第14話 生徒会選挙は女の戦い?
「優ったら、文化祭は他校の男子と知り合ういいチャンスなのに…。」
「でも優が珍しく燃えているし、協力しようよ。」
文化祭のことよりも生徒会選挙の対策を話し合うため、私と佐智は朝三十分早く登校した。優と中山寺さんの立候補の受付は受理され、対立候補がいなければ信任投票で終わりの生徒会選挙がなんだか面倒なことに。もちろん会長、副会長、会計は定員しか立候補がなかった。
「中山寺さん、なんでまた生徒会なんかに立候補したの。」
「私の情報によればあの人、生徒会が舞台のマンガにはまって、自分もやってみたくなったらしいよ。さすがに会長や副会長は無理って判断したって。」
「………女子校でか。」
お掃除部の部室に行くと、優とゆかりんと友ちゃんがもう来ていた。
優は優だけど、全然いつもと違う。
「優、どうしちゃったの?」
「さすがズラハンターメグ。気がついた?」
実は私にはヅラハンターという隠れたあだ名がある。カラーコンタクトは誰だって気がつくけど、私はかなりの確率でヅラを言い当てることができる。控えめに増やされると難しいけど、在りし日の思い出ぐらいにふっさりと増やされるとどうしても違和感を感じる。カツラって女の人の化粧と同じで、別にかまわないと思うのに。
「ヅラハンターの私じゃなくて佐智でもわかるよ。眼鏡やめてコンタクトにしたのはいいけど、ちょっと黒目大きくなってない?髪もさらっさらで、とってもきれいだし。どうしたの。」
「もともと眼鏡だったんだから、私の黒目の大きさを生活指導の先生が知ってるわけないわ。髪は縮毛矯正だから校則違反ではないでしょ。」
「縮毛矯正って髪がまっすぐになってサラサラになるけどお金かかるんでしょ。」
「かなりのお小遣いがふっとんだけど、中山寺さんの編み込みに対抗したのよ。コンタクトもえらい出費よ。まあ、選挙期間中だけね。」
「それで、私たちは何をしたらいいのかしら。」
私と佐智だけではなく友ちゃんとゆかりんまで招集して…。
「これから選挙中、校内で知名度を上げるために歩き回るから、友ちゃんとゆかりんは私の後ろに控えててほしいの。美人が三人固まると見栄えがするでしょう。」
「「もちろん、協力するわ。」」
「………私と佐智は何をしたらいいの?」
「佐智には演説の原稿と情報集め、メグには必勝祈願をお願い。」
「わかった、私、祈りまくっちゃうね。」
他にもこうしたらとかああしたらとか、いろいろ話し合ってお掃除部二年は急に選挙にスイッチが入った。
放課後、早速パワーがあると噂の神社仏閣をいくつか回って必勝の祈りを、と息巻いていると佐智に腕をつかまれ、物陰に引っ張られた。
「なによ、佐智。演説の原稿困ってるの?」
「そっちはもう出来つつある。今までの生徒会の方針を踏襲しつつ、新しい考えもって、よくあるやつよ。どうせ泉先輩とお掃除部と関わり合いのある所の票は確実だし、よっぽどのことがない限り優の勝ちだわね。」
「じゃあ一緒に祈る?油断大敵よ。」
「違うよ。選挙と言えば相手をいかに潰していくかでしょ。で、私は向こうが優に何か仕掛けてくるのを防ぐから、メグには相手の
「わかった。いざとなったらズラだとバラされたくない川村先生と志村先生と片野先生を使おうよ。強力な持ち駒だと思う。」
ヅラハンターメグだけど、女子校なので校内で中山寺さんが男子を二股かけていたとか、貰ったラブレターをごみ箱に捨てていたとか、恋愛関係の醜聞は見つからない。クラスでの中山寺さんは適度に正義感のある人で、困っている人を見るとイライラするのかサッサと助けてあげている。ある意味、優より生徒会にふさわしい。
「うーん、スキャンダル見つからないなぁ。あ、でも本人はよくても、もしかして家族に何か…。そこまでするより、祈らないといけないのに、ああもう。」
しかし、ヅラハンターメグは見つけてしまったのだ、とんでもないものを。
明日は文化祭という日、ちょうど家でテレビの夕方のニュースを見ていた時で、慌てて佐智に電話する。
「ちょっと佐智、大変なことになったわ!中山寺さん、大ダメージ間違いなしよ!というかもうお終いかも。これにどう対応するか、優の出方も試されるわ。」
「何よ、メグ。私これから夕ご飯なんだけど。ラインじゃダメなの?」
「私だって焼き立ての魚を目の前に我慢してるのよ!聞いてよ、たった今ニュースに出てたけど、株のインサイダー取引で逮捕されたの、中山寺さんのお父さんかもしれないの。結構珍しい苗字でしょ。赤の他人かもしれないけど。」
「マジ?!選挙さえなければ、知らんぷりしてやりすごせたかもしれないのに、今優と中山寺さん知名度上がってるから…。よくやったわ、ヅラハンターメグ。優に電話して中山寺父か確認して、対策立てるように指示しとく。」
「中山寺さんのお父様、株のインサイダー取引で逮捕されたんですって?」
中山寺父逮捕のニュースは文化祭だったこともあり、校内に静かに広まった。
「もう、あれは父じゃなくて叔父よ!うちは関係ないのに!」
大急ぎで火を消して回るが、身内は身内。イメージが悪い。
「そうよ、それにもし中山寺さんのお父さんだったとしても、父は父、娘は娘で別よ。中山寺さんは何も悪くないわ。」
クラスメイトなので優は中山寺さんの前で弁護する。
「あなたに弁護してもらわなくてもけっこうよ!」
そう、敵をかばうなんていい人、という作戦だ。
優は友ちゃんとゆかりんを従え、文化祭を隈なくまわって笑顔を振りまき、一年生と握手し、にこやかに微笑み、三年生にはつつましく会釈する。
結構握手してもらいたがる一年生が多くて驚いた。
「もう優の圧勝だよね。」
体育館ステージ上の薄暗い照明小部屋で密談しているようだが、ちゃんと文化祭の仕事はしいてる。
「えーっと、スポットライトのスイッチをいれて、うん佐智、そうだね。」
「この劇の音、テレビのサスペンスドラマと同じでちょっと狡いね。」
「文化祭はお祭りだもの、いいじゃない。フェイドアウトでおしまいっと。後は投票日だね。」
誰もが優の圧勝を確信していた。そう、優でさえ。
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