第6話
一方家にいたスズたちは、しばらく車輪付きの板を転がして遊んでいたが飽きて別々に遊び始めた。スズはプールの方へ向かい、ユラは再び板の上に乗り床を押し始めた。
プールに着いたスズは、パチャパチャと前足で水を叩いて遊び出した。防水のロボットなのでプールで遊んでも大丈夫なのだが、水遊びをすると体が濡れるため誰かが拭かなくてはならないので、水遊びはカノンがいる時だけと決まっている。
しかしやんちゃなスズは注意しても約束を破ってしまう。やるなと言われるとますますやりたくなるのだ。
水音を聞いてアケミがプールに来たが、スズに向かって
「あーあ。後でカノンに怒られるよ」と言うだけで、テレビを見に戻ってしまった。
止める人がいないので、スズはそこら中水浸しにしてしまった。
ユラは一人で板を使って歩いていた。強く床を蹴るとより前に進むこと、そして右や左に曲がる方法も分かった。飲み込みが早いユラは、しばらくすると自由に動き回れるようになった。
板を使いこなせるようになったユラは、スズの元に行って周りを走って見せた。スズはそれを目にして楽しそうにピョンピョンととび跳ねた。ユラも真似をしようと思ったが、板を使ってもジャンプはできなかった。
スズが水に触っているのを見てユラもプールに近づき、ヒレで水をすくってみた。水は持ち上げてもすぐにこぼれて下に落ち、ヒレの上にはあまり残らない。
濡れたヒレを眺めた後、ユラは
「これは何だろう」とプールを覗きこんでみた。すると自分の姿が水に映って、ちょっとビックリした。
この間もカノンにプールに連れて来てもらったが、少し怖くて水をじっくりとは見ていなかった。
スズがはしゃいで水を跳ね飛ばしている隣で、ユラは動く水面をじっと見つめた。水しぶきや波を観察して、水がどんな風に動くか大体分かった。これは襲いかかってきたりする怖いものではないんだと理解して安心したユラは、大胆に水に首を突っ込んでみた。
「やっぱり水って面白い」
水の中を覗いたユラは、楽しくなってするりとプールに入った。
スズは驚いている。水の中に入ろうとまで思ったことは無かったらしい。
ユラは何か本能のようなものに火がついた気がした。ヒレを動かすと少し自分の体が前に進むのが分かって、さっきの板と似ていると感じた。
ユラは水の中を眺めヒレを動かし、くるくる回ったりしてプール遊びを楽しんだ。やがてプールの底に触ってみようという気になり、勢いよく水を蹴るようにして進んだ。水の底に触れたユラは、今度はプールの端まで行ってみようと思い再び水を蹴った。
思ったより簡単にできたのでユラは驚いた。自分は泳ぎ方を知っているのだ。
呆気に取られるスズの前で、ユラはスイスイと泳ぎ出した。少し前まで怖くて一歩も動きたくなかったが、今は違う。ここは安全だと感じていた。安心すると、好奇心が芽生え動き回りたくなった。
陸より速く、飛ぶように動けることが分かってユラは嬉しかった。スズの元に泳いでいって喜びを伝えると、スズも嬉しそうに鳴いて反応を返してくれた。
しばらくして二頭の様子を見に来たアケミは、
「へぇ、ユラ泳げるんだね」と軽い調子で声を掛けた。
ユラは誇らしげに「クー」と鳴いた。
やがてカノンとマルが家に帰ってきた。カノンが
「ただいま」と言うと、動物型ロボットたちが嬉しそうに駆け寄ってきた。
「みんないい子にしてたか?」
一頭ずつ頭をなでたカノンは、濡れているスズを見つけて
「おや、スズ。体に水がついているぞ。また勝手にプールに入ったのか」と少し怖い声で言った。するとスズはパッと駆け出した。
「あっ、ちょっと待てスズ!濡れたまま走り回るんじゃない」
カノンは慌てて、今度は優しい声で言った。
「もう怒らないから、戻っておいで」
それを聞いたスズはけろっとした顔で戻ってきて、ちょこんとカノンの前に座った。
「スズは本当に……いたずらっ子だな」
カノンはやれやれといった様子でスズの体を拭いた。
マルは、ユラの姿が見当たらないのでどこに行ったのだろうと探していた。
するとプールの方からバシャバシャと水音がする。プールに落ちて上がれなくなったのかと思って急いで向かうと、ユラが魚のように泳ぎ回っていた。
マルは一瞬泳いでいるものが何なのか分からなかったが、ユラだと分かると大急ぎでカノンの元に駆け戻った。
「カノンさん! ユラが、泳いでいます!」
「なんだって!」
カノンが驚いて見に行くと、ユラはカノンの元へ泳いできて、目を輝かせて一声鳴いた。
「そうか、ユラ。泳げるようになったのか。すごいじゃないか」
カノンは興奮してユラの頭をなでたり拍手したりした。
マルもユラに歩み寄って
「おめでとうございます」と笑いかけた。
ユラは少し恥ずかしそうに笑みを返した。
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