派遣の死神
梶バターレモン
死と生の狭間で
第1話
【プロローグ】
死神とは…西洋だと死を司る存在、魂の管理者。 東洋では人間を死に誘う、人間を死ぬ気にさせる。 あの世では死神は《ルビを入力…》すサラリーマンやOLの様な扱い。 各冥界や地獄の専属で働いているか、或いは派遣会社で働いている死神もいる。 とある死神について語ろう。 ・一 あの世にも神話によって種類が異なる。 また、各地獄によって制度や仕組みも異なる。 私が今働いている地獄は「日本」と言われる国の地獄だ。 書類を次の十王の一人、閻魔大王様の元へ届けにカートに入れてガタゴト揺らしながら向かう。 日本の地獄は地獄の主人/王、 一人だけが統治しているわけではない。 十王と言われる十人の王たち(複数人)が地獄をまとめ上げ、統治している。ので、最終的に裁判が終わるのが三年くらいかかる。 エジプトのような心臓を秤の上に乗せてマアトの羽より重たければアメミットと呼ばれる化け物に魂を喰われて終わる。というふうに、簡単に素早く裁判が終わる訳ではない。 地獄は複数人で行わない方が効率がいいのではと思うが実際はその逆。 ギリシアの冥界ではハデス様(冥界神)が一人で統治し、地獄逝きの魂を毎日忙しなく裁いている。 一人で統治していると仕事の把握はしやすいと思うが同時に効率も悪ければ冥界全てを把握するのは難しい。 と言って、日本には十王が統治しているがその十人だけで裁けるかというと無理だ。その為、日本の地獄では十王を補佐をする補佐官がそれぞれ専属している。 と、考え事をしていたら閻魔大王の様の部署に着いていた。 閻魔大王様と言っても読者が考える地獄で偉い巨漢な男性ではない。『閻魔大王』という役職名であり、何年かに一度交代しているのだ。 本名は別途であるらしい。 奥の玉座でだら~んとダラダラ怠けている人物こそが三代目閻魔大王様。脇の方にポツリとその補佐官は立っていた。補佐官たちは皆、プライバシーの保護の為自分の補佐している十王の番号が書かれた薄い目隠しみたいな布を付けている。 そこに居た補佐官の布には『伍』と記されている。この数字は仕えている十王の番号だ。つまりは閻魔大王様が五番目の裁判官ということにもなる。 閻魔大王様は私を見つけると声をかける。 「おっ! 妹ちゃんだ!! それ追加の閻魔帳? ご苦労様」「はい、ここに置かせて頂きますね」 私は書類の入ったカートを閻魔大王様の玉座付近に置いてそそくさと退散しようとする。 「待てや、兄に挨拶もなしに立ち去るつもりか? 愚妹(ぐまい)」 すると、閻魔大王様の傍らにいた補佐官『伍』私の方を掴む。止める理由はなんとなく察しがつく。 「妹にそんな言い方なくない?」 「アンタが仕事を早く終わらしていれば勤務内に終わんのに…なんだ、この体たらくは⁈」 閻魔大王様の補佐官伍は私の血の繋がった兄だ。兄は声を荒げて閻魔大王様を叱る。立場的には逆だが、理由も察しがつく。 三代目閻魔大王様は誰よりもサボり癖がある方だ。 そのせいで次に渡さないといけない書類や資料がまだ出来上がっていない。 その為、勤務外労働も時々あるとは兄から聞いた。 面倒ごとを嫌う兄のことだ。声を荒げるのも納得できる。 私は手伝いにここに来たのだから。 「はいはい、手伝いますよー」 何も文句言わずに書類作成を手伝う。 暫くしてから布に『壹』と書かれた布を付けた人物がこちらに来る。『壹』ということは一番目の王、秦広王(しんこうおう)の補佐官だろう。やっと増援が到着した。 「手伝いに来ました。何を片付ければよろしいですか?」 閻魔大王様は顔をパッと明るくし、彼が来ることを待っていたかのように歓迎する。 