【新説昔話集#3】亀とうさぎ

すでおに

亀とうさぎ

 むかしむかし、ある山に一匹のうさぎがおりました。うさぎは駆け足がとても速く、それはそれはたいそう自慢しておりました。


「おいらの駆け足は天下一品。君たちとおいらじゃ月とすっぽんだ。おいらと競争して勝てる奴なんて誰もいないさ」


 確かにうさぎの駆け足は山一番。悔しいながらも山の動物たちはただ黙って聞いているばかりでした。


 そんなある日のこと。一匹の亀が言いました。


「うさぎさん、私と競争しませんか」

 

 のろまで有名な亀の申し出にうさぎは


「君がおいらと競争だって?暇つぶしにもならないよ」


 馬鹿にして笑うと、亀も笑みをたたえて言いました。


「そうですよね。のろまな亀に負けたら恥ずかしくて山を歩けなくなりますもんね」


 うさぎは頬を膨らませました。


「そんならいっちょう走ってやるよ」

 

 こうしてうさぎと亀は山の頂上まで競争することになりました。



「よーい どん!」


 のっそのっそと歩き出した亀を横目にうさぎは、ぴょんぴょんぴょーんとものすごい速さで山を駆け上がって行きました。


 うさぎはすぐに山の中腹まで来ました。後ろを振り返っても亀の姿は全然見えません。


「ほーら言った通り。亀とおいらじゃ勝負にならないよ」


 その時です。


「助けてください!」


 突然一匹のカニが目の前に飛び出してきました。


「どうしたんだい?」


 驚いてうさぎが尋ねると


「子供が高熱を出して寝込んでいます。薬草を探しに川からやって来たのですが、山に来るのは初めてで道に迷ってしまい、見つけることができません。どうか助けてください」


「それは大変だ」


 うさぎはもう一度後ろを振り返って亀が見えないのを確認すると


「おいら山にくわしいから探すの手伝ってやるよ」


 一旦足を休め、一緒に探してあげることにしました。



 うさぎはカニと一緒に薬草を探し始めました。草木をかき分け、根っこをほじくり、泥んこになって林の中を探し回りました。

 わき目も振らず必死で探しましたが、季節はもう夏を過ぎ、山の草木は枯れ始めていてなかなか見つかりません。カニはとても不安そうです。


「見つからないかもしれません」


 声にも元気がなくなっています。

 それを聞いたうさぎは


「大丈夫。一生懸命探せば絶対見つかるさ」


 そう励まし、一層熱心に探しました。


 そして


「これだ!これだ!」


 うさぎは腕をいっぱいに伸ばして一本の薬草を掲げました。


「そうです!これです!これで子供が助かります。ありがとうございます!」


 カニは涙を浮かべて喜びました。うさぎも額の汗を拭い、一緒に喜びました。


 しかしその時です。


 突然カニが顔を青くし、怯えるように言いました。


「うさぎさん、亀です!向こうから亀がやって来ます!」

 

 見ると亀がのっそのっそと歩いて来ます。


「亀はカニが大好物なんです。見つかったら食べられてしまうかもしれません」


 それを聞いてうさぎはさっとカニの前に回り込み、隠すように寝転びました。


「あらあらうさぎさん、お昼寝ですか?ずいぶん余裕ですね」


 うさぎの前まで来た亀は言いました。


「おやおや亀さん、やっとここまで来たかい。あんまりのろまで退屈だから昼寝しているところだよ」


 うさぎは寝転んだままを片肘をつき、片方の目だけを開けて言いました。


「ではお先に失礼します」


 亀は頂上へ向かって歩を進めました。


「せいぜい頑張ってくれよ」


 うさぎは寝たふりをして薄目を開け、亀が通り過ぎるのを待ちました。そして亀が見えなくなると


「さぁもう大丈夫だ。早く子供に薬草を持って行ってやりな」


「ありがとうございます」とは言ったもののカニはどこか不安そうです。


 うさぎがわけを聞くと


「もうすぐ日が暮れてしまいます。ちゃんと川まで帰れるか心配です」


 カニは心細そうに言いました。


「それじゃあ、おいらが川まで送ってやるよ」


 うさぎは胸をぽんと叩きました。


「おいらの足ならひとっ飛びだ」


 カニを背中に乗せ「しっかりつかまってろよ」と言って物凄い速さで走り出しました。


 全力で走って山に戻れば、まだ亀を追い越せるはずだ。


 うさぎは大急ぎで川へ向かって走りました。


 はあはあ、ぜえぜえ、はあはあ、ぜえぜえ


 息を切らして走り続け、何とか川に到着しました。


「本当にありがとうございました。これで子供も助かります」


 カニは何度も礼を口にしました。


「いやいや、お安い御用だよ。それより早く子供のところへ行ってやりな」


 そう言い残すと、残りの力を振り絞り、今度は山に向かって走り出しました。


 何とか間に合ってくれ。


 へとへとになって頂上に辿り着きましたが、亀が着いた後でした。


「おっほっほっほ。これはうさぎさん、遅かったですね、私の勝ちですよ」


 亀は勝ち誇って言いました。


「ちぇっ、負けちまったか。でも次は絶対負けないぞ」


 うさぎはそう言い残して走り去りました。


 負けたのは残念でしたが、カニを助けることが出来、うさぎの心はとても晴れやかでした。



 さて、勝った亀はその後どうしたでしょう?


 のっそのっそと山を下りるとあるところへ行きました。


 海?違います。亀は川へ向かいました。川で待っていたのはさっきのカニでした。


「上手くいきました」


 亀がニヤケ顔でいうとカニも笑いながら


「あんな芝居に騙されるなんて本当にまぬけですね」


「これで当分大人しくしてるでしょう」


「わっはっはっは」


 生意気なうさぎに一泡吹かせたと大笑いしました。

 

 おしまい

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