第24話 能力=スキル

 ある日、午後の依頼が終わった後、マルクスが俺だけをギルドの空き部屋に呼び出した。


 なんの話だろうか、またよからぬことでも企んでいるのだろうか。恐ろしい…。


「……何をそう身構えているのかわからないけど、とりあえず座って」


 警戒しつつ椅子に座る。……どうやらこの椅子には仕掛けはないようだ。


「ラードくんがどれだけ僕を信じてないのかよくわかるよ…」


 日頃の行いだろ。


「今日、君だけをここに呼び出したのには訳がある」

「……面倒な依頼か?」

「いやそうではない。君にとって重要なことを言わなくてはならないと思ってね」


 それは今日だけじゃない気がする。


「ハハ、そんな睨まないでよ。話しにくいじゃないか」


 知らないうちに気持ちが顔に出ていたようだ。


「それで話さないといけないこと……とは?」

「そうだね、もうそろそろ話してもいい頃合いかなと思ってね……君の能力について」


 何? 能力ってことは何かすごいことができる力を持ってるってことか?

 でも、今のところ何も実感はないが…。


「この世界にやってくる転生者たちには特殊な能力を一つ以上持っているって、最初に会ったとき話したよね?」

「そういえばそういうこと言っていたな」

「それでさ、僕は人の能力をある程度見ることができる能力を持っているんだ」

「…鑑識、鑑定みたいなことか?」

「正解。よくわかったね」


 転生ものでよくあるやつだな。常識ってやつ。


「最初、君たちに会った時点で、すでに僕はある程度君たちの能力を把握したわけなんだけど…聞きたい?」


 まどろっこしい……最初から聞かせるつもりで呼び出したんだろ。


「待て、俺たちの能力を知ってながら冒険者をやめさせようとしたってことは」

「……そう、ラードくんの能力は冒険者向けの能力ではないよ。あとロムくんやハンナちゃんもあの時点では冒険者に関する能力は持っていなかった」


 どんな能力なんだ、俺の能力ってやつは。

 

「あの時も言ったように僕は君たちが無茶な特訓をやり遂げるとは思っていなかった。子供だからさっさと逃げ出していてもおかしくはない。それなのに君たちはやり遂げた」


 マルクスは興味深げに俺に話しかけてくる。


「僕の能力は、正確に言うと、人の持つスキルを見ることができるというものだ。スキルは生まれながらに持ってるものや生きているうちに身につくものがほとんどで、レベルや熟練度なるものが存在する。僕は見たことはないけど、僕よりレベルが高いか、もしくは熟練度の高いスキルを持っている人だとスキル名の横に数値が見えるらしい。僕はスキルの名前と簡易な説明ぐらいかな」


 まるでゲームのようだな。異世界に来てる時点でなんでもアリな気もするが。


「スキルにはまだまだ秘密があるけど…わからないことだらけだね」

「マルクスは元からそのスキルを持っていたのか?」

「いいや、これは人を観察していたらいつの間にか目の前に文字が現れて。それが見ていたものの持っているスキルだと気づいてわかったんだ」

「人を観察って……のぞきか?」


 マルクスは呆れた顔した。


「なんでそうなるの……まだ冒険者になりたての頃は僕も苦労しててね。訓練生時代の教官もニーナ先輩だったからめちゃくちゃで冒険者なんて向いてないじゃないかと思ってた頃だった。尖った特徴のない僕は他の冒険者から何か学ぼうって必死だったんだよ」

「つまり、男を見ていたと」

「……なんでそんなにのぞきみたいにいうかな?」


 話が脱線した。させたのは俺だけど。


「とにかく、僕はギルド職員としてこのスキルを使って新人の能力(スキル)の見極めをしているわけ、わかった?」

「マルクスが人をたびたびチラ見していたことはわかった」

「それじゃ僕が変態みたいじゃないか……はぁ」


 しまいにはため息をつかれてしまった。


「で、君のスキルに話を戻すけど」

「使えない能力なんだろ?あまり興味がわかないんだが」

「そんなことはないよ。でも、冒険者にはあまり使えないかなってだけ」

「?」


 マルクスはあらたまって姿勢を整えて俺に向かって真剣な表情を見せた。なんだ急に。


「使い方によっては強力かも知れない。僕もそのスキルは今まで見たことがない特殊なものだ」


 そ、そんなチートな能力が俺に?


「場合によっては他の転生者たちと同じように世界を狂わせてしまうぐらい強力なスキルとも言える」


 マルクスがどんどん俺の持つスキルの株をあげる。

 なぜそんな重要なことを知らずにきたんだ、俺!


「その能力の名は『真実の眼』…嘘、偽りを見通す能力」


 な、なんだってぇぇぇぇ!!!

 もうすでにこの世界に来てから八年たってはじめて知らされる真実。

 そんななんとも言えないリアクションをとっていた俺を見て思わずマルクスは笑い出した。


「ぷっ! ハハハ! やっぱり驚いたね、ラードくんはすぐに顔に出るから分かりやすかったよ」


 うるさい、こっちは普通に驚いてるんだ。水を差すんじゃない。


「あと、実はこのスキルはすぐに使えるものじゃないよ」

「なん……だと……」


 心の中でスキル名を連呼していたのがわかったのか、マルクスは笑いながら俺にそう忠告する。


「君のスキルは特殊って言ったでしょ?」

「……どうすれば使えるんだ?」


 内心わくわくしている。異世界最高ー!


「魔力だよ。魔力を使うんだ」


 魔力だな、わかった! ……うぉぉぉぉ!