「助太刀来たー!!」 彼は兄の同期の補佐官。 私にとっては初対面の相手でもある。 ここでは補佐官の名前は伏せられているので、番号や仕えている十王の名前にプラスで補佐官と呼たりする。 「初めまして、死神派遣会社から来ました死神です」 そう、私には正式な名などない。しかたがないので、派遣会社で働く死神。つまり、わかりやすく言うと派遣会社で働く人/幽霊……そう名乗っている。 「まぁ、愚妹には名はない。気にしないでイイっすよ。テキトーに『派遣の死神』とでも呼べば」 相変わらず、兄は適当だ。秦広王の補佐官は納得してから自己紹介をする。布越しからでも胡散臭い作り笑顔が見える。 「そうでしたか、初めまして。貴女の兄から貴女のことは色々と小耳に挟みました。よろしくお願い致します。小野と申します」 秦広王の補佐官の小野さんはクスッと笑いながら丁寧に自己紹介をした。兄は私の有る事無い事を小野さんに言っていないといいけれど。 すると、小野さんは私の持っている済んでいない書類をひょいと取り上げた。 「勤務時間外ですよ、もう帰宅して下さい。後は閻魔大王さまと貴女のお兄さんと私で片付けますから」 小野さんは壁掛け時計に指をさして言った。 時刻は勤務時間をとっくに過ぎていた。兄はチャチャを入れる。 「いいんだよ、愚妹は手伝うのが好きなんだから好きに手伝わしとけば」 「いえ、それはとても良いことですが。 派遣会社や上層部に何を言われても大丈夫でしたら」 正論を言われ、兄は何も言えなくなってしまった。そうだ、私は正社員の兄と違って派遣社員だ。 扱いや時給も異なる。 「無理に付き合わせることはないよ。オレたちならきっと終わるだろ!ありがとう、妹ちゃん」 私は閻魔大王様にも礼を言われた。日頃の行いが積みに積んだ結果手伝わされたという状況なのに……。私はただ手伝いたかった。それだけだった。でも、嬉しい。 「どのツラ構えて何を言ってんるだ。ということだ、早く帰れ」 兄は呆れて言い放った。兄なりの精一杯の愛情なのだろう。 「それでは、失礼させて頂きます。お先失礼致します」 「「「おつかれー/お疲れ様です」」」 私は一礼してからその場を去って行った。 ・二 私は今晩泊まる宿を探していた。死神は住まいを持てない訳ではなければ金を所持することも可能。 だけど……私はあえて住まいを持たずにふらふらと廃墟や野宿をして夜を過ごしている。 契約期間だけ派遣された先の社宅で寝泊まりをしている。 何度も言うけど、派遣会社で働いている死神だけがこのルールに縛られている訳ではない。私がしたくてやりたくてやったルール。 私はのらりくらりと街中を彷徨っていた。今いる場所はマンションや新築の一軒家が立ち並ぶとある。団地の近くある、すべり台と砂場、ブランコのある小さな公園へとたどり着いた。 私はベンチへ座った。公園には砂場やすべり台で遊ぶ小学校低学年から幼稚園生くらいの子供たちが居た。ただ一人だけ仲間と一緒に居なかった少女が居た。少女はただただ、寂しそうにブランコでゆらゆらしていた 。 私はただ公園の光景を見つめていた……やっぱり、違和感がある。 時刻が夕方の四時過ぎからだんだんと子供がお母さんらしい人物に連れられて帰って行く。五時半を過ぎるとブランコの少女と私以外いなくなった。 私はその場から去ろうとするとブランコに座っていた少女がいつのまにか私のスーツの裾を掴んでいた。 「……帰らないで。ひとりぼっちにしないで」 私は目を丸くした。 何故なら本来、死神という私は人間に見えないはずなのだ。例外はなくはないけど。 私は屈み、少女と同じ目線で話をする。 「スモールレディー、おうちへ帰らないの?」 少女は首を横に降る。 