第2話

 二人が家に着くと女性型ロボットのアケミが怒鳴りながら出てきた。


「遅い!また人食い植物持って帰ってきたんじゃないでしょうね!」


 そしてカノンの腕の中にいるユラを見つけると、

「あら、可愛いじゃないの。ごめんなさいね」と言って引っ込んだ。


「皆、新しい家族を連れて来たぞ。名前はユラだ」


 カノンがユラをその場に下ろすと、ペットロボットたちが駆け寄ってきた。ロボットたちはユラの匂いをかいだり鼻を近づけたりして挨拶したが、ユラが怯えているので気遣って離れていった。


 ユラはしばらく経ってもじっとうずくまったまま動かない。今はそっとしておいた方が良さそうだ。


「まぁ、最初は皆こんな感じだったさ。な、スズ」

 カノンが話しかけると、ペットロボットのスズは首をかしげた。


「ああ、スズは最初から人懐っこかったな」


 現在この家には、カノンと人型ロボット二人と動物型ロボット五頭がいる。ユラが加わり八人家族になったので賑やかだ。皆様々な事情で家に来た子たちである。


 マルは手伝い用ロボットで、人間そっくりの姿をしている。手伝い用ロボットなのに気が利かず、不器用で失敗ばかりするので前の持ち主に手放された。


 アケミも同じく手伝い用ロボットだが、態度の悪さが原因で手放された。




 ユラが来てから数日経ったが、ユラは相変わらずあまり動こうとはしない。


 ユラの手や足はヒレのようになっている。陸では動きたくても動けないんじゃないかと思ったカノンは、ユラを家にあるプールに連れて行った。


「どうだ、泳ぎたくないか?」


 ユラを水に近づけてみた。嫌がっても喜んでもいない様子だ。


 ロボットは息をしていないので溺れることはないはずだ。カノンは

「手を放すぞ、いいか?」と声をかけてからユラを水に入れてみた。


 ユラは水に浮かんだ。やはり動きたくはないらしく、泳ごうとしない。首だけを動かして辺りをキョロキョロと眺めている。しばらく様子を見ていたカノンは、

「泳げないというよりおとなしいのかもな」と呟いてユラを抱き上げた。



 それから更に数日経つと、ユラの様子が変わり始めた。この家の環境に慣れて、カノンやロボットたちに興味を持ち始めたようだ。走り回るペットロボットたちを目で追うようになり、カノンが面白そうな物を持っているとじっと見ていたりするようになった。


 その後の変化は早く、やがてロボットたちと仲良くなりヒレを使ってカノンの方に寄ってきたりするようになった。


 この家ではカノン以外もみんな食事をするので、ご飯は一緒に食べている。ユラはもうすっかり安心したようで、美味しそうにご飯を頬張っている。


「可愛いですね」


「そうだな」


 嬉しそうなユラに目をやりマルとカノンが微笑んだ。


 最新技術で作られたロボットだと、空気からエネルギーを作り出したり水を使って発電したりできる者もいるようだが、ペットロボットは大体ご飯を食べるようにできている。ペットロボットの場合、エサをあげることは飼い主の楽しみの一つなので、無くしてしまうわけにはいかないのだ。


 人型ロボットも食事を通して人と会話をしたり、より人間に親しみを持たれやすいようにあえて食物を必要とする仕様にしてあることが多い。



 食事と片付けが終わりそれぞれの自由時間となったので、アケミはテレビをつけた。楽器を演奏するロボットの特集をやっている。


 皆がのんびりしていると、突然マルが

「あっ」と叫んだ。


 皆がそちらを向くと、テレビに男と女が映っていた。


 カノンとマルとユラは彼らを知っていた。それはユラを捨てようとしたあの二人組だったのだ。


 二人はインタビューに答えているようだ。


「私たちにとってロボットとは、全て大切な我が子のような存在なんです」などとニコニコしながら男が言っている。男はジョン、女はリトという名らしい。


「よく平気で嘘をつけますね。ロボットを金儲けの道具としか思っていないくせに……」


 鬼のような形相で突っ立っているマルを見て恐れをなしたアケミは、サッとテレビを消した。しかしマルはぶつぶつと呟き続けている。しばらく放っておくしかなさそうだ。


 ユラは二人組を目にして怖がっているようだった。


「大丈夫だぞ、ユラ。もうあんな奴らと関わることなんかないからな」


 カノンが声を掛けるとユラは安心したようだった。

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