第5話 異世界
ロムとハンナが先に面談を終わらせて椅子にくつろぎ始めた頃。
俺の番がまわってきた。
二人の話を聞いてみると本当に世間話と動機と目標などを聞いてるだけのようだった。それだけじゃ、面談の必要性があまりわからないな。わざわざ面談の時間をとってまで話すことなのか。
俺は呼ばれた別の部屋に入っていく。そこには、さっきの部屋同様に椅子が置いてあってマルクスともう一人別の男性が座っていた。
誰だ、このオッサン。ハンナもロムもこのオッサンのことは何も言ってなかったぞ。
「さ、さ。座って座って。ラード君」
俺はマルクスが勧めた向かい側の椅子に座る。
「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ。これはただの面談、この人は冒険者ギルドの副ギルド長だよ」
へぇー。副ギルド長と呼ばれた男は、筋肉なオッサンだった。歳は三十代ぐらいだろうか、座ってる椅子が小さく見えるような体格をしている。
「私が冒険者ギルド、副ギルド長のタスマンだ。よろしく」
「…よろしく」
どういうことだ、俺の時だけ副ギルド長が面談に参加している。冒険者ギルドに目をつけられるような変なことでもしたか、俺。
「ハハハ、バリバリ警戒されてますね。副ギルド長」
マルクスが茶化すように笑っているが、タスマンは少々困ったような顔をしていた。
「こら、私が警戒されてるみたいじゃないか。こんな優男な俺が警戒されるわけがない」
優男なのは逆だと思うが。
「副ギルド長は優男というより強面のような感じがしますけど…あー僕をそんなに睨まないで下さいよ。もっと怖く見えますよ」
ふんと息を吐くタスマン。気にしていないマルクス。
「まぁまぁ…さて、ラード君。君だけこうして副ギルド長に来てもらったことには実は訳がある」
そうだろうと思った。
ただ目の前で優男と強面のオッサンの漫才を見てるだけとは思えないからな。
「多分、君の秘密についてだ」
「秘密? 俺はべつに秘密にしてることはないと思うが、そもそも俺はただの子供だ」
「現状そうなんだろう、僕も君をよく見るまではそう思っていたよ」
なんだろう。俺に秘められた魔力とかが溢れてるのかも知れない。この男にはそれを見極める力があるのか。
なんて恐ろしいやつ……今のところ、魔法なんて成功したことないけど。
マルクスは、注意深く俺を見つめると静かにこう告げてきた。
「単刀直入に言うと…君、転生者だろう?」
……何?
「なんでわかったみたいな顔してるね」
早々に転生者ということがバレてしまったらしい。意図的に隠してた訳じゃないが転生者ってことがなんでバレたんだ。
「秘密はね、僕が持っているスキルだよ。スキル」
「スキル?」
「この世界ではいろいろわかるようなスキル……まぁ能力みたいなものがあるんだよ」
「千里眼みたいなものか?」
「そう、正解。それみたいなものだよ、いやー異世界の転生者は説明なんてなくてもわかってくれて楽だね」
いやーサブカルチャーが豊富な国だったもので。
マルクスはおどけてみせるが、俺自身ギルドの目的が検討もつかない。
「それで、転生者ってことがわかったからって何かあるわけなのか?」
「いや、特に君に何かしてほしいことがある訳じゃないんだ。むしろ、その逆だね」
「逆というと?」
「何もしないでほしい……って訳にはいかないからね。そうだなぁ、具体的には問題を起こさないでほしいんだ。ギルド的には」
「特には、問題を起こすつもりも起こす予定もないんだが…」
「いや、そういう訳で言ったんじゃないよ」
どういうことだ。転生者だと冒険者ギルドでは不都合なことでもあるのか。
「この世界の歴史を知ってるかい? ラード君」
マルクスの隣のタスマンが真剣な顔で話しかけてきた。やはり、マルクスのいう通り強面にしか見えない。
「よくは知らないな、こっちの世界の親からは特別なことは聞かされてない」
「なるほど。ならば、この世界の歴史を最初から話すべきなんだろう。まず第一に、この町はラクルス商国に属する町である」
「ラクルス商国?」
「そう、そしてこの国がある大陸がアールティル大陸。この世界にはこの大陸を含め、他にも四つほど大陸の存在が確認されている。人のいる場所はな」
「人のいる場所はってことは、他にも大陸があるってことか?」
「そうだなぁ、一応この四大陸の他にも北と東と南に大陸があるのは確認されているが、今のところ人の存在は確認されていない」
人の存在が確認されてないって人以外ならいるってことか?