「かえりたくない。 お姉さん、みおと遊んで!!」 私は少しの間考えてから答えた。 「お姉ちゃんを泊めてくれるならいいよ」 そもそも見えない私を家に入れても問題はないはずだ(多分)。少し意地悪しすぎたかな。 「うん!いいよ!!」 少女はあっさりと承諾してくれた。流石に申し訳ないと思ってくる。 「私、みお! お姉ちゃんは?」 みおはなんの疑いもなしに信じて受け入れた。子供だから純粋なのか、元から純粋なのかはわからないけど疑うことを覚えた方がいい気もする。名前を尋ねられてもそもそも私には種族名はあるけど名前はない。 「よろしくね、みおちゃん。 うーん、……死神だから名前ないんだ」 私は立ち上がるとみおは右手を引っ張る。 「お名前ないなんて、へんなの。それより、みおの家いこう?」 小さい身体で顔を上げて、目線を私に必死に合わせようとする。何故かその姿が愛おしくて可愛いらしい。 そのまま引っ張られて、連れて行かれる。やや乱暴で強引だった。 握っている手、腕は打撲のような紫がかった痣が見えた。 そのまま連れて行かれるままに公園をあとにした。 ・三 みおは道中、色々と質問してくる。 「お姉ちゃんはなんでスーツなの?」 確かに私はスーツのまま現世をふらふら散策していた。平日の夕方、公園でスーツ姿の女性は違和感を感じてしまうかもしれない。 「うーん、仕事帰りだからかな」 「へぇー、そうなんだ。 なんの仕事しているの?」 スーツのことは納得してくれたようだが、今度は私の仕事について質問してきた。子供はなんでも"なんで?"と気になるのかもしれない。もちろん、全てには理由はつくと思うけど。 「『派遣社員』ってわかる? 非正規雇用のOLなんだけど」 みおは首を横に傾き、純粋に答える。 「わからない!!」 それは当たり前と言ってしまえばそれで終わってしまう。ましてや、小学校低学年くらいの子供に難しい言葉を言っても理解できるわけではない。ましてや知っているはずがない。 「えっと……正式に雇われた会社員じゃなくて」 みあはまだ理解していなければ疑問がまだ消えない。むしろ余計に頭の中をはてなで埋め尽くしてしまったようだ。 「えっとね……会社と約束したわけじゃなくて会社を助ける会社に働いているんだよ」 社会で流れ的にわかることばかりなので説明する方は少々ばかり大変なのかもしれない。 「わかんないけどわかった!」 ようやく、みおは理解してくれた。 多分、ほとんど理解していないとは思うけど。 すると、みおの首元から何か透けているひものようなものがぶらりと見えた。同時に首には誰かが首を絞めた跡もクッキリと付いていた。 気のせいだろう……そう、思いたい。いや気のせいだ、まだ確証がないもの…。 その後、私はみおとなんの変哲も無い日常会話をして、みおの家に着く。みおの家は一軒家。建ってからそこまで経ってなさそうなほど綺麗で新しい造り方をしている家だ。 駐車場はあり、一台置ける。 脇の方にみおの物と思わしき子供用のピンク色の自転車とママチャリ、マウンテンバイクがある。 そして、小さな庭もある。庭には不自然に何かを埋めた跡があった。 「ここ、みおの家!!! 中入って遊ぼ?」 みおは私がみおの家に入ることを望んでいる。本当に良いのだろうか。死神は家主の許可がなくても入れるが、良心が痛む。 「うん、いいよ。でも、お母さんに言わなくていいの?」 私は良心に負け、親に許可を取るべきだと言い放った。大体、子供には主導権がない。 大概は親が勝手に決め、子は指示通りに動かされると本で学んだ。私は生まれてから親を知らないからわからない。 「いいの……ママは遅いしパパはしゅっちょで帰ってこない。