第25話 Eランク試験、再び
とうとう冒険者ランク、Eランク試験がやってきた。
ここ半年間の記憶がないが、俺たちは成長したはずだ。……結局、最後までニーナたちには勝てなかったけど。
き、きっと大丈夫なはずだ。俺も若干だが魔力も増えた。ロムも剣術が上達した。ハンナに関しては、魔力も増えて剣術も上がり新しい属性魔法も覚えた。『ファイヤーアロー』って言うんだが、名前のまんまで火の矢が飛んでいく。『ファイヤーボール』よりかは、一発の威力は低いが命中精度と連射速度が早いのが特徴だ。
……あれ? 俺とロムあまり成長してなくね? ハンナの成長が著しいんだけど……?
「よし、二人とも来たね。今回の試験内容を説明するよ。ちゃんと、聞いていてね」
試験のために西の門に集合した俺とロムに、マルクスが話し始める。
……あれ? ハンナが成長しても、俺とロムの今回のEランク試験には関係なくね?
「ちゃんと聞いてね、って言ったそばからラードくんはなんか複雑そうな顔をして聞いてないね……どうしたの?」
「これは、大丈夫なのかなと思って……」
ロムと二人って正直不安でしかない。
「嘘……ラードが変なとこで心配するなんて僕は思ってなかったよ」
ロムは、心外なことを俺に言ってきた。面倒くさがりな俺でも不安な時は不安だ。ロムと二人での試験なんて本当に不安でしかない。
「よし、ロムは盾だ。俺をちゃんと守るがいい、ロムの後ろからちょこちょこっと俺は魔弾を撃って削るから」
「あの威力の低いので? ……それって何時間かかるの?」
「……1体につき、1日」
「僕がもたないよっ!」
「大丈夫大丈夫。ロムも隙あらば、チクチクって攻撃してくれ。そしたらちょっとは早く終わるから」
「ちょっとでしょ!? 僕だけやること多くない!?」
「……気のせいだ」
ロムはうるさく言っているが、俺はやる時にはやる男だぞ?心配するな。
「あ、いま本気で僕を盾にしようって考えたでしょ?」
「な……なんのことだか」
……俺はやる時にはやる男だ。
「まぁまぁ、二人とも落ち着いて。今回の試験は、前のギガントウルフよりもたぶん簡単だから」
マルクスが俺たちにそう言った。
「……たぶんってなんだ?」
「ハハハ」
笑って誤魔化された。答える気はないらしい。
「どんな試験なんですか?」
ロムはマルクスに聞いた。問題は試験内容だな。
「今回の君たちの試験内容は、西の王都……アインに、2人で協力して行ってもらうというものだ」
「西の王都? あの漁業が盛んで有名な?」
「そう。ただ行くのもなんだし、ギルド長からアインのギルド長あてに手紙を預かってきてるから、それを届けること。いいね?」
「あ、はい」
ロムがマルクスから手紙を受けとる。……西の王都かぁ、遠いなぁ。
「ラード、何かとても面倒くさそうな顔をしてるね」
ロムが俺の顔を見て呆れた様子だったが、関係ない。西の王都は遠い。この町から歩いて約3~4日ぐらいかかる。
意外と近いじゃんと思うかも知れないが、忘れてはならない、この世界は1日が24時間じゃなく30時間ある。その上で、1日歩き続けて約3~4日かかるのだ。もちろん片道で。
おまけとして道中、魔物が出てくるだろう。ギガントウルフほどではないが、今の俺とロムでは中々な難易度になってると思う。
はぁ、何が「たぶん簡単」だ……おもいっきり面倒な感じしかしない。
「お、珍しい声がすると思ったら、マルクスとあの時の新人たちか。どうした、こんなところで?」
俺が試験内容を聞いて落胆してるところに、初めてのサラメント草採取のときに出会ったゲーツが現れた。今日も振り回すのが大変そうな槍を持っていた。
「あ、こんにちは。僕たちのランク昇格試験です」
「なるほど、昇格試験かー。それでギルドの引きこもりのマルクスがここにいるわけか」
「僕は引きこもりじゃない。仕事が多いだけだ」
「とか言って、冒険者家業をサボってるだけだろ~?この間もギガントウルフ程度でケガしたって聞いたし」
「うっ……なぜそれを」
マルクスがゲーツの言葉に驚いていた。そう言えば、この二人は同期って言ってたな。
「……ニーナ先輩がばらしにきたからさ」
「なにやってるんですか、あの人……よりによってゲーツになんて」
「ぷぷ、恥ずかしいな、お前がまさかギガントウルフ相手にケガをするとか、笑える」
「くっ」
マルクスの珍しい表情が見れた。よし、もっとやれ。
「体なまり過ぎじゃないか?同じランクとして心配するな~」
「……お前は昔から僕に心配なんてしてないだろ」
「さすが、マルクス!わかってるな!」
「はぁ……さっさと話をすませればよかった」
マルクスはため息をついていた。それを見てゲーツは楽しそうだ。
「まぁそう言うなよ、ギルド引きこもりのお前に久々に会ったんだからよ」
「だから僕は引きこもりじゃないって」
「ハハハ」
「笑って誤魔化すな!」
マルクスがゲーツにそうツッコんだが、俺もさっき笑って誤魔化されたような……。
「今回も試験官としてマルクスさんがついてくるんですか?あと、僕たち西の王都に行く準備を何もしてないんですけど……?」
ロムが疑問に思っていたことを聞いた。野営の道具なんて俺たちは持っていない。むしろ、持ち物といったら自分の武器ぐらい。この装備では軽装過ぎると思う。
「準備は大丈夫だよ、ギルドが準備したから。ほらそこに」
俺とロムはマルクスの指をさす方を見た。そこには荷物が詰まったリュックが置いてある。あれを持って王都に行くのか……?
