第3話 祈る力とは?

 自分に自信があれば、祈ることはない。

 受験で合格を祈るなんて馬鹿げている。勉強を十分にやれば合格して、足らなければ落ちる。体調管理も同じ。ただそれだけのこと。そう思っていた。

 だけど私は高校受験で試験の時、十分な体制で臨んだのに数学の一問目でつまづき、頭が真っ白になって、その後の教科をどうしのいだのか、記憶があいまいだった。

 その結果、第一志望の高校ではなく、第二志望の聖グレースに通うことをなかなか受け入れられなかった。どうしてこうなったのか。

 今は少しだけわかる。私は思い上がっていたのだろう。

 祈ることだけに頼ってはいけない。

 まず努力。そして心の安寧のため謙虚に少しだけ祈る。



「メグ、いつまで祈ってるのよ、次の場所に行くわよ!」


「ごめんごめん。友ちゃん。今行くわ。」


 急いで掃除道具の入ったマイバケツをつかんだ。

 一年生の芦谷あしやちゃんにクスリと笑われて、少し照れる。

 お掃除部は大抵くじ引きでランダムに三人組になって活動する。

 今日は友ちゃんと私と芦谷ちゃんの三人組。

 芦谷ちゃんは背が高く大人っぽい子で、新入部員の中でもしっかりした印象があった。割と私とはよく話をしている。


「恵先輩、先輩はいつも祈ってる時間が長いですけど、何を祈っているんですか?部活以外でも祈っているんですか?」


「え、別に大したこと祈ってるわけじゃないのよ。ええと、友達が病気になったら、早くよくなってねって思うじゃない。あんな感じで、学校のみんなが平穏無事で過ごせますように、くらいのことを祈ってるだけよ。」


「それで何かいいことあるんですか?先輩って別にすごい能力とかなさそうなのに。実は超能力者とかなんですか?」


「そんな能力があったら、お掃除しないで祈りまくってるわよ。祈るとちょっとだけ心が安定するから、かな。別に宗教とは関係なくて自分をはるかに超えた何かに祈るのよ。まあ、神様、仏様、キリスト様でもいいけど。」


「二人ともしゃべってないで草むしり頑張ってよ!学校周りのフェンスぎわの草取りまだたくさん残ってるのよ。」


「友ちゃん、ごめんごめん。」



 学校の掃除は放課後に各クラスが担当の場所を掃除することになっている。

 だけどやり切れない場所や、準備室(音楽準備室、美術準備室、化学準備室など)、部室は担当の部活が掃除をする。その時にお掃除部に依頼すれば手伝ってもらえるというかほとんどお掃除部がきれいにする。もちろんただではない。ほんのちょっとした見返りを頂くことになっている。家庭科準備室を掃除したときは料理部の作ったお菓子をもらったり、プールの更衣室(夏季限定)を掃除したときはお掃除の後で自由にプールで遊べたり、園芸部担当の草抜きをした後は収穫予定の野菜をもらえたりといった具合に。



「みんなご苦労様、今日はここまでよ。明日は家庭科室の食器棚の食器と調理器具を全部きれいにする依頼が入っていて、その後はそこを使っていいそうだから新入部員歓迎お茶会をしましょう。」


 部活終わりに私は少し気になっていたことを泉先輩に相談しに行った。


「先輩、あの、気のせいかもしれませんが美術準備室から変な気配を感じます。優は大したことじゃなさそうって言ってますが、手遅れになったらまた誰かが……。」


「よく相談してくれたわね。お掃除部全員でかかれば大丈夫でしょう。鍵は美術の先生に言えば手に入るし、明日家庭科室の前にまずそれを片付けましょう。」


 先輩は気軽な感じでいうが、もしまた何か事件っぽいことになったら……。

 優と佐智と駅まで歩きながら考え込んでしまう。


「メグ、先輩には報告したんでしょ、だったらいいじゃないの。」


「佐智はそういうけど……。」


「死体とか、呪いの藁人形とかだったら、私にはもっと嫌な気配が伝わるわ。美術準備室にはあまり嫌な気配は感じない、というかただの掃除してないよどんだ気配だけよ。メグはこの前のことから過敏になってるんじゃないの。」


「優がそういうなら大丈夫よね。」


 何にしろ明日すっきりする。先輩に相談したことと、優と佐智にに気がかりを話したことで私の心は半分以上軽くなっていた。

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