まお、寂しい」 まおはぎゅっと自分の衣服を握る。 表情はどこか哀しげで寂しそうだ。親が居ない私でも理解できる様な気がする。 「そっか、ごめんね。 お姉ちゃんと遊ぼうか」 まおは嬉しそうに飛び跳ね、歓迎する。 「中入って遊ぼ!!」 まおは普通に中へ入る。私はすり抜けて中へと侵入する。歓迎されているなら決して不法侵入ではない……はず。 中へ入ると綺麗に整頓された靴箱とゴムベラ、犬の貯金箱がお迎えしてくれた。 当然、私は浮いているから土足でもいい気がするけど泥とか落としそうだから靴を脱いだ方がいいかな。 靴を脱ごうとした瞬間、違和感を覚えた。 あるはずのみおの靴がない。土足な訳がない。あれ、あの時靴は履いていたか? 違和感はそれだけではない。何か引っかかる。 だが、当人は居間でテレビを観ている。 すると、居間からみおの声がする。 「こないの??」私は返事を返す。 「行くよ、待ってて」 靴を脱ぎ、右手に持って居間へ向かう。 居間へ向かうとみおは自分の分と私の分の麦茶の入ったコップと側にはポテトチップスの入った皿がテレビから離れているテーブルに置かれていた。 「おまたせ、これは?」 「お姉ちゃんの分のおやつ」 私のために用意してくれたようだけど原則 死神はこの世の物を口にできない。さて、どう乗り越えるか。 「ありがとう、あとで頂くよ」 無難にこう対処するしかない。私の分はあとで帰宅した親が飲んでくれるだろう。 「そう? おかわりもあるからね」 みおは自分のお子様用のコップを取り、麦茶を飲む。 やはり、何かがおかしい。絶対、生きている者には付いてはいけないひもがゆらゆら揺らしながら付いている。 あのひもは……。 「ありがとう。みおちゃん、お家に飼っているペットか何か居たのかな?」 とりあえず、確信持てるまで遠回しから質問するしかない。 私は庭を窓越しから指をさして聞いた。 「えっ? なにも飼ってないよ。ママとパパがダメだって言ってたから」 キョトンとなぜ質問したんだという顔をしながらみおは答えた。 ペットの死体を埋めた訳ではないとなると8割型私の予想通りかもしれない。いや、推測だ。 あの中に… 「いつから庭に掘った跡が残ってたの?」 みおは再び困った表情をした。これは少々大変なことになってきた。 「あれ? 昨日まではなかったよ。昨日は外で…」 深刻そうな顔をして蹲ってしまった。やっぱりか、知らなかったんだ。 みおは何者かに首を絞められ、後に庭に埋められた。 恐らく、埋めた跡がわかりやすく残っているのは相手が計画的ではなく、感情的になり起こした犯行だと考えられる。 「みおちゃん、実は…」 私は思い切って言おうとした瞬間、兄が庭に突如として現れた。 そのまま透けた身体で家の中に侵入した。 「お、お兄さん…だぁれ?」 「そいつの兄だ」 みおは震えた。当たり前だ、突然知らない青年が不法侵入すれば恐怖するに違いない。悪化してしまった。 「おい、愚妹。詳しい事はあとでだ。担当の者を呼んどいた。作業の間、その子の相手をしてろ。できるよな?」 兄は私に近寄り、耳打ちをした。 私はコクリと頷いた。処理とはみおのひも……いや、生命もとい魂を遺体から切り離す作業の事だろう。 「みおちゃん、お兄さんはお姉ちゃんの兄で顔は怖いけど……悪い人じゃないから安心して」 みおは安心したのか元気そうに頷いた。 急に死んだ……いや、みおの場合は殺害された。 事故死などでよくあるケースだが、自分が亡くなったと知らずにフラフラと彷徨う霊。私達からの視点では亡霊と呼んでいる。 亡霊のほとんどは亡くなった/殺害されたことに気がつかず、いつも通りに過ごしているのが大半。それもそのはず、幽霊と違って実体がある。 