1-3
そして、あの日がやってきた。十二歳の
「サラ。出かけるよ」
「どこに行くの?」
とサラは
「ほら、お前も服を着替えなさい」
と言われたが、サラはまともな服を持っていない。それどころか、その日の食事にすら事欠く生活だった。
「お父さん。本当にどこ行くの?」
前が見えないほどの
「仕方ないな。じゃあせめて、その
頭に手を置かれて、サラはびくっとした。降り積もった雪のような、白銀の髪。近所でも町に行っても
ブラシで髪をとかしていると、家の前に何かがやってくる音がした。車輪の音、馬の足音。そっと窓を
「早く来なさい」
びっくりしているサラの手を強く引いて、父は馬車に乗り込む。中にはランプが
すぐに馬車は走り出し、職人街を抜けてゆく。どうやら
ますますわけが分からなくて、サラは父の顔を見つめた。
「お父さん。私、今日、誕生日なんだよ」
父は
「ああ、知ってるよ。だからお父さんは、サラにプレゼントがしたいんだ」
とても変な感じだった。久しぶりに父が笑っているのに、ちっとも喜ぶ気分になれない。
――お父さんは、私の誕生日なんて忘れてたんじゃないのかな。
――私はただ、「おめでとう」って言ってほしいだけなのにな……。
馬車は規則正しい
「着いたの?」
サラは
「多分、道に車輪がめり込んだんだろう。
念を押してから、父は扉を開けて馬車を降り、運転台のほうへ向かった。
激しい雨は
――何だろう。
《マナ》だ。《マナ》が何かを伝えようとしている。
サラが
それが今、雨の
「早く貴族様の
「しかし、こうも
「
サラは息を
貴族。約束。屋敷。
あらゆる単語が、たった一つの
――お父さんは、私を……。
言い争う声が激しくなってきた。サラはかぶりを振って、耳をふさぐ。
「やめて……」
目から涙が
「もういい! 俺が馬車を動かす!」
「もうやめて!!!」
何かが
先ほどまで乗っていた馬車は
雨の音が耳に痛い。
「サ……サラ……」
父は
自分の両手が
サラは、自分が《マナ》を使ってしまったことを
「お父さんは私を売ったのね」
その言葉を口にしただけで、父の体は浮き上がったかと思うと、勢いよく
「そうなのね?」
「違う!」
父は首を振って叫んだ。
「サラ、何も説明しなかったのは悪かった。でも、これは」
「聞きたくない!!」
サラが首を振ると、馬車の破片が父の元へ飛んでいく。父は「ひっ」と悲鳴を上げて身を伏せると、両手で頭を
「お母さんは私を捨てた。お父さんは私を売った。私はあなたたちを絶対に許さない」
少し指先を上げるだけで、父を殺せることは分かっていた。声をかけられるのがもう少し遅ければ、そうしていただろう。
「おい、大丈夫か」
その声に、サラは我に返った。《マナ》の力が消え、発光していた体は元に戻る。
そこにいたのは、
「あ……」
サラはようやく、目の前の
「私……わたし……」
――お父さんを殺そうとした。
怒りに我を忘れ、《マナ》の力を暴走させてしまった。
父は傷から血を流し、小さくなってぶるぶる震えている。馭者は気絶し、馬車は粉々になっている。その姿を見ていると、取り返しのつかないことをしてしまったという
「お
作業着の男性に両肩を
だが、男性は力強くサラの肩を掴んだまま、サラの目を見つめて
「安心しろ。今助けを呼んだからな。怪我はないか?」
サラは首を振り、男性の服の
「助けて」
――もう、ここにはいられない。
家には帰れない。このままでは父や他の誰かを傷つけ、何もかもを
「お願い。私をここから
こうしてサラは、その日のうちに男性に連れられて王都アルマースを後にし、西の領国サフィラスへやってきた。
男性は《
こうしてサラは、《
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