第4話

 町に出ると、人間に混じってロボットもたくさん歩いている。見てすぐに機械だと分かる者もいれば、人間そっくりでロボットに見えない者もいる。


 店の看板などは何やら機械仕掛けで動いており、客の目を引いている。試供品を配るロボットや映画などの宣伝用の変わった乗り物も動いていて賑やかだ。


 少し前までは、ロボットたちは限られた場所にしかいなかった。それがこうしてどんどん社会に進出し、技術も発達して更にすごいロボットたちが生み出されるようになった。町にいるロボットたちのデザインもどんどん変化している気がする。


 しかしカノンは、時々ふと思う。


 今のままで良いんだろうか。機械に人と同じ心を与えつつ、残酷な扱いをしているのではないだろうか。


 それはロボット業界の裏を知っているからこそ出てくる思いだった。ユラたちのようにどこかでまたロボットが捨てられているかもしれない。今町で働いているロボットたちもひょっとして使い捨てにされているのかもしれない。


 人間のように考え話せるロボットを作るのは人類の長年の夢だった。しかしそこでストップするわけではない。ロボットに限らず道具たちだって、古い物は消えてゆき、より便利な物が残りまた新たな物が生み出される。そうして我々は進化してきたのだ。


 だけど、人間の都合で世界を動かし続ければどうなるのだろう。カノンには、この先の未来が分からなかった。カノンとしては、ロボットたちを使い捨てにしたりせずに皆で仲良く暮らしてゆきたいのだが、もしその夢が叶ってしまえばどうなるだろう。


 ロボットたちは修理さえしてあげればいつまででも生きられる。完全に破壊したりしなければ死なないのだ。そして、ロボットは減らないのに新しいロボットを作り続ければどうなるのか。あっという間に世界はロボットで一杯になるだろう。


 そうなれば、人やロボットが住む場所を増やすために自然破壊が進み、やがては皆滅びるのではないだろうか。


 考えすぎかもしれないが、カノンは自分の理想をはっきりさせたかった。どうなることが自分の望みなのか、知りたかったのだ。


 そして時折、カノンはこんな結論にたどり着く。


「人類はロボットを作るべきではなかったのではないか」


 そしてその考えをすぐに打ち消す。そうは考えたくないのだ。マルたちと仲良くなれたことが嬉しいし、今の家族とこれからも楽しく暮らしていきたい。しかしなぜだか不安な気持ちが首をもたげることがあるのだ。


 カノンは元々、自然が好きだった。ビルが立ち並ぶ大都市に違和感を覚えたり、環境破壊で絶滅に追いやられそうになり人の手で「保護」されている動物たちを見たりして心を痛めてきた。花や虫や動物の自由を奪うことには反対だ。


 だから、最初はロボットの味方になろうとはしなかった。しかし彼らにも「心」があるのだと気付き、「生き物」と同じだと認識したためこうして関わることになった。


 けれど、人類には早すぎる道だったのではないか。まだまだ解決すべき問題はあるはずなのに、新しい「種族」を増やしてしまった。これではいずれ共倒れになるのではないだろうか。


 カノンがあれこれ思いを巡らせているのを知ってか知らずか、マルは無言で隣を歩いている。考えを見透かされている気がして、なんとなくカノンは

「マルはどう思う?」と尋ねてみた。


マルはきょとんとして

「何がですか?」と聞き返す。


その様子を見たカノンは少し笑って

「なんでもない」と言った。


「カノンさんってやっぱり変わってますね」


 マルは呆れたように呟いた。

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