「みお、何かわるいことしちゃったの?」 「ううん、そんなことないよ」 私はみおの質問に対し、首を横に振った。みおは何も悪いことはしていない。 みおを庭から遠ざかせる。 「お兄さん達は水道管の工事の人たちだから心配しないで。それよりお姉さんとあっちで遊ぼうか」 「水道かん工事ってなに?」 思わず、とあるドラマの言い訳を使ってしまった。そのドラマでは水道管の工事士と名乗って強盗に入ったグループがいた。それを思い出し、水道管工事と言い訳をしてしまった。 今思えば見苦しい言い訳だったかもしれないがみおは水道管の工事を深く理解していないようだった。 「いつも使っているお水の管のお掃除をする人たちのことだよ」 「へぇー」 軽く補足をしておいた。私も深くは知らない。恐らく、みおは理解していないようだ。 時より、窓越しから庭を覗いたが予想通りみおの遺体が発見された。みおにバレぬよう話の相手をしていた。みおはよく話せばよく笑う。人間の子供はそのような動作は比較的に多い。 私は種族的に子供の頃はほぼないに等しい。だから子供もよくはわからない。今日はちょっぴり知れた気がした。 兄らが作業を開始してから数十分経った頃。 「おーい!終わったぞ!! 愚妹、こっち来い」 庭から兄の叫ぶ声が聞こえてきた。みおと一緒にリビングへ行った。兄はちょいちょい庭の遺体がみおに見えないように立ち、イライラしながら 「全く、厄介ごとばかり持ち込みやがって」 「ごめんって」 「みおを送ってやれ、あと処理はこっちでやる。今日は泊めてやるから探さずに速やか(あの世)に帰れ」 と言い放った。兄はツンデレなのか時より優しくしてくれる。どっちらかというとツンギレか。私は適当な感謝をしつつ、今夜の宿が見つかった。みおの手を繋ぎ 「みおちゃん、逝こうか」 みおは不思議そうに首をかしげる。 「どこへ?」 「少し遠いところ。しばらくはお母さんとお父さんに会えないとは思うけど後から来るよ。きっとね」 言葉を濁しつゝ、みおを説得してあの世に案内しようとする。霊はこの世に長く滞在してはいけない。 「お姉ちゃんとならこわくないや。また、おかあさんとおとうさんにも会えるなら」 みおは納得してくれた。私の手を強くに握り返し、あの世に連れて逝った。 ・四 〜あの世、地獄〜 みおを賽の河原というあの世の河の河辺へ案内した。 「みおちゃん、辛いとは思うけど少しの間ここで過ごして欲しい」 みおはまた不思議がって質問をする。 「なんで? ここはどこなの? なんで鬼さんがいるの?」 何も説明しなかった私が悪かった。やっぱり、説明しないといけないのか。 「みおちゃん、よく聞いてね。みおちゃんは死んじゃったの。それでここはあの世」 もちろん、一回で理解してもらえるとは思っていない。みおはまさかの反応をする。 「しってた。 やっぱり、みおしんでたんだ……」 涙をポロポロ流しながら言った。 「そっか、知ってたんだ…」 「うん、みんなに話かけても学校行ってもだれも答えてくれなかったもん」 止まない涙。 ぽっかり空いた心。全て理解できるわけではないけれど実体のある幽霊で存在しているのに周りから見向きもされない。 その孤独は共感できる。 「上っ面だけで真に共感はできないけど、わかるよ。辛いよ……そこに居るのに透けてまるで居ないかのように振る舞われるのは哀しい」 みおの涙を胸ポケットに入れていたハンカチで拭き取り、落ち着くまで待った。すぐに受け入れられるわけがない。それが小さい子だからではなく、他の人にも当てはまる。 「みおはこれからどうなるの?」 「お地蔵様の施し(転生)を貰うまで石を積むことを繰り返す。