第4話 小さな冒険者
冒険者(見習い)になる日がやってきた。結局、ハンナもついて来るようだ。
待ち合わせの場所にはロムも来てることだろう。
「ラードちゃん、ちゃんとハンカチ持った?」
「母さん、多分ハンカチは使わないよ。しかも、なんでレースでヒラヒラなもの渡してくるの。女物でしょ」
「こーら、ラードちゃん。ママでしょ?」
「あーはいはい、ママね。はいはい、ママ、ママ。」
「それでよーし! ハンカチは可愛いでしょ? ママのお気に入りなの!それをママだと思って頑張ってほしくて!」
「何を?バカにされないように頑張れってこと? 冒険者になるハードルを自分でさらに上げてどうするの?」
「大丈夫よ、バカにされないわ!」
「その根拠は?」
「可愛いから!」
「……さっきから、俺がバカにしてるの気づいてる?」
ニーナは、朝から絶好調だった。昨日の夜も俺よりもはしゃいでた気がする。明日はラードちゃんのデビュー日~って、そういえば踊ってもいたな。俺は無視して寝たが。
「おにちゃ、がんばえ~」
小さなミニ旗(ニーナ特製)を振ってくれるライト。
「ライト、ありがとう。でも、その旗をお外では振るなよライト」
「や~、おそとでも、おうえんする~」
「…頼むから、やめてくれ。ライト。多分、ご近所さんも見るから」
「やー!」
なんてものをライトに渡しやがる。無理やり取ろうとすると泣きそうな顔になるし、これはきっとそのまま外でもやるんだろうなー…。
トボトボと準備を終えて、俺は玄関から扉を開ける。
「……いってきます」
「はーい! 頑張ってねー! ママもライトちゃんも応援してるからねー!」
「おにちゃ、がんばえ~!」
玄関までライトを抱えてニーナは大きく手を振っていた。
そこから俺は、なるべく心を閉ざした。玄関先から道に出るまでに、あらあらとか、まぁまぁとか微笑ましく言われた気がするけどきっと気のせいだろう。
その見送りは俺の姿が見えなくなるまで行われた。
朝の心の修行のせいで、予定の時間は五分~十分ぐらい過ぎていたが待ち合わせの場所には、ロムがいた。ついでに、ハンナも。
ロムは、黒っぽい茶色の髪型をしていて大人しそうな見た目をしている。その反面、ハンナは赤毛のロングの髪型をしており、待ち合わせの場所に腕を組んで仁王門立ちしていた。今から決闘でも行うつもりか?
「悪い、遅くなった」
「……遅い!!」
そんなに遅れたつもりはないがハンナは頬を膨らませていた。
やっぱりなんでハンナに怒られなきゃいけないんだ、俺。
「どうしたの? 行くまでに親に反対された?」
ロムは、心配そうにこちらを気にしてきた。この三人の中では年長者だしな。
「いや、うちのはいつものアレだ。親の発作みたいなやつだよ」
「なるほど……それは大変だったね」
それだけで、事情がわかったのかロムは苦笑いを浮かべながら納得してるようだった。うちの親が特殊過ぎるからな。
「ラードのことだから面倒くさいとか行きたいないとか駄々を捏ねてたんだと思ったわ」
「そこまで子供じゃない」
見た目は子供だけど。最近ハンナは、俺に対してさらに反抗的になった気がする。…元からな気もするが。
「私も、心配したんだからね!」
「ハンナは、俺のこと心配したんだ?」
「あ、当たり前でしょ! 私は、あんたよりお姉ちゃんなのよ! 心配しないわけないわ!」
「そうなのか」
歳、一つしか変わらないけどな。
「それは、すまなかったな」
素直に謝っておこう。触らぬ神になんとやらだ。
「わ、わかればいいのよ! あんたはちゃんと来たんだしそれでいいわ!」
「はいはい」
「あー! 今、また面倒くさそうに私に返事したでしょう!」
「してない、してない」
「人間同じことは二回言わないのよ!」
俺はしょっちゅう言ってる気がする。
「まぁまぁ、二人とも。今日は、訓練学校に入学しに行くんでしょ? こんなとこで騒いでると遅れちゃうよ」
ロムの言う通りだ。
「わ、わかったわよう」
ハンナは引き下がった。なんで、こいつはロムの言うことは素直に聞くのに俺には突っかかってくるんだ。
「俺は、別に騒ごうと思って騒いだわけじゃなくてハンナが勝手に突っかかってきて」
「あーはいはい。早くいくよ? 二人とも」
ロムに流されてしまった。それほど冒険者になりたいのだろうか、ロムは俺とハンナを見て呆れてた気もしたが関係はないのだろう。
「り、了解」
「うん、じゃあさっさと行こう」
二人が返事するのを待ってまとめるロム。
