第14話 役割
次の日から、本格的な魔法の特訓も始まった。
「うーん、魔力をドバーって感じで出してみて!」
ニーナの説明は、相変わらずだった。
最初の魔力を感じること。
これが出来たのは、ハンナが最初だった。次に俺で、最後にロム。
不思議な感覚だった。
集中して意識しないとわからないような、流れる何かを全身で感じた。前世の世界では、感じたことのない感覚だった。
でも、少しでもその集中が途切れるとその感覚はなくなって、いつも通りの感覚に戻った。
「イメージだよ、イメージ」
ニーナの言葉を最初は疑ったせいか、ハンナよりも気づくのが遅れてしまった。
「うーん、ロム君はねー。魔法使いさんとかには、向いてなさそうだね。器用に動いたりするのが上手だから剣士になった方がいいと思うよ?」
「は、はい……」
ロムは、元々魔力がそんなに多くなかったらしい。一番、魔力を見つけることが遅れていた。
「ラードちゃんも、ハンナちゃんも、正統派の魔法使いさんに向いてはなさそう。いっぱい魔力コントロールをしたら、出来なくないけど気づいたらお年寄りになってるかも?」
どうやら、俺たちも魔法使いには向かないようだ。
「魔法使えたら、魔法使いじゃないのか?」
「一応、魔法使いさんなんだけど、魔法を主軸にして戦う正統派の魔法使いさんになるほどの魔力は、三人ともなさそうだねー」
「そうなのか」
「でもね、落ち込まなくても大丈夫! 二人は、私のように魔法剣士の素質があるから!」
「そうなんですね…」
「あ!ロム君!君にも、ちゃんといいところはあるよ! 落ち込まないで!」
「いいですよ……僕は才能とかないんで……」
「あーあ、母さん。ロムのこと、落ち込ませた。かわいそ」
「そんなつもりで言ったわけじゃないよー! ラードもそんなこと言わないでよー! 剣士には、剣士の強さがあるだよ? 本当だよ?」
「……本当ですか?」
「本当だよ! ……ちょっと待っててね!」
ニーナは、急ぎ足で訓練場の入り口から出ていき、しばらくするとマルクスを連れて戻ってきた。
さすがに、落ち込んでいるロムの顔を見たら自分で適当に済ますわけにもいかないと思ったのか、マルクスを連れてきたようだ。
「ちょ、ちょっと! なんですかニーナ先輩! 首の裏を引っ張らないでくださいよ! あと、僕まだ午前中のギルドの仕事終わってないんですけど!」
マルクスらしからぬ、慌てっぷりだ。
「マルクス君! はい! ここで、冒険者としての役割の説明!」
「え! なんです?」
「剣士とか魔法剣士とか!」
「あぁ、ジョブですね」
「そう、それ!」
「……なんでジョブって言葉が出てこないですか。習ったでしょう」
「試験とかだったら、解けるから大丈夫」
「はぁ……ジョブというのは、戦闘時やダンジョン攻略時の役割的なクラスのことです」
マルクスは、諦めたように話始めた。
「基本的には、剣士、魔法使い、僧侶、弓使い、槍使い、重戦士などクラスがあります。他にも、沢山ありますけど省略します。でも、そのジョブがどうしたんですか?」
「剣士と魔法剣士について聞きたいです……」
「剣士と魔法剣士? なんでまた?」
「ニーナさんが言うには、どちらにも利点があるらしいので僕が教えてほしくて」
「……なるほどなるほど。ニーナ先輩が、僕を連れてきた訳がわかりました」
ニーナは、何のことだかわからない風に吹けない口笛を吹いていた。
「はぁ……剣士は、剣術を駆使して前線で戦います。魔法剣士は、剣術もそうですが魔法も使って遊撃をメインに行うジョブのことです」
「魔法剣士の方が、剣士より強いんですか?」
「戦闘ではあまり差がありません。魔法剣士は魔法も使えますが、魔法使いほど魔法に威力がないため決定打に欠けますし、剣士ほど剣術が巧みでもないため最前線で戦うことはあまりありません」
「そうなんですね、それなら、僕も強くなれそう…」
ロムは、少し自信を持てたようだ。
「それでも、ニーナ先輩は魔法剣士でBランク冒険者ですけどね」
「すごいでしょ!」
ニーナは、俺たちに向かってピースを見せた。
……またロムは、自信を無くした。
「僕は、魔法も少し使えますが戦闘では剣士をメインでやっています」
