一歩前へ
(1)
終業式の日、穂高は制服のスラックスの下部をバンドで縛っていた。裾が汚れないようにするためである。カバンを背に装着すると駐輪場に向かった。
この街では自転車を生活の足として使用する人は少ない。だが穂高には理由がある。長らく使っていなかったロードバイクにまたがると寮を後にした。なおこれにはこの時代ならではの折り畳み機能がある。これならUVで帰る時も簡単にトランクに入れて持って帰れる。
学校までバスなら八分、自転車で一五分といった距離である。日差しを受けてフレームが輝く、路傍の木々の緑深さは夏の訪れを告げていた。
目的地の橋が見えてきた。長さは六十メートル超で学校と街を結ぶ大橋である。下は道路と人口河川が並んでいる。
奏はもういた。こっち気づいて手を振ってくれる。彼女のもとへと急ぎ、手前につけた。
「ごめん、遅くなっちゃって」
「ううん、今来たとこ」
いかにも恋人らしい会話を交わす。この近くの路面電車の駅に奏のマンション近くから出る電車が止まるのである。だから、ここで待ち合わせしようと二人で決めた。一学期は今日で終わりだが、二学期からはずっとこうしようと穂高は考えている。
「それじゃあ、行こうか」
「うん」
さすがに自転車を押しながら手をつなぐのは難易度が高いので、できないがそれでも満足だった。この日常となるであろう世界を手にできたことがうれしい。ただそれだけ。そしてそれをいつまでも守っていきたい。心にそう誓うと、一歩踏み出した。
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