いつものことだから、ロムは俺たち二人の扱いが慣れているのかも知れない。
……あれ?一応、中の人的には俺が最年長者なんだが。
俺たち三人は、冒険者ギルドに向かって歩き始めた。
「ハンナは、親の委任状は結局もらえたのかよ」
俺は気になっていたことをハンナに聞いてみた。
親の委任状とは、成人していない十五歳以下、六歳以上の子供に対して親もしくは保護者が冒険者ギルドに入るのを許可したことを証明する書類である。これがないと基本、成人していない子供は入れないという仕組みである。
「当たり前よ! 私がパパに頼んで駄目だったことはないわ! この通り!」
ハンナの両親の名前が書いてある紙を見せられた。
ハンナも俺と一緒で商人の家の子供である。上に二人の兄がいてハンナとは少し歳が離れているらしい。家名はブロッサム。
さすがに、普通の親だったら娘を危ない冒険者にすることに反対すると思っていたがアテが外れたようだ。
「へぇ、まさか女の子を冒険者にするとは」
「な、なによう……べつに無理やり書いてもらったわけじゃないわよ! ……ちょっと噛みついたりもしたけど」
それを無理やりと言わないのか。
「まぁ、ハンナがそうしたいのであれば俺は何も言わないが」
「ほ、本当!? ラードは私がついてきて嬉しい?」
「ケガとかしないといいな」
「心配してるの?」
「一応」
「そ、そうなんだ」
なんだ、こいつ。やけに今日は機嫌がいいな、朝食に好物でも出たのか?でも、しかしさっきの姿は果たし状をまつ番長スタイルだったし。
「ハンナもラードに心配されて普通に嬉しいんだよ」
「そうなんかな、俺としては本当にケガしたりしないか不安なんだよなー」
実際のところ、ハンナがケガして八つ当たりで俺が殴られたらたまったもんじゃない。
果たして女の冒険者って現実的にどれぐらい、いるものなのだろうか。ハンナはあんな性格だしハブられたりしないだろうか。
「ハンナも心配してるんだけど……ふふ、いやーラードは大人っぽいしゃべり方するけどまだまだ子供だねー」
はにかむロム。お前もまだ十歳やん。
大通りの突き当たりにつくと一際大きいな建物、冒険者ギルドが見えていた。
「いよいよだね、二人とも」
ロムが二人に言う。
最初に来たときのイメージが強くて、むさ苦しいイメージが強いけど冒険者って現実にさわやかな人がいたら逆に弱そうだな。
冒険者ギルドの扉を三人は意を決して開けた。そこはいろんな人、人、人で溢れかえっていた。
いくつもある受付に、二階に行くための大きな階段、武器や道具も売ってる簡易的な店や、クエストボードと書かれた、壁一面に紙の貼られた場所。クエストボードの手前は大きめな丸テーブルがいっぱいある食堂になっており、冒険者たちがグラスを合わせていた。
「いらっしゃいませ、ご依頼ですか?」
入り口近くにも一人、受付の女性が立っていた。案内人だろう。
「あ、あの僕ら、冒険者になりたくてここに来ました」
少し緊張したロムが受付の女性にそう答えると自分のカバンから委任状を見せた。周りの状況を見るに体格の差的に場違い感があるが受付の女性は小さく微笑むと委任状を確認した。
「はい、確認しました。小さな冒険者さん。こちらは、あとで提出してください。ここでは受付できませんのであちらの左の受付で受付を行ってください」
「は、はい」
ロムは少し恥ずかしそうに顔を埋めた。
案内された受付の列に並ぶとすぐに俺たちの番がやってきた。
「こんにちは、今日はどういったご用件ですか?」
今度は男性の受付だった。歳はまだ若そうでほっそりとした体型の人だった。髪はライトブラウンの短髪でザ優男みたいな見た目をしていた。
「僕ら、冒険者になりたいんですけど」
ロムが率先して話し始める。
「なるほど、なるほど」
男性の受付の人は、一通り三人を見渡すと何か考えてるようなポーズをとった。
「こ、これ親の委任状です!」
ロムは受付の人の視線に耐えかねて委任状を受付の人に渡した。受付の人は、委任状を受けとると確認して納得したかのよう笑顔で答えた。
「はい、確認しました。新しい冒険者さん。お名前を聞いてもよろしいですか?」
「ろ、ロムです!」
「ハンナ」
「ラード……だ」
三人で名前を答える。一瞬、敬語がいいか考えたが子供が使っていると違和感を感じると思うからやめた。ハンナとかやっぱりぶっきらぼうだし。
「わかりました。あと、後ろの二人の委任状を受け取って受付は終わりです。そこからは、別の部屋にて今後の説明を行いたいと思います」
