山寺さん。お礼にこのどんぐりあげる。」
「えっ、こんなに大きくてきれいなどんぐり貰っていいの?」
「……喜んでくれてうれしいよ。」
「そういえば中山寺さん、今度の生徒会の書類できた?中山寺さんって字がきれいでまとめ方上手いのよね。」
「もちろん、できてるわよ。」
「さすが中山寺さんねっ!」
学校生活は楽しかった。悲劇の冬休みホテル客室清掃寒稽古が待っているとも知らずに、私たちはつかの間の平和を楽しんでいた――。
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