第12話 研究、それとも犯罪?
ホテルの客室清掃の実習はあっという間に終わった。
大変密度の濃い十日間だったと感慨深い……。
後の夏休みは八月下旬の新学期に向けたお掃除部が始まるまで、優と佐智と一緒に映画に行ったり、食べ歩きに行ったりと楽しく過ごした。
そうそう、家族旅行でリゾートホテルに泊まったとき、「ちょっと、勝手に部屋に入って触らないで、私がチェックするから!」といって家族をドン引きさせたな。
娘に、「フムフム、シーツはこういう形、おお、トイレットペーパーいいやつ使ってるわ。大浴場があるからって、個室のお風呂の掃除、いまいちかな。」とうろつきまわられ、障子の
これがお掃除部の宿命――。
「脚立、しっかりと抑えておくから。」
新学期に向けて教室の灯具を水拭きしている。灯具はなかなか気づかないが結構汚れていて、掃除すると明るさが段違いだ。今日の三人一組は私と泉先輩と一年の魚住ちゃん。魚住ちゃんは背が高いので高いところの掃除にはピッタリ。
「優はお湯で拭けばたいていきれいになるっていうし、佐智もクエン酸や重曹っていうけど、もっと一拭きで、ゴッソリ、これ一本で、っていう強力な洗剤ってないのかしら。少しぐらい高価でもいいから。」
「わかるわ、恵さん。私、個人的に洗剤の研究しているの。理科部(女子校なので生物部や化学部に分かれるほど部員がいない。理科系の部まとめて理科部)に協力してもらってるのよ。よかったら今日、部活の後に行くけど一緒に来る?」
「行ってみます。面白そうですね。」
「私も先輩たちとご一緒したいです。」
魚住ちゃんと私はお掃除が終わったら理科部に行くことになった。
「もちろん、混ぜると毒ガスが出る組み合わせもあるから、ネットに出てるレシピに少しだけアレンジして洗剤を調合するんだけどね。」
理科部のある教室に歩きながら、泉先輩はいつもは尊敬できる先輩なのに唾を飛ばす勢いで説明してくる。新しいお掃除アイデアグッズにはすぐに飛びついているって有馬先輩は言ってたけど、ついに自分で開発しようとしているなんて…。
尊敬するわ。
「それで、研究の進み具合はどうなんですか?」
「いろいろやってるけど、原材料はただじゃないし、危ないものができたら困るって、理科部の監視が厳しくてね。思うようにいかないわ。」
理科部のある化学室に行くと、白衣を羽織った部員の一人が飛んできた。
「泉っ、大変なことが!あなたの研究に……とんでもないことが。」
「どうしたの、作りかけの洗剤に変な化学反応が起きちゃったの?」
「どうしてこうなったのか……これを見てちょうだい。」
理科部員の差し出す、大きめのビーカーには気持ち悪い緑色の液体、何を混ぜたらそうなるんだろう。偶然の産物でとんでもない化学兵器ができてしまったのか。
「ギャー!!」
魚住ちゃんが叫んで逃げ出した。それもそうだろう、緑色の液体にはG(ゴキブリ)が三匹浮かんでお亡くなりになっていたのである。
「泉、これ大発明かもしれないよ。置いておくとGが身投げする液体、すごいじゃない!」
「あのう、たまたま入っちゃっただけかもしれないし、Gが大量発生していてこれじゃなくてもホイホイでもすごいことになってたのでは。」
「何言ってるの、一匹なら偶然かもしれない。でも三匹なら必然よ。泉、この液体のレシピ見せて。私も協力するから開発を進めましょう。」
黙って考えていた泉先輩が申し訳なさそうに言う。
「それ、失敗作、というか途中まで成分と分量を書いてたんだけど、うっかりして何を混ぜたのかわからなくなったのよ。捨てようと思ったけど、何かに使えないかって、隅に置いておいたの。」
「泉先輩、どうしてそんなお調子者の小学生男子がやるようなことを…。せめてレシピがあれば役に立ったのかもしれないのに。」
戻ってきた魚住ちゃんがGを処分した緑色の液体を恐る恐るのぞき込んだ。
一口飲んだら死んじゃう、ヤバいやつに見える。
「しばらく漬けとくと全部溶けてくれればいいのに。」
「全部溶けてしまう…。そのアイディア貰ったわ!!」
また何か研究しようとしてますね、泉先輩。
お願いだからそれは犯罪ですってものを作らないでください。
隣で後輩が失礼なことを考えているのに泉先輩は当然気がつかなかった…。
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