「いつも以上に気持ちが高ぶってるのはわかるけど……今ここで魔法を発動させないでね。ニーナ先輩に似てきてるよ」


 ……ニーナに似ていると言われてふと正気に戻る。


「気持ちの切り替えが早いねー。普段のラードくんにすぐ戻ったよ、どれだけニーナ先輩に似ているって言われるのが嫌なのかわかるね。…ニーナ先輩は今頃涙目だね」


 知ったことか。俺は早くスキルを使いたいんじゃ。


「……どうやってスキルを使うんだ?」

「うーん、スキルの説明には魔力を使うってしか書いてないからー。……目にでも魔力を貯めればいいじゃないかな?」

「なるほど」


 試してみる。体にめぐる魔力をイメージで目元まで持ってくる。すると自然と魔力が消費されるのを感じる。


「どう? どんな感じ?」

「妙な感じだ……魔力を流せばながすほど魔力が消化されていく……」

「そうなんだ、じゃあ試してみないとね。えーと、嘘とかつけばいいのかな?そうだなー……」


 俺は魔力を目に流した状態でマルクスのことばを待った。


「実は僕は……性別は女でした」


 その言葉を聞いた瞬間に俺の目に激痛が走る。


「うがぁぁぁぁぁぁ!目がぁぁぁぁぁ!」


 床に目をおさえて転げまわる俺。


「ど、どうしたの! ラードくん! そんなに僕の言ったことが気持ち悪かった?」


 そういうことじゃねぇ! 今ものすごく目が痛いんだ! わかれっ!


「もしかして、嘘だったから目が知らせたのか……これはすごい能力だね! ラードくん!」


 言ってる場合か! 早く、救護班をぉ!







 …それからしばらく休憩してスキルを試行錯誤した。時間が経つと痛みはひいたが、気持ちはどんよりとした。


「使えねぇ……」

「そんなことないよ、ラードくん。君の持っているスキルはどんな嘘でも見破るみたいだから強力だよ」

「激痛がなければの話だろ……」


 あれから何度かスキルを使った。

 痛みの度合いは嘘の度合いに比例するらしい。全くの嘘に俺のスキルを使った場合、最大級の激痛が俺を襲う。軽い嘘ぐらいはぴりつくぐらいだった。


 目で見ずに声を聞くだけだった場合、スキルは発動しなかった。スキルを発動したいときは声を発している相手を視認しなければいけないようだ。


 お世辞にも使える能力とは思えないんだが。


「対人専用だね」

「戦闘中に会話するだけで俺の体力はゼロだわ!」

「使い方次第だよー」


 他人事だと思いやがって。


「痛みになれれば大丈夫だよ」

「目ん玉取れるかと思ったんだぞ!」


 俺はドMじゃない!


「特殊で、使えるスキルだと思うけどね」

「……特殊で、変態を育てるスキルじゃないか」


 使いこなせる気がしない……。異世界サイヤク……。


「そもそもなんで今になって、俺の持つスキルを教えようと思ったんだ?」

「それは君たちが魔法を覚え始めたからね。魔法を使うためには魔力が必要だからね、いい機会かなと思って」

「なるほど…」


 マルクスの言ってることは間違ってはいないが…間違っているのは俺のこの能力か。もっと他のやり方で嘘を知らせられるだろ。


「まぁそのスキルを使って、今後の冒険者生活も頑張って。二回目のEランク試験も近いしね」


 ……このスキルを試験でどう使えと?

 目ん玉とれるよ、次は絶対。







 次の日、午前中。

 朝の訓練の担当としてカーベラが来ていた。

 未だに、ニーナ相手のときと同様、俺たちは一回も攻撃を当てられずにいた。いつもながらすでにぼろぼろだ。


「ふふ、今日は吸血鬼特有の魔法をあなたたちに見せてあげましょう。……『イリュージョン』!」


 三人のカーベラが俺たちそれぞれの目の前に出現する。

 うぇ……幻術魔法かよ。えげつねぇ。


「さ、これで一人が一人を相手にしなきゃいけなくなりました。考えて行動してください」


 朝の訓練でお馴染みの無茶振りがやってきた。

 なんでこうも無茶なことばかりさせるのだろうか、冒険者ギルド関係者は…。


 俺は、俺の前のカーベラを見据える。こいつは一人ですでに俺たち三人分以上の力を持っている。正攻法ではまず勝てない。


「なら……!」


 目の前にいるカーベラに走って向かう。


「あらあら、ラードくん。どんな時も落ち着いて行動しないと痛い目にあいますよ?」

「……分かってるよ! だから!」


 目の前のカーベラを通り過ぎてハンナの前にいるカーベラに切りかかる。


「おっと」


 その瞬間にカーベラは後ろによけた。


「ロム! 他の二人も消えた! どうやったの!?」


 ハンナの言葉でわかったが、どうやら他の二人のカーベラが姿を消したらしい。だが、俺に周りを見渡す力はない。


「すごいですね、一発で私の本物がわかるとは」


 カーベラも驚いてる様子だ。しかし……。




カラン……。



 俺は握っていた剣を地面に落とした。限界だ……。


「……うがぁぁぁぁぁぁ!!!目がぁぁぁぁぁ!」


 昨日と同様、俺は床を転げまわったが、当然、他の三人には事情が分からない……俺を見て呆然としていた。







 もぅカッコつけてスキルは使わない……!

 そう心に決めて、今日も大好きな地面の上を転げまわるのだった。

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