第2話 グレースとは?

 祈るというと、世界平和、商売繁盛、家内安全、恋愛成就、金運アップなどを思い浮かべるが、私たちはそんな大層なことを祈っているのではない。

 自分とせいぜい周りの人が健康で平穏に生活できるようにと祈るだけ。

 お掃除部のもう一つの目的は祈る力を高めること。

 ただ祈ればいいのではない、お掃除によって清めて清めて清めまくって祈る力を高めなくてはいけない。これが私がお掃除部で一番やりたいこと。

 だって私、運が悪いなって思うことが多いんだもの。



「お掃除部に2Aの人はいないね。どうしようか。クラスが離れちゃった人を訪ねるっていうていで探ればいいかな。」


「メグ、単独で無理して探ろうとしないでよ。」


「大丈夫よ佐智、優。私だけじゃ無理だってことはわかってる。三人でやろうね。」


 翌日登校してから2年A組の友達を訪ねてクラスのメンバーをじっくり観察する。

 私は高等部からの入学だから知り合いは少ないほう。

 去年は、お掃除部に入部して優と佐智とすぐに友達になれたから良かったけど。

 周りをちらちら見ると、もう女子グループができつつあるじゃないの。

 優と佐智は知り合いと挨拶しながら偵察していた。

 ふと視線を感じて振り向くと、小柄でかわいい感じの子と目が合う。

 にっこりして話しかけようとしたけど、少し躊躇ちゅうちょしたところに優が割って入った。


「メグ、もう始業のチャイムが鳴るわ。教室に戻りましょう。」


 2年A組には意地悪そうな人や他人を無視して仕切りたがりの人は見当たらなくて居心地がよさそうなクラスなのに一体何が…。



 放課に優から衝撃の報告を聞かされた。


「嫌な気配のもとは、メグが話しかけようとした子だと思う。メグ、あの子ってこと、わかってたの。」


「えっ、そうなの?どうして……。」


「そこまでは私もわからないわ。このことは先輩に報告しておくわ。というかお掃除部の先輩でも無理よ。『くのいち』案件だと思う。新学期の不安な気持ちが多くて紛れていたけど、思ったより嫌な気配はキツかったし。」


「待って、同じ学年の子なのになんとかできないの?もう少し様子を見させて。」


「メグ、自分のできることと、できないことはきちんと区別しないと。私たちにできるのは、お掃除をしてプラスパワーを満たし、ちょっとしたことを祈るだけ。」


 一体あの子に何が…あんなに大人しそうな子なのに裏に回ったら、何かよからぬことに手を染めているのか。ああ、杞憂であってほしい。



 三週間後部活の前に、噂を聞きつけるのが早い、いや情報収集能力の高い佐智が結果を教えてくれた。


「2Aで援助交際している子がいて、学校にバレて停学になったんだって。泉先輩が情報提供して『くのいち』に貸しができたって喜んでたよ。もちろん他人の不幸で喜んではいけないけど、こういうのは深みにはまる前に早く分かったほうが本人のためよ。私はよかったと思う。」


「メグ、ショックかもしれないけれど、その人と一年の時に友達ではなかったのでしょう。仕方ないわ。」


「……そうだけど、でも、私も去年入学したての時は友達がいなくて不安で仕方なかった。泉先輩がお掃除部に誘ってくれて、優と佐智と友達になって、ゆかりんも友ちゃんも先輩たちにも優しくしてもらってどれだけ救われたか。私って無力だわ。助けてもらってばかりで助けられないなんて。」


「恵さん、少し成長したわね。そう、あなたは自分が無力なことに気が付いた。さあ、これからどうするの?ここでウジウジしていてもしても仕方ないわね。」


 お掃除部の紺の三角巾を結びながら泉先輩が現れる。


「泉先輩、私、どうしたらいいんですか?」


「さあ、一緒にお掃除をして嫌な気分も清めてしまえばいいのよ。新入部員も入ったし、園芸部や準備室関係のいろいろとお掃除の依頼が来ているわ。張り切っていきましょう!」

 

 そう、こんな時はお掃除すればいい。場所も、自分の心も。

 先輩、私、ついていきます!

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