聖グレース女学校お掃除部!

清泉 四季

第1話 お掃除部とは?

 新学期の始業式後、念入りにほうきで正門前を掃き清めて、門の聖グレース女学校のプレートを磨き上げた。散っている桜の花びらは無理せずそのままで。

 最後に『無事に平穏な日々が送れますように』と祈る。フッ完璧ね。


「メグ、そっち終わったかしら?」


「こっちは終わったよ、ゆう佐智さちは?」


「ごみ捨てがてら先輩に終わりましたって報告しに行ってるわ。」


 私たちは聖グレース女学校のお掃除部。

 私は竹之井たけのいめぐみ。聖グレース女学校高等部の新二年生。

 自分で言うのもなんだけどセミロングの中肉中背、どのクラスにも五人くらいはいそうな平凡な女子で学校のお掃除部に入っている。

 校内のあちこちをお掃除をしているのは部活動の一環。

 同のじクラスの神戸こうべゆうは知的なメガネ美人でロングヘアーを部の紺色の三角巾でまとめている。お掃除部のユニホームは学校の体操服に自前のエプロン、唯一三角巾だけ紺で統一してお掃除部としての存在を示している。

 べつに掃除が好きとかではなく(嫌いじゃないけど)、清めることによって、プラスパワーを校内に満たすことが部の大切な目的の一つ。


「ちょっと、大変よ!メグ、優!」


「どうしたのよ、佐智。」


 クラスは違うが同級生の明石あかし佐智さちはショートヘアで少しぽっちゃりしている明るい性格の子で、私と優と佐智の三人が仲良しグループ。


「先輩たちが校内を隈なくチェックしたところ、2年A組と2年B組あたりから、嫌な気配がしてるって。部員みんな集まってるよ。」


「優、私たちも行ってみよう。」



 2年A組と2年B組の前の廊下には三年生の先輩たちと私たち三人の他の二年のゆかりんこと姫路ゆかりと、友ちゃんこと西宮友美も来ていた。


「生徒のいない廊下からでは場所も人も特定できないわね。」


 部長の宝塚たからづかいずみ先輩は、大きくため息をついた。

 威厳のあるお嬢様風な人が体操服に自前のエプロンで雑巾とバケツを持って考え込んでいる姿は不謹慎だが笑いがこみ上げる。

 佐智がひそひそ話しかけてきた。


「ねえ、メグ、優、あんたたち何か感じる?」


「何にも感じない。佐智は?」


「私も感じない。」


 少し考える様子だった優がおもむろに口を開いた。


「先輩、私は2Aだと思います。今なら、まだそんなに大したことないって感じるくらいですけど。でも、早く手を打ったほうがいいと。」


 お掃除を極めていない普通の人でも、清めた後を清々しく感じ、汚い場所をなんか嫌だなあと感じることはあるだろう。

 しかし、もう一段階お掃除力がアップすると人の心や場所のけがれを感じ取れるようになる人がいる。優はこの能力が高い。


「穢れを感じた場合は生徒会くのいちに報告することになっているけれど、私たちで何とか出来れば新入部員勧誘にインパクトがあるし、今年度の予算もガッチリもらえるわ。新発売の洗剤とお掃除道具で欲しいのがたくさんあるのよ!」


「泉先輩、『くのいち』を出し抜くって……、私たちの活動は生活場所の学校を清めて平穏無事を祈るところまでのはずです。」


「そうです、私、穢れた心の人とは関わりあいになりたくありません。泉先輩、新発売の洗剤とお掃除道具のためとか、心が穢れかけています。」


「コ、コホン、ゆかりさんと友美さんの気持ちもわかります。この件は三年生で…」


「ちょっ待ってください、同じ学年の人が困った羽目に陥っているのだから私も手伝わせてください。」


「…恵さん、では探るだけやってもらえるかしら。駄目なら『くのいち』に通報して対処してもらうから、そんなに心配しなくても大丈夫よ。」


 生徒会は『くのいち』と呼ばれていていったいどうやって探っているのか、わからないが生徒間のトラブルや生活の乱れを素早く察知し、対処してくれる。

 ただ、『くのいち』の活動はすべてを先生方に報告することになっていた。

 そして一度目は厳重注意で許してもらえるが、二度目に問題を起こした場合、情け容赦ない処分が下される。ただでさえ少子化なのに入学希望者が減るようなスキャンダルを世間に知られるわけにはいかないらしい。


「任せてください、泉先輩。こっちには優という秘密兵器がいます。」


「ちょっと、メグ、無責任なこと言わないで。やれるだけやってみます。佐智も手伝ってよ。」


「もちろん!」


 こうして私たち三人組は2年A組に潜入調査することになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る