第7話

 次の日から、ユラは板を使ったりプールに入ったりして活発に動き回った。あまり動けなかった最初の頃が嘘みたいだ。泳ぐスピードは日に日に上がり、水面を蹴ってジャンプもできるようになった。


 スズたちもユラの真似をして水に入ってみたが、思うようには動けなかったようだ。それでも楽しそうにユラとじゃれあっていた。


 そんなユラたちの様子を、アークトゥルスは相変わらず静かに見守っていた。その隣ではアケミがパソコンで音楽を聞いている。お気に入りの歌手が見つかったらしい。


 マルはトイレを掃除しようとしてなぜかそこら中に水を跳ね飛ばし、カノンに怒られていた。


 それぞれ皆、運動したりのんびりしたりして好きな時間を過ごしていた。仕事があればやるのだろうが、自由に時を過ごすこともできるのだ。マルは何かしないと落ち着かないようだったが。


 カノンはふらふらと出歩いたり何かの研究をしたりしていた。


 ある日カノンは、マルとはよく一緒に出掛けるがアケミと遊ぶことはあまり無いなと思って、オセロやすごろくでもしないかとアケミを誘ってみた。アケミは若干迷惑そうだったが相手になり、色々なゲームで圧勝してみせた。


 カノンは「まいりました」と言って引き下がった。何をどうやっているのか分からないが、運の要素が強いゲームでもアケミは計算して勝つ方法を割り出しているらしい。


 ロボットってすごいな、と感心するカノンの横でマルは手を滑らせてコップを割っていた。カノンは、やっぱり人によるのかもと思い直した。


 ユラは泳ぐことに夢中になり、プールの隅から隅まで泳ぎ回りジャンプの練習も熱心にやっていた。勢い余って壁にぶつかるのではないかとカノンは時々心配したが、そんなことは無く、いつも見事に方向転換していた。


 テレビでは音楽番組やアニメを放送しているがロボット番組も数多くあり、またロボットの特集ではなくても当たり前のようにロボットが登場した。


 ロボットはどんどん人間や動物などの生き物に近づいた。教師ロボットや医者ロボットも現れたようだし、人が乗り込める巨大ロボットや地面に潜れるロボットも開発中のようだ。


 ロボット兵器も作れるだろうが、それだけはやめてもらいたい、とカノンは思う。一応今の世界は平和になり、個々の団体同士の小競り合いも減りつつあるのでしばらくは大丈夫だろうが、ロボットが参加する戦争の映画などを見るとドキッとしてしまう。



 それにしても、昔はロボットや機械は男性の方に好まれていた気がするのだが、今は女性たちも可愛いロボットを開発したりしていてすごい。というのは偏見かもしれないが、とにかく皆ロボットを愛している。


 色んなタイプがあるが、虫型とか、より機械らしいデザインのロボットは男性に人気で、動物をモチーフにしたロボットなど、トゲトゲせず丸っぽく可愛いロボットが女性の人気を得ている気がする。


 もちろん個人差や例外はあるし、ロボットのアイドルとか男女両方に愛される存在もある。


 昔は着ぐるみだったキャラクターなどはほぼロボットが担当するようになり、より複雑なデザインにもできるようになった。人間らしい味のある動きを残したいという意見が出て着ぐるみのままのキャラクターもいる。


 斬新なアイデアで様々な型のロボットが作られたが、彼らは期待の中生まれ、生まれた時から「できる」ことを求められる。思ったように動かなかったり評判が悪かったりしたロボットは解体されることもあるのだ。


 人間が仕事ができない落ちこぼれだったところで殺していい理由にはならないが、ロボットの場合は壊されてしまうことがあり、まだまだロボットたちには厳しい世の中だ。


 しかし、ロボットを不当に扱う事に対する反対意見は年々増え、ロボット愛護法などもできた。いらなくなったロボットを引き取り別の仕事をしてもらうシステムや、ペットロボットたちを守るボランティア団体も現れた。


 まだまだロボットの不法投棄は減らず、大量に生産して大量に捨てる悪質な企業もあるが、着実に世界は変わっている。


 もうロボットを物扱いすることはできず、元の世界には戻れない。エネルギー消費量は上がり続け、社会がより良く便利になったため人間も増え続ける。それでも共に生きられるよう努力するのみである。


 人々がそれぞれの思いを持って動き、世界は忙しそうだ。そしてカノンたちはそんな人々の様子を眺めたりしつつ、のんびり暮らしていた。そういう選択もありだと思うのだ。



 ある日カノンがマルと話していると、マルが「家族皆で出掛けたい」と言い出した。


「もうユラも落ち着いてきた様子ですし、皆で出掛けるのも良いと思うんです。アケミさんは嫌がって来ないかもしれないですが……」


「そうだな、今度皆で出掛けるか。アケミもたまには引きずり出してやればいいだろう」


 アケミがちらっとカノンたちの方を睨んだが、カノンはマルと話し続けていた。

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