「それで、冒険者ランクはCランク」
「…うるさいですよ、先輩。あなたは、ただ規格外なだけです」
「あ、今先輩を化け物みたいな目で見たな!この!」
「うわぁ! ……危ないなぁ、いきなり殴らないで下さいよ。顔が腫れて、朝の業務に支障が出たらどうするんですか?」
「そんなに、強く殴ってないよ!」
これは、ニーナが説明しなくて正解だったな。魔法剣士であるニーナがどれだけ剣士の良さを説明しても、説得力なかったし。
「あと、魔法を使えたら方が有利な場合もありますが、連続戦闘になりがちなダンジョン攻略などでは魔力の枯渇で魔法使いは魔法を使えなくなったりします。場所によっても、ひらけた場所でない限り、上級魔法さえも使えませんからね」
「場合によってはお荷物ってことか?」
「いや、そこまでは僕も言ってませんが……」
全く、あなたたち親子ときたら……と、マルクスにニーナとひとまとめにされた。とても心外である。
「ジョブに関してはこんなとこですね。完全に自分のジョブを決めるってことになると、まだまだ先の話になります」
「どういうことだ?」
「今やってる、魔力コントロール然り、いろんなことの努力次第ってことです。では、僕はギルドの仕事が残ってますから戻りますね。ニーナ先輩」
「ご苦労! マルクス君!」
ため息をつきながら去っていくマルクス。
マルクスは、ニーナを見るたびにため息をついてる気がする。
俺たちも、魔力コントロールの特訓に戻っていった。
それから、しばらく経ったある日のこと。
魔力コントロールで何とか手のひらに小さな半透明な球体を出現させた。
「やっと……できたね……」
魔力の少ないロムは、満身創痍である。
「あぁ……こんなに難しいものだとは」
俺は、小さくても目の前に現れた魔力を塊をじっと眺めた。
「そう? 慣れたら簡単だと思うけど?」
一番慣れの早いハンナは、半透明の球体のサイズを調整し始めているようだった。天才ってやつか、お前は。
「……あのう君たち、僕の話を聞いてもらえるかな?」
今現在、午後マルクスの勉強会中だった。
前日に、1ヶ月ごとの定期的サラメンド草の採取依頼を受けていたので、俺たちはマルクスの勉強会をボイコットする予定だった。
「でも、ニーナさんのように上手く魔力を、片手から片手に移せないね」
「難しいらしいからな」
「あのぉ……」
「でも、私はこんなに魔力の球を大きくできるわ!」
「おおすげぇ、母さんより一回り小さいけどちゃんと出来てやがる」
「一回り小さいは余計よ!」
「……聞いてる?」
マルクスはため息をついた。
「仕方ない。実技の担当じゃないけど、僕の話を聞いてくれるんなら、属性操作の方法を教えてあげよう」
「……属性操作?」
しまった……俺が反応してしまったせいで、マルクスがニヤリと笑った。
「そう、属性操作。魔法には、基本となる四属性があるって言ったでしょ?」
「火、水、風、土でしたっけ?」
ロムやハンナもマルクスの話に食いついてしまった。
「そうだよ。まず、火」
マルクスは、そう言うと手のひらで火花を散らした。
「次に、水」
少量の水が、マルクスの手から地面へこぼれ落ちる。
「次に、風だね」
水の落ちた地面に向かって、手をかざすと小さな風が起きて水が乾いてしまった。
「次に、土なんだけど。地面を少し盛り上がらせて座る場所を作るときに楽なんだけど、ここではできないから省略するね」
どれも、魔法として便利なのは確かだ。
「でも、属性の魔法が使えるのは基本どれか一つじゃないんですか?」
「これは生活魔法って言って、魔力コントロールができる者なら誰でも使える便利な魔法なんだ。基本、冒険者は野宿することが多いからね」
「なるほど」
「さて、いつも魔法コントロールで出している魔力を無属性魔法って言うんだけど、こんな風に便利な魔法を覚えるには属性操作を覚えないといけない」
「……つまりは?」
俺は、乗せられていると知っていながらも、別の魔法が使うことに興味がわいた。
「……つまりは、僕の話を聞かないと教えてあげないってこと」
マルクスは、いつものニコニコをした。
完全に俺たちはマルクスの話にのせられていた。……いつものことだけど。