「人がいなくても大陸は大陸だろ?」
「そこは特別な場所となっている。名前を魔大陸と呼ばれていて、そこには様々な魔族が住んでいる」
「魔族?」
「魔族に関しての詳しい話は、これからの訓練中にマルクスが教えてくれるだろうから省くが、重要なのはそこではない。人の存在する四大陸には長い歴史がある。それも、この冒険者ギルドができるよりももっとな」
「冒険者ギルドができたのは何年前なんだ」
「今から二千年ほど前だよ」
「二千年……?」
待て、冒険者ギルドができたのは二千年ほど前だということは四大陸はもっと前から人の歴史があることになる。前世の歴史から考えると少なくとも二千年経ってるってことは前世でいうとこの俺が生きていた時代ぐらいになるんじゃないか。
「まぁ気づいたみたいだな。お前たち、転生者達から考えると歴史があまり進んでないらしいな」
「あぁ、ちょうど俺が生まれ変わる前の時代ぐらいだな」
「ガーラマス歴2036年、これが今の正しい年表になるだろう」
前世の時代より越えているのが地味にすごいなと思うが、さすがに時代が進んでなさすぎだろう。外の風景を見ても魔道具の存在を考えなければ前世でいうとこの中世ぐらいの時代に見える。食べ物に関しても前世とは比べ物にならないぐらい種類が少ないしな。
「要因となるものは、いろいろわかってはいる」
「例えば?」
「一つは、お前の世界にもあっただろう。国と国の争い……戦争だよ」
「さすがに、戦争だけではこんなに歴史が停滞するわけないだろ」
「確かに、これだけが原因ではないが要因の一つなのは確かだ」
「その根拠は?」
「それはお前の世界にはなくて、この世界にはあるものだよ」
俺がいた世界にはなくてこの世界しかないもの。考えられるものはさっき思いついたものだろう。
「……魔法か」
「その通り、魔法の存在があってさっき言ったスキルというのもこの世界には存在する」
「魔法とスキルは、別物なのか」
「魔法は魔力を元に発動するが、スキルというものは魔力を基本必要としない。そもそも自分が持っている能力と思っていい」
「なるほど」
魔法とスキルか、魔力を使っていろいろな魔法が使えてさっきみたいな千里眼みたいなことできるって訳か。便利な世界だな。
「便利な感じしかしないが、何が問題なんだ」
「この能力が便利過ぎるが故さ。これを未来発展のために活用するんだったら世界は問題はなかっただろうが人……国々はこれを戦争の道具に使い始めた。力のないものは簡単に死に、力あるものは自分が思うままに力を行使する。その国が滅ぶまで続き、また別の国が力に酔って暴れていくという最悪な流れだ」
「この世界にはまともなヤツはいないのか、そんな次々と国が滅んでたらさすがにヤバいって気づくだろ」
「簡単なことだ、そういう奴等は力ある連中にあっけなく殺されるんだよ」
「なっ……」
力こそ正義……嫌な世界になったものだ。
しかし、異世界は殺伐としてるな。前世のファンタジー感の想像が血みどろサイコ世界に変わって行きそうだ。
「最近は、比較的にどの国も落ち着きをみせているがどこもかしこも小さい争いが絶えないな」
「……勇者とかいないのか?」
これはさすがに笑われるか?
勇者はファンタジーの王道だとは思うが。
「いるにはいる」
「いるのかよ」
思わず、ツッコんでしまった。じゃあもう、そいつらに丸投げしてしまえばいいやと思うが。
「だがしかし、勇者は人との争いにはあまり介入してはこない。どっちしろ、力で押さえつけてもキリがないしその後のことは勇者にはどうにもできないからな。力を持ってるにしろ、勇者も人だ」
戦いのプロであっても国家の運営はまた別問題か。
「抑圧された国民を抑えるなんて、勇者にはまず無理だろうな」
「なら、日頃勇者は何をしているんだ?」
「さっき言っていた魔大陸の調査と魔族への対処だな。魔族は人に対していい感情は持ってないからな」
「そうなのか」
魔族は人と敵対してるのか。まぁ、それは想像通りだが勇者がそれに対処してるってことは魔王とかもいるのかも知れない。
「とりあえず、これが一つの要因な」
タスマンは、一本の指を掲げた。
そういえばそうだった。これだけでも人類絶望の第一歩なのにまだひとつなのか。この世界は救いがなさそうだな。
「次に、魔獣などのモンスターの存在だ。これもお前達の世界にはいない存在だろう」
「空想上の生き物だな」
「普通の動物と違って魔獣は体内に魔力を溜め込む器官を持っている。それを魔石というんだがそれは追々習うだろう。魔獣は魔力を持っているが故に狂暴なのが多い。中には安全なやつもいるが、その種類はあまり多くはない。凶悪なヤツにあった場合は一目散に逃げた方がいいだろう」
「心がけとく」
「危険な魔獣達のことを、冒険者ギルドではモンスターとして登録している。このモンスターを討伐することも冒険者の仕事の一つだ。モンスターが暴走してしまうと簡単に国が滅んでしまうほど危険だ」
異世界、もう詰んでるんじゃないか?
