1-5
黒いワンピースに白いエプロンをつけた
「花茶っていうんだよ」
「南の領国《ジルコン》でよく
飲んでみると、すっきりとした風味の後に
「おいしい……」
サラはカップに両手を添えたまま、思わず
「そう? 喜んでくれてよかった」
ノアはにっこりとする。通された客間の
ノアがメイドに
サラは驚きで
――信じられない。こんな暮らしがあるなんて。
「
ノアが口火を切ったので、サラは身構えた。
――来た。
あの
「あのときも仕事中だったんだよね?」
「え?」
「いや、何か急いでたみたいだったからさ。
「え、ええ……。でも大丈夫です。無事に配達できましたから」
「そっか。よかった~」
ノアは
――変な人。
サラは内心、
「俺、女の子の《
お
「《
「そりゃ知ってるよ。そこまで箱入り
「では、あのとき湖にいらしたのも、何かの用事で?」
「いや、あれは単なる気晴らし~」
何とも脱力しそうな答えが返ってきて、サラは
「食べなよ食べなよ」
目の前の
――ああ幸せ……。
サラは黙ってぱくぱくとケーキやプリンを食べ始めた。その様子を、ノアは
「その
帽子を指さされ、サラは口を
「
この国では、茶色、黒色の髪の者が多い。灰色や、ノアのような金髪もしばしば見かける。が、白銀の髪は珍しい。とても目立つ。仕事の邪魔になってはいけないし、義父ビルからも髪を
言いあぐねていると、ノアは身を乗り出して言った。
「ね、《
「え?」
聞き返すと、ノアは
「興味あるんだよね。《送達士》と違って、依頼すれば
「はい。重量や距離によって値段は変わりますし、生ものや危険物は配達できませんが……書状であれば、
「王都や他の領国にも?」
「はい。王都アルマースであれば、サフィラスから五日ほどでお届けできます」
「すごいね。じゃあ君も、いろんな場所を行き来してるんだ」
「いえ、私は主にサフィラス内を担当しています。伝令所はサフィラスで設立されたので、サフィラス内での利用が一番多いんです」
あまりサフィラスを出たくない。そんなサラの気持ちを、義父ビルは理解してくれていた。
「手紙を出すときって、伝令所に持っていくんだよね?」
「はい。サフィラスには北と南に一つずつ、伝令所があります。そこに届けたい物を持ってきていただいて、料金をお支払いただく形になっております」
「取りに来てくれたら便利なのに。ほら、持って行けない人もいるしさ」
痛いところを突かれて、思わず苦笑いが浮かぶ。
「……《
ゆくゆくは、そういうサービスも始めたいという希望はある。だが、そもそも働き手は不足しているし、配達に不可欠な
瘴気とは、人間の放つ
通常、自然界に放たれた瘴気は、自然エネルギーである《マナ》によって自動的に
自然が浄化しきれなかった分を人の手で浄化するには、《
「教会がある土地は浄化されていますが、教会から離れれば離れるほど瘴気が濃くなります。これだけ瘴気が満ちている今、王都や領国を自由に行き来できるのは、《聖具》を持つ《
「何で? 教会の神官だから?」
「いえ、瘴気は《マナ》でしか払えないからです。その《マナ》を使うには《聖具》が要ります。だから《聖具》を持つ《送達士》は、国内を安全に行き来することができるんです。教会から離れた場所を《聖具》なしに行き来するのはとても危険なので、やりたがる人はいません。伝令が人手不足なのは、そういう理由です」
「なるほど……。なら、《
あっさりと言ったノアに、サラは
「……《
ノアは首を振った。サラは
「教会の《文書送達士》は、神官です。神官は王族に次ぐ高い身分です。《
「ノアでいいのに」
「いえ、自分の立場はわきまえています。世間では《
「でも、君はそうは思ってない。でしょ?」
じっと目を
窓から
「……な……にが……言いたいんですか」
かすれた声で問うと、ノアは静かに答えた。
「君は仕事熱心だし、《
――何で分かるの?
《
すると、ちょうど計ったようなタイミングで壁時計が時を告げた。外を見ると、西の空が
「私、そろそろおいとまします」
サラは
「ゆっくりしていけばいいのに」
と言いつつも、ノアは今度は強く引き留めなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます