第11話 ハプニングと言えば?

 客室清掃でハプニングと言えば、いつも出会わない、レアな汚れに出会うこと。

 たまにだけど、お客様がバスルームで毛染めをして(してはいけません)その辺に色がついてしまうとか、(この時は専用の除去クリームがあった)、掛布団はデュペ式の布団全部をくるみこむ形だけど、お弁当の汁がこぼれてシーツの中までシミがついたときとか、(予備の布団を出してきて、汚れたのはクリーニングに出す)思うように自由に過ごすお客様もいて大変だ。


「…………。」


 人は予想もしない困難に遭遇すると、ハイテンションになるというけど本当だ。


「どうしようこれ。どうしたらいいんだろう。」


 最近、流さなくても自動で流れる便器があるせいか、ただ忘れたのか、アレ(う〇こ)が流してない時があってびっくりするが、これは流しても流れなかったやつだ。

 普通、自宅じゃなくて旅先だと便秘になるって人が結構いるのに、どうしてここで一週間以上出なかったくらいの便秘が解消されたのだろう。不思議だ。それくらいこのホテルの部屋はくつろげたのか。

 何回流してみても案の定流れない。これにトイレブラシで挑めというのか。

 これ、マジで人間から出たものか。初めて見たよ、見たくなかったけど目が釘付け。私一人じゃなくて、優や佐智にも見てもらってこのハイテンションを分かち合いたい。


「恵ちゃん、なにをジャージャートイレ流してるの?詰まった?」


「あっ千代さん、よかった、助けて!これどうしたらいいのか。」


「ああ、これはね、はい、この割り箸を使いなさい。」


 千代さんはなんてことないって感じで、今回は新品の割りばしを一膳くれた。


「?これでどうするんですか?」


「お箸で切って流すのよ。何事も経験。じゃあ頑張ってね。使い終わった割りばしは返してくれなくていいから捨てといて。」

 


 その日の掃除が終わった私は速攻で部屋に戻ってバスルームに駆け込み、身を清めだ。割りばしを使ったとはいえ手に残る感触が気持ち悪い。


「なによ、メグまたお化けに話しかけられたの?」


「違うよ!お化けのほうが無害だよ。もう!出した人が責任もって流してよ!そういう人はちゃんと割りばし持参で泊って欲しい!」


 まだハイテンションを引きずった私は難敵と戦った一部始終を、微に入り細にわたって優と佐智に報告した。


「そんなに詳しく言ってくれなくても…大変だったね、メグ。」


「そうよ、まったくもう。」


 その時黙って聞いていた優が、カッと目を見開き厳かに告げた。


「メグ、今すぐ宝くじを買うといいわ。サマージャンボでもスクラッチでも。」


「えっ優のご神託?それって禍福かふくあざなえる縄の如しってやつで、不幸の後にラッキーが来るのね。待って、お財布にいくら入ってたっけ。」


「アッハッハッハ、メグったらわからないの?」


「何よ、佐智。」


「優の言ってるのは、メグにウンがついたってことよ。」


「……ウン……。」

 

 ――おあとがよろしいようで――

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