「この話がもう一つ要因で、お前に重要なのはこの次の話だ。お前は転生者だろう、転生者はお前しかいないと思うか?」
「その口振りからすると……ほかにも、居そうだな」
転生者のオンパレードになりそうだな。そんなことならどんどん時代は進みそうなものだが。
「時代に、転々と存在している。この時代にも数人いることが、ギルドで確認できている。お前を含めてな。そのほかにも、転移者と呼ばれる、そのままの歳であっちの世界からこっちの世界に飛んできた奴等も確認している」
どんだけいるんだ、俺の同郷の人間。
「しかも、転生者並びに転移者の奴等は一般人よりも力が強くなっていて、何らかの能力を一つ以上持ってることがわかった。これだけ聞けばわかるだろう? 同郷のお前ならいきなり力を持った人間が何をするのかを」
「そこでまた最初の話に戻るってわけか」
「もちろん、争いを好まない人間もいたが能力に目をつけたこの世界の人間がそいつを逃す訳がない。脅威と見られてすぐに始末されたやつもいたな」
「えげつねぇ……」
「そして、最後は同郷人同士で争ったりして歴史はどんどん停滞していく一方」
「救いなんて本当にないな」
異世界の現状を聞いたが中々に絶望的だった。前世の読み物みたいに物事を動かして、そうそう上手くいくはずがない。力でなんとかできるのは最初だけで、後々自分に対してボロが出てくる。力も使いこなせなきゃ自滅していくだけ。そんなとこか。
「モンスターよりも人が怖いって皮肉なもんだね」
優男はそう言って笑っている。
笑ってるあんたがすごいと思うけど、この世界がいろいろとめちゃくちゃなのも事実だ。仮に今俺がいるこの世界の状況に置かれたのが、俺が以前いた世界の人類だったとしても、前の世界と同様の歴史を歩むことはできなかっただろう。むしろ、ここまでたどり着く前に滅んでいる可能性すらある。
「それで、冒険者ギルド的には俺を管理しておきたいってことか。転生者の俺を」
「まぁ、そうしたいとこもあるけど。管理って言うより保護かな? せっかく、新たに生まれ変わったのに新しい人生を謳歌できないのは嫌でしょ?君的にも」
「それはまぁ……」
「だいたい、人の管理だって簡単にできるわけないし、ギルドとしてもいつも暇って訳ではないし、君たちにばかりかまってられない」
ぶっちゃけたな。
「君たちを保護するのには、理由がある。暴走されるのも困るってとこだけど、君のいう"まとも"な人なら関係ないだろうし実はもっと別のところで君には危険がある」
マルクスが意味深な表情を浮かべた。
「……この世界にはね、君たちみたいな存在を崇拝する人たちがいるんだよ」
出たよ、宗教。
「ハハ、うんざりとした顔だねぇ。ラード君の世界にもそんなことがあったのかな?」
「前世の歴史が物語っているよ」
「宗教とは、根深いものだ。この世界では、二千年より前は神と人間は共存していて今でもその神々を崇めるほど宗教は衰えを知らない」
タスマンは感慨深げに呟いた。
この世界には神が存在するみたいだな。二千年前に何かあったみたいだが。
「ラード君、実は逆も存在している」
マルクスは意味深なことを言っている。逆?
「崇拝するものもいれば、逆に君たちを恐れてる集団もいるって訳さ」
「恐れてる集団?」
「そう、君たちは特殊な能力と一般の兵士よりも丈夫な体を持っている。そのせいで、一部の人々には異世界からきた侵略者と見えて、恐怖の対象になるのさ」
「なんだそれ、バカバカしい」
マルクスは肩をすくめた。
「そうとは、限らないだろう? 君の言った通り、この世界の歴史がその恐怖を物語っているのだから」
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