第5話

 店に入ると店員ロボットが

「いらっしゃいませ」と挨拶してきた。

 マルとカノンはペコリと頭を下げて奥に進む。


 この店員ロボットは店の中に何体かいて、皆同じ形をしている。客が一つの商品をじっと見ていたりすると近づいてきて商品の説明をしてくれる。また、客の気持ちをある程度推察できるらしく、探している物があるとロボットがその商品の所まで案内してくれたり、万引きしそうな人がいると注意して様子を見ていたりする。


 不審な人物は決して見過ごさない。このロボットは頑丈で力も強く、もし強盗などが現れてもあっという間にやっつけてしまうだろう。


 きびきびと働く店員ロボットたちを見ていると、そのうち人間の仕事は無くなるだろうなと思う。


 だが、ロボットたちの中にもマルやアケミのような変わり者がいる。よく見ると無駄な動きをしている店員ロボットがいた。人は彼らを欠陥品扱いするだろうが、カノンはそういうロボットの方が好きだ。


 しかし人間はある程度自分の生き方を決められるのに、ロボットは生まれつき役割が決まっているので大変そうだ。他のことをやってみれば才能を発揮できるかもしれないのに、手伝いロボットが手伝いをできなければ不良品になってしまう。これでは良くないと思う。


 しばらくすると、無駄な動きをしている店員ロボットに、女性客が話しかけた。


「久しぶり。元気にしてた?」


 するとロボットは嬉しそうに答えた。


「やぁ、久しぶりだね!私は元気だよ。君は最近どうしていたんだい?」


「家族と旅行に行っていたの。綺麗な所だったわ。ほらこれ写真」


 女性客はロボットに写真を見せ始めた。


「うわぁ、本当に綺麗だなぁ」


「海に潜った時の写真もあるわよ」


 二人は旅行の話で盛り上がり始めた。


 カノンは驚いた。客と雑談をする店員ロボットなんて初めて見たからだ。店員ロボットに商品以外のものの話をしても、普通あまり相手にしてくれなかったり、商品の話に変えられたりする。それが彼らの仕事だからだ。


 ところがこの店員ロボットは、いつまでも仕事と関係ない話を続けている。そればかりか鼻唄まで歌い出した。


 そんな店員ロボットの様子を見て、なんだなんだと人が集まりだした。するとロボットは、

「今日は良い天気ですね」などと人々に話しかけた。


 カノンは、店員ロボットが好き勝手に動いている様子を見てヒヤヒヤした。こんなことをしていたら、人間の店長に怒られるのではないだろうか。


 ところが、仲間の店員ロボットも時々側を通る人間の店員も、彼に注意をしない。カノンは不思議に思って人間店員に聞いてみた。


「彼はいつもあんな感じなんですか?」


 すると店員はニッコリ笑って

「はい。あの子はいつもああやってお客様とお喋りばかりしているんですよ。それであの子に会いに来るお客様も多いんです」と答えた。


 カノンはなんだかホッとした。世界は自分が思っているほど悪いものではないのだ。八方塞がりだと感じていたが、希望が見えた気がした。


 カノンは、この先世界がどこへ向かおうと自分らしく人間らしくあろうと心に誓った。



 買い物カゴに商品を入れていくと、マルは瞬時に計算した。


「全部で2540円になりますね」


「そうか。じゃあもう少しこれを買っておこうかな」


 ロボットは計算が早いので助かる。


 あれこれ買っているとかなり量が多くなってきた。が、マルは力持ちなので安心だ。カノンは壊れやすい物だけ自分で持って、

「これ、持ってもらえるか」と他の荷物をマルに渡した。


「いいですよ」とマルは嬉々として受け取る。やはり手伝い用ロボットなので役に立てるのは嬉しいのだ。


「ありがとう。今日の夕飯はマルの好物にするからな」


 カノンの言葉を聞いてマルは満面の笑みで頷いた。


 日はだんだんと沈み、町に明かりが灯りはじめた。夕日に照らされた町並みを見て、カノンは

「綺麗だなぁ」と目を細めた。


 マルはそれを聞いてギョッとしたようで、


「どうしたんですか、いきなり」とカノンの方を向いた。普段彼は町が綺麗だなんて発言はしないらしい。カノンはそれには答えず、マルの目を見て真剣な様子で言った。


「なぁ、マル。俺たち皆出会えて良かったよな」


 マルはやや戸惑ったが、カノンが突拍子もない言動をするのは毎度の事なので、一息ついた後カノンに合わせた。


「そうですね。皆さんに出会えて良かったです」


 カノンはそれを聞き満足気に微笑んだ。


「しかしカノンさん……今日はなんだかいつもと様子が違いますね。ひょっとしてどこかで頭でも打って故障しました?」


「おい俺は人間だぞ」


 カノンが突っ込むとマルは安心したように笑った。

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