「はい、では今日の勉強会では、この世界にある国について話していくよ。今この町のあるラルクス商国には4つの地方があり、それぞれの特徴があります。北の地方では、冒険者の活動が盛んで多種多様なダンジョンが存在してます。東の地方では、鉱山の採掘が盛んで、麓にも様々な職人が溢れています。僕らがいる西の地方は、この町より西の方に海があって漁業が盛んですし、西の地方のひらけた土地では農作物が大量に作られています。南の地方は、広野が多々ありますがどちらかと言うと国の入り口ということもあり、娯楽街がとても有名ですよ。また、それぞれの地方も……」
こうして、マルクスの世界情勢のとても長い話が始まった。
すごく後悔した。前世でも、地理とか社会とか嫌いだった。
でも、魔法のためと思って最後まで聞いたが、魔法の属性操作の方法は意外なものだった。
「え? 属性操作は、イメージですよ。イメージ。魔力コントロールができるなら誰でもできるって言ったでしょ?」
…やっぱり、俺はマルクスの話に乗せられていた。
あと、マルクスの言うとおりイメージしたら簡単にできた。
騙された気分まま三人は、そのあとの依頼に向かうのであった。
その次の日の午前中。
「あ、なんで生活魔法を覚えてるのー! 私が教えようと思ったのに~」
俺たち三人は、ニーナに文句を言われていた。
「マルクスさんが教えてくれました……」
「マルクス君め! この子たちの実技は私に任せるって言ったじゃないか! もーう!」
ニーナは、マルクスに激おこである。
「そういえば、母さんの属性は水で合ってるのか?」
「うん、私は水魔法が得意だよ」
「俺は、見たいなー。母さんの水魔法」
「……しっかたないなー! ラードちゃんがそこまで見せてほしいんならーママも魔法を教えてあげるね!」
ほら、機嫌が直った。
「訓練場で、最初見せてくれたやつ以外にしてくれよ。さすがに今日は着替えたくない」
「大丈夫大丈夫!」
ニーナは呪文を唱え、詠唱を始めた。
「……ラード、やっぱり止めた方がいいじゃない? ニーナさんは、すごいと思うけど見境ないし」
「私も、そう思うわ。魔力コントロールですこしは魔力を感じるようになったけど…あれはちょっと危ないかも」
ロムとハンナが詠唱しているニーナを見ながら俺に話しかけてきた。
俺もニーナを見たが、ニーナの周りをピリピリと魔力が動くのを感じる。なんかいろいろヤバいな、アレ。
「母さん! ちょっと今から何をするつもりで…」
遅かった。
ニーナは詠唱を終えると、訓練用の木剣に魔法で出現させた水を纏わせ、訓練場に置いてある木の案山子に向かって振りかぶった。
「精霊よ集いし纏え! ウォーターブレード!」
案山子との距離がかなり離れているのも構わず、ニーナは案山子に向けて水を纏った剣を振り下ろした。
すると、剣を覆っていた水は、振り下ろされる間に剣先から飛んでいき、案山子にぶつかった。
数秒後、袈裟斬りにされた案山子の半身がゆっくりと落ちた。
「どうよ! ママはすごいでしょ!」
すごいというか。俺たちは、唖然としていた。
「ん、どうしたの? 三人とも?」
「……母さん、訓練用の案山子を切ったのは凄いと思うけど。あの案山子ってたしか材料が高いんじゃなかった?」
「……」
ニーナは黙った。
以前、訓練場にあるものが壊れたらどうしたらいいか、マルクスに聞いたことがある。
彼曰く、値は張るけど頑丈さに定評があるものばかりだから、中々壊れないよ、とのこと。
壊れてしまった…意外とあっさりと。
「ま、ママは、ライトのご飯を作らないといけないから、もう帰るね! じゃあね三人とも! バイバーイ!」
訓練場の片隅で、ニーナの魔法を見て喜んでいたライトを抱えると、ニーナはそそくさと訓練場から出ていった。
「……Bランク冒険者って凄いんだね」
「あぁ……」
後日。
俺の家に届いた訓練場の案山子の請求書に書かれた金額の凄さによって、俺は改めてBランク冒険者の凄さを思い知った。
……想像より、ゼロが一個多かった。
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