俺とハンナもカバンから委任状を渡す。
受付人は委任状を受け取ってからしばらく眺め、納得したかのように机に置いた。
「なるほどなるほど……わかりました。そちらの通路を奥に向かって3と書かれた部屋に入って待ってて下さい。私もしばらくしたら参りますので」
「わ、わかりました! い、いこ、二人とも!」
ロムは相変わらず緊張していた。その光景を見ていた他の受付の人も笑っていた気がした。当の本人は気づいてはないだろう。
俺たち三人は3と書かれた部屋に向かった。
「き、緊張したーー…」
部屋についた途端、ロムは深く息をはいていた。それはそうだろう誰が見てもあれは緊張していた。
「な、なんで二人とも落ち着いてるのさ。大人と話すと緊張しないの?」
「いや、基本ロムが話してたから特に話すこともなかったし」
「私は、暇だった」
「僕が緊張してるのがバカみたいじゃない」
「いや、ホントに」
ガックリとうなだれるロム。
「でも、これで冒険者のはしくれになったんだし前向きに考えようぜ。ハンナとか絶対に自覚ないぜ?」
「私が何?」
「わくわくしないのかって」
「あまり考えてないわ」
「ほらな」
「……それはそれで心配だよー」
さらにうなだれるロム。
そこにさっきの男性の受付の人がやってきた。
「や、お待たせ」
意外と早かった。
先ほどとは違って砕けたしゃべり方をしていた。さっきは人がたくさんいたからだろう。
「立って話すのには、時間がちょっとかかるからね。さぁ、どうぞ座って」
三人は部屋に備え付けてあった椅子に座る。
「は、はい!」
「あはは、そんな緊張しなくていいからさ。もっと楽にして、これからずっとそうするつもりかい?」
「い、いやその」
「冒険者になるんなら堂々としてるべきだよ?君は特に」
「そ、そうですかね」
とは言っても緊張を隠せない男ロム。
フッ、お前こそまだまだ子供じゃないか。
「まぁ慣れるよ、そのうち。さて、さきに自己紹介をしておこうかな。僕の名前はマルクス。今日から君たちのサポートをすることになるギルド職員さ」
「サポート?」
「そう、サポート。最初から一人前の冒険者なんていないし、失敗しない人なんかいないのさ。だから、サポートする。僕らギルド職員っていうのは、冒険者の仕事をサポートするのがメインの仕事なんだよ」
「なるほど」
「冒険者は危険がつきものだからね、余計な出来事で問題が起きても困るし…まぁ、君たちにはあまり関係ない話だと思うよ」
「は、はぁ」
「大人になるって大変なことなのさ。まず、この後のことを話そう」
「この後?」
「うん、この後ね。君たちには、一人一人面談をうけてもらおうと思う。ギルドの決まりだからね、これは」
面談?
「当たり前のことを聞くだけだよ。なんで冒険者になりたいんだーとか、冒険者になってやりたいことあるのかーとかね」
会社の面接みたいだな。
「そんな緊張する必要もないよ、面談員は僕だし。気軽にいろいろ聞いてくれればオーケーだよ」
なるほど。
「正直なところ、冒険者になる人って少ないんだよー? さっきも言った通り危険なのは間違いないからさ。べつに、脅してる訳でもないからね? 子供で冒険者やってる子とか以外といるし、比較的ここら辺は平和だしねー」
「比較的?」
俺はふと疑問に思った。他の場所はそんなに危ないのかと。
「それはあとでだね。今後の話にもなるからね」
どうやら、俺ら三人には知らないことがあるようだ。
「とりあえず、一人一人面談していこうか。歳の順番でいいよね、最初はロム君から」
「は、はい!」
マルクスのあとにロムがついて部屋を出ていく。
「なんか冒険者っぽくない人だったな」
「優しそうな人に見えたけど?」
「それは否定しないが……」
俺の中のむっさいムチムチイメージが離れないのか冒険者のイメージがわからなくなってきた。
「ラード、不安になってきたの?」
「あぁ、別の意味で不安になってきた」
「?」
ハンナにはわからないだろうがこれは冒険者への勝手なイメージなんだろうなぁ。
「あんたらしくない! 元気出しなさいよ!」
「痛ぁーっ!」
なんということだ。こいつ、いきなり背中を叩いてきたぞ。
「ハハハ」
笑うハンナ。
俺の中で自然と冒険者のイメージがハンナのイメージになった。
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