「多過ぎません……?」
「わざと多くしてあるんだよ。必要な時にちゃんとその必要なものを選び出せるか見るためにね。あと、旅に必要ないものは何かを考えさせる意図もある」
「な、なるほど」
「ま、普通はアレの半分くらいだがな」
ゲーツが荷物を見てそう言った。ということは、あの荷物の半分はやはり重しでしかないらしい。
「またマルクスの嫌がらせか……」
「いやいや、今回はほかのギルド職員が考えたことだから。僕は関係ないよ」
俺の呟きにマルクスはそう答えるが、本当にそうなのかはわからない。俺たちに嫌がらせすることを生きがいにしている節がマルクスにはある。絶対にだ。
「それと今回は、僕じゃなく他の人に試験官を頼んであるよ」
「なんだ、ギガントウルフでケガしたから試験官できなくなったのか?」
「だから、違うよ! 僕は今回別の仕事で忙しいの! どっかの先輩ギルド職員が書類仕事しないから!」
「なるほど、タスマン先輩か。……俺も書類仕事だけはしたくないなぁ」
すぐに特定される辺り、本当に書類仕事をしないんだろう。しかし、誰だ、今回の俺たちの試験官になる人って。
「……フフフ、待たせたね。少年たち!」
上の方で誰かの声がする。顔をあげると、門の上に人影が立っているのが見える。
「今回、試験官になるのは私だ……『フラワーズレイン』!」
俺たちの頭上から水の花々が舞い降りてくる。
「とうっ!」
謎の人物が降りてくる。
「シュタッ! ……私は、遊泳の魔術師、ニーナ・ファーベル! 今回の君たちの試験官になる者よ!」
パチンとニーナは指を鳴らした。すると、頭上から降っていた水の花はゆっくりと雨に変化して俺たちに降り注いだ。
「やったぁ! 今回は成功!私は濡れなかったわ!」
俺とロムはずぶ濡れである。マルクスとゲーツはニーナの声がした辺りからすでに屋根のあるところに移動していた。後輩として慣れているんだろう……何にとは言わないが。
「へっくしゅん……」
ロムのくしゃみが響いた。この時期の雨はまだ冷える。たとえ夏がもうすぐだとしても、そんなことは関係なく雨は雨なのだから……。いや、そんなことよりも俺はもう……帰りたい。
結局、俺とロムは一度家に帰った。ロムは水遊びをしたと母親に勘違いされて、怒られたらしい。まったくのとばっちりである。
「母さん、そういえばライトはどうしたの?」
「え? パパに預けてきたよ?」
「……父さん、困ってなかったか?」
「うん、驚いていたから成功だと思う」
何が成功なんだ。
「ニーナさん、やっぱり普通に登場したらよかったじゃないですか……」
俺たちが着替えて戻ってきたら何故かハンナがいた。
「それじゃ面白くないじゃない!いい?ハンナちゃん、女の子っていうのは華やかじゃないとダメなの!わかる?」
「わ、わかりませんけど……」
どうやらハンナはニーナ登場時からいたようだ。
「なんでいるの? お前」
ハンナに聞いてみる。
「ニーナさんにいきなり連れてこられたのよ……せっかくの休みだったのに」
可哀想に、御愁傷様である。
「……思ってないでしょ!」
「なんだ、お前。俺の心が読めるのか!」
「顔に書いてあるわよ!可哀想にって!」
また気持ちが顔に出ていたらしい。いやー正直者はつらい。
「ふん!」
ハンナはそっぽ向いてしまった。
「結局……いつものメンバーになったね」
ロムが苦笑いながら言った。
「さぁ君たち! 冒険のはじまりだぁ! 荷物を持てぇ!」
ニーナは何が楽しいんだが知らないが、俺たちの周りをぐるぐるとまわっていた。犬かっ!
マルクスは俺とロムが着替えに行ってる間にニーナに任せて帰った。ゲーツは壁に背をつけてこちらを楽しそうに見ていた。
「変わってないな、ニーナ先輩は」
見てないで、このはしゃぐ大人を止めてほしい。
「急がないと夕方になるよ!さぁ急いで急いで!」
……誰のせいで遅れたと思っている。
「あ、私は今回試験官なので、ラードちゃんとロムくんの手伝いは出来ないからね!ハンナちゃんは私の話相手だから二人を手伝ったらダメだよ? あとこれね」
「なんですか?」
ハンナはニーナから紙を受け取った。
「Eランク向けの魔物の討伐リスト!ギルドの依頼を受けておいたよ!」
「え、私なにも聞いてないですが……」
「バラしたら面白くないでしょ?」
「……私、今日休みなんですけど?」
「冒険者は日々修行だよ!」
ハンナは絶望の顔になった。ははは! ざまーみっ――。
「――うぐっ!」
俺はハンナになぐられた。……え、なんで?
「……顔に出てたわよ?」
睨むようにハンナが俺を見ていた。恐ろしい。
「ほらほら、イチャイチャしないの」
「してません!」
どうやらニーナには今の光景が、俺とハンナでイチャイチャしているように見えたらしいが、どうしたらそんなふうに見えるのだろう。不思議でならない。
「ラードちゃんもいつまでも悲劇の乙女みたいに座り込んでないで、冒険に出発だ!」
ニーナは先に門から街の外へ出ていった。普通、試験官が受験者を置いて先に行くか?
「と、とりあえず行こう!二人とも」
ロムが、俺とハンナになんと声をかけていいのかわからないといった表情を浮かべながら言った。俺自身もなんと言ったらいいかわからないよ……自分のことなのに。
「気をつけてな」
ゲーツは終始、楽しんで見ているだけだった。
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