でもね、鬼さんたちは倒す。それは意地悪しているわけではなくて、厳しくしているだけでみんな優しい」 みおが純粋に尋ねたので丁寧に教えた。まぁ、私以外の獄卒から似たような説明を受けるだろう。 「みお、がんばる! がんばっておかあさんとおとうさん…それとお姉ちゃんに早く会えるように石つむ!!」 子供はこんなにも純粋なのか。両親とそこに私が含まれていたのは嬉しかった。私の顔はニヤケていないのだろうか心配になってしまった。 「うん、たまに来るね。 がんばって会えるように。約束!」 「うん!!」 私は派遣社員……またここの会社(地獄)に来れる保証はないけれどプライベートで来るなら文句を言われない…………はず。みおと小指を絡めて指切りげんまんをしてから手を振り、その場を後にした。 ・五 私は後処理をしてくれた兄のいる元へ向かった。兄は閻魔大王様の部署に小野さんと閻魔大王様が一緒に居た。 「あっ! 妹ちゃん、おつかれ~。大変だったねぇ~、おかげさまで書類はさっきの子含めて終わったよ」 閻魔大王様は疲れきっていたが無理をしてにこやかに話してくださった。 返って、仕事を増やしてしまったのは申し訳ない。 「仕事を増やしてしまって申し訳ございませんでした!」 私は頭を下げた。 「本当にだよなぁ~、余分な仕事を増やしやがって」 兄はため息を吐きながら皮肉たっぷりに言った。最も兄らしいなと思う。私は頭を上げた。閻魔大王様は全然気にしてないように言う。 「大丈夫だよ、結局は回収しなくちゃいけない魂だったし♪あっ、概要読んだ? 壹くん、見して上げて」 「あの様な亡霊は地縛霊になりやすいタイプでしたので結果的に回収が早くて良かったです。こちらがみおさんの閻魔帳の概要です」 小野さんは持っていた閻魔帳の一部を渡してくれた。恐らく、みおの書類だろう。 閻魔帳にはこう書かれていた。 【名前 : 上原 澪 性別 : 女性 享年 : 7 概要 : 母と父の3人家族。 父は出張ばかりで常に家に居らず、母と二人暮らしに近かった。 母は父が居ない間にストレスの発散に娘の澪を殴っていた。ある日、澪の首を絞め、自宅の庭に埋めて仕事に出かけた】 現実は無慈悲だった。知ってはいた。 「ありがとうこざいます」 私は閻魔帳を渡し、秦広王の補佐官さんはカートに乗せ、ポツリと呟く。 「真面目ですね。どこかの誰かさんとは大違い」 隣にいた兄は拗ねた表情をしていた。自分のことだと認識はしているのだろう……きっと。兄は対抗して愚痴を吐き捨てた。
「にしてもあれだな。 働くのが嫌で死んだ奴がいんのに死んでも尚、働くってのは皮肉だな」 それを聞いた閻魔大王様は横目で見ながら 「あの世で働く獄卒は自分の罪を償う為に働くんだよ。忘れた?妹ちゃん並みに働かないと転生できないよ。まぁ、オレもそうだけど」 兄は舌打ちをして納得せざるを得なかった。 十王、補佐官含め、あの世で働く獄卒達は自分に課せられた罪と罰について悔い改める為にあの世で働いているらしい。 「それより、部屋来るんだろ。早く行くぞ」 「うん、それでは失礼します」 私と兄はその場を離れ、部屋に向かう。 亡くなってしまったらこの世とあの世がくっきりと別れる。亡霊も幽霊も霊は等しくこの世に関わってはいけない。私達(死神/妖怪)も例外ではない。 今回の件もみおには孤独面では共感したが全ては共感していないし同情するつもりもない。密接に関わってはいけない。深くは考えないし知らなくてもいい。獄卒として死神としてそれが使命だ。
派遣の死神 梶バターレモン @raimu2355
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