第3話

 ユラは二人のことを思い出したかもしれないが、再び怯えきってしまうことはなく次の日も元気に遊んでいた。


 動物型ロボットたちが追いかけっこをしているのを羨ましそうに見つめるユラを目にして、カノンは「ユラももっと自由に動きたいよな」と思った。


 何か良い案はないかと考えつつ、カノンは隣にいるアークトゥルスの方に目をやった。アークトゥルスはとても真面目でちょっと無愛想だ。感情表現はほとんどなく、いつも静かにしている。あまり動きが無いのでペットとして可愛がりたい人にとっては不満だったらしく持ち主に手放された。


 何か頼むと出来る限りのことはやろうとしてくれるので、性格的にペットより手伝い用ロボットに向いていそうだ。マルはどことなく雰囲気がペットロボットのようなので、二人が入れ替われば上手くやっていけるかもしれない。


「ユラもアークトゥルスみたいな子かと思ったんだけどな。どうやらあの子はやんちゃらしいぞ」

 そう言いつつカノンはアークトゥルスの背中をなでた。



 次の日、カノンは珍しく真剣に何かを作っていた。


「よし、これで良いだろう」


 そう言ってできあがった物をユラの隣に置いた。それはユラの体と同じくらいの大きさの板に車輪を付けたものだった。


「これに乗って、ヒレで床を蹴れば前に進める。やってごらん」


 ユラは不思議そうに板の匂いをかいだりした後、ヒレを使って板の上に上った。


「そうそう。どうだ、前に進めるか?」


 カノンが尋ねると、ユラはヒレでちょいと床を押して前に進んだ。


「できるじゃないか。ほら、面白いだろ」


 カノンは得意気に笑ったが、ユラは不思議そうな表情のままだ。


「あれ、あまり楽しくなかったかな」

 カノンはちょっと困ったように頭をかいた。


「まぁいい。それはユラにあげるから、好きな時に遊んでくれよ」

 そう言ってその場を去った。


 ユラはちょっと動き回った後板から下りて、鼻先で板をつついて動かしたりして遊び始めた。するとスズがやってきて、一緒に板をつつき始めた。


「こりゃ、すぐに壊されるかもな」

 そっと様子を見ていたカノンはため息をついた。


 その頃台所からはもくもくと黒煙が上がっていた。マルが料理の練習をしているらしいが、フライパンで焼かれている物体はどう見ても食べられそうにない。


「おいおい何をやっているんだ」


 匂いに気づいたカノンが慌てて飛んできた。


「ボクも料理くらいはできるようになりたいと思って、やってみているんです」


「これが料理か?」


 黒焦げの物体を指差して怒ったようにカノンが言った。


 その近くでアケミはだらだらとくつろぎつつ、こちらを見て大笑いしている。


「笑い事じゃないだろう。見ていたのなら止めろよな」


 カノンが叱りつけてもアケミは気にも留めず、テレビを見始めた。


 マルは何か手伝いをしたいらしく、時々こうして料理や掃除をしてくれようとするのだが、不器用なので何かしようとするたび家の中がしっちゃかめっちゃかになる。


 しかし善意でやろうとしてくれているのであまり強くは怒れない。それにやりたくてやっていることを止めるのは気が進まない。まぁ止めるしかないのだが。


 アケミの方はやろうと思えば何でもできるようだが、やる気がまるで無い。本当に手伝いロボットなのか疑わしい。


「何か手伝ってほしければ俺の方から頼むから。そんなに頑張らなくていいぞ」


 カノンは今度は少し優しい口調で言った。マルは申し訳なさそうに頷く。


「そうだ、今から買い物に行くからついて来て手伝ってくれないか」


 カノンがそう頼むとマルはパッと笑顔になって、

「はい、行きます」と答えた。


「お前もたまには一緒に行くか?」


 カノンはアケミにも聞いてみたが、

「嫌だ。めんどくさいから」と即答された。


 この通り、出掛けようと誘ってみても彼女は決して動かない。他のロボットたちとは一緒に出掛けることもあるが、今日は買い物なのでマルにだけついて来てもらうことにした。

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