2-3
「何で
「先ほど周囲を確認したときに見つけたんです。私たちは風上に向かって
「なるほどね。さっき地面に耳を当てて、それを確認してたんだ? 音の
「はい、そのとおりです」
サラは言うと、持ってきた
「うわぁ……」
石壁や
「
思わず見とれていたサラだったが、ノアの声に我に返った。
「
「あ、はい。かなり奥まで進みましたから、光が外に
「そっか。よかった」
やがて光はそれぞれの石英に収束し、ぼうっと色とりどりのランプのように灯っている。
サラは適当な場所に布を
「ここで少しお休みください。眠れないかもしれませんが、目を閉じて横になっているだけで疲れは取れますから」
ノアがびっくりした顔をしているので、サラは首を
「……何か?」
「いや、怒らないのかなと思って」
「何をですか?」
「さっき俺が不注意に火をつけたせいで、あんなことになって……本当にごめん」
頭を下げるノアに、サラは「ああ」と首を振った。
「私がきちんとお伝えしていなかったせいですから、ノア様の責任ではありません。それに火をつけたのは、私を
あのときノアは、自分の上着をサラに着せかけようとしていた。火をつけたのも、少しでもサラに温まってほしかったからだろう。
それが分かっていたから、サラは怒る気にはなれなかった。
「……驚いた。そこまで分かってたんだ」
ノアは尊敬の
「でも、理由がどうあれ、俺なら怒っちゃうかもな。命の危険にさらされたんだし」
「危険な目に
「感情より仕事か……。本当にプロに
複雑な表情でノアは
「年下の女の子に守られるばかりなんて、情けないよ」
サラはきょとんとしたが、切ない横顔に思い当たるものがあった。
――もしかして……プライド傷つけた?
「えっと、お気になさらないでください。もともと《
「あはは、ごめんごめん。
ノアは太陽のような笑顔に戻る。
「君があまりにも立派だから、つまんないこと言っちゃっただけ。でも《
――違う。私は両親に捨てられたくなくて、必死で働いてきただけ。誇りなんて……。
心の水面に投げかけられた小石が、
「ノア様は」
「だから、ノアでいいって」
「はい、かしこまりました、ノア様」
あくまでも呼び方を
「まあいいや。プロの《
「あなたはどうして、そんなにも《
出立前も今も、ノアは《
「そりゃそうだよ。だって、伝令所を設立したのは父さんだからね」
「えっ?」
思いがけない単語に、サラは目を丸くした。
ノアは
「十五年前、俺の父であるエリシャ・オズウェル
「オズウェル公が、伝令所の出資者……」
「じゃあノア様は知ってらしたんですね? 《
「ん~?」
「ん~じゃありませんよ。だったら私をお城に呼んで、話を聞く必要なんてなかったじゃないですか!」
「まあまあ、そんなぷんすかしないでよ。この話には続きがあるんだ」
そう言ってノアは
「父さんは多分、分かってたんだと思う。いつか教会や《
「どうして、そんなことが分かるんですか?」
「父さんは王家の内情を
サラは、アルシスについて語っているときのオズウェル公の
「教会の収入の大部分は
「そんな……」
そんな
「自分にとって
サラは思わず、自分の氷色の髪を押さえて後ずさった。
気づいているのかいないのか、ノアは平然とした顔で続ける。
「美しい色の髪の人は、生まれながらに《マナ》を使えることがあるらしい。もちろん、その全員が《マナ》を使えるわけじゃない。生まれつき《マナ》を使える人間は極めて
歯がカチカチと鳴って止まらなかった。五年前の、
――お父さんが私を売ろうとした貴族って……アルシス殿下だったの?
義父ビルが、サラに髪を隠すよう言っていたのは、これが理由だったのかもしれない。
「支配力を得るために国民を
淡い紫色の光に照らされる、ノアの表情は
「王位と《マナ》、二つの強大な力を使って、アルシス殿下はこの国を支配しようとしている。国民はその事実も、情報が隠されていることさえ知らない。今までこの国の
教会は
――でも、どうして?
クロード王子の死も、国王ジョージが
理由を問いかける前に、ノアが言った。
「残念ながらジョージ国王
「どうしてですか?」
「国王が即位するとき、即位式の前に
《
サラは言葉を引き継いだ。
「だから国王陛下は、《
「そういうこと。でも、だからこそ価値がある」
ノアは両腕を広げると、力強く
「今はまだサフィラスが中心だけど、いずれ他の領国や、外国にも情報ネットワークを広げていくことができる。《
「真の王を助けて即位させれば、《
ノアは
「それが、今回の任務を引き受けた理由」
茶目っ気のある
「……初めて、まともに質問に答えていただけたような気がします」
「え~? ひどいな。俺はいつだってまともだよ」
「分かりましたから、もう寝てください。明日は一日中、歩きっぱなしになりますから」
洞窟内は
ノアはあおむけに横たわっている。サラは壁にもたれかかり、腕を組んで目を閉じた。追っ手が来れば、足音で分かるだろう。
「……王は」
「え?」
「真の王は
「誰だと思う?」
ノアが尋ねる声にも、
「分かりません……ただ」
「ただ?」
「その人が、心からこの国を愛してほしいと……思います」
――愛する……か。
王は国を愛し、王であることに誇りを持ってほしい。そして国民を守り導いてほしい。
――私は、どうなのかな。《
今まで生きるのに必死で、仕事を覚えるのに
でも、少しずつ、少しずつ、自分の中で何かが変わり始めている。
――本当は、私……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます