冬 前編
中学三年生、冬。
三学期になっても尚、持田さんのグループから私に対する敵意は相変わらず鋭かった。だが、そこに小さな変化が起き出していた。彼女たちのグループから一人、涼花という子が抜けたのだ。どうやらグループ内で何かあったようだが、私にはあまり関係ない。ただ、彼女がグループを抜けたことで今まで私だけに向いていた彼女たちの悪口の矛先は私と彼女の二人に分散されるようになった。だが私は、秋からの刷り込みで涼花とあまり踏み込んだ話をできずにいた。それでも会話はする、といった微妙な関係に終止符を打ったのが、ある日の体育の授業だった。
涼花と私は二人きりで体育の授業を見学していた。話のネタが尽きたころ、私は涼花に例の話を振ってみた。
「涼花ちゃんはさ、私が吉川と研修中に電話したっていう話の事、知ってる?」
そう聞くと涼花は、
「うん、知ってるよ。優香ちゃんと吉川君のことでしょ?私その話凛から聞いたもん。」
凛。涼花の口から出てきたのは意外な名前だった。なぜなら、涼花はデマを信じている。それなのに、凛から話を聞いたというのはおかしい。凛から聞いたのなら真実を知っているはずだ。私の中で黒い疑惑の雲が広がっていく。それを振り払うために、私は半信半疑で聞いてみる。
「じゃあ、それの本当の話、知ってるってこと?」
帰ってきた答えは私の期待していたものではなかった。
「え、研修中に吉川君と優香ちゃんが電話したっていう話でしょ?本当の話ってどういうこと?」
あぁ、だめだ。私の中で一番揺らいではならないものが大きな音をたてて崩れ落ちてしまった。泣くな、私。涼花にちゃんと説明するんだ。
「それ実は、デマなんだよね。」
ふり絞って何とか出した声は震えていた。それでも私は、涼花に説明するために一つ一つ言葉を紡いだ。
電話をしたというのは事実。ただ、電話は一対一ではなく、大人数での電話だった。そのうえ吉川はほとんどの時間寝ていて、ほんの少ししか電話に参加していない。私と吉川が一対一で話しているのはマインだけ。
そして、凛は真実をすべて知っていた事。
話を聞き終わった涼花は、私と同じように、とても困惑しているように見えた。
私たちはしばらく黙ってただ天井を見つめていた。すると、涼花がぽつりと言った
「凛を問い詰めよう。」
同感だった。凛のせいだったんだ、じゃあもういいや、で終われる話ではない。問い詰めなくては気が済まない。
そうして私たちは、凛を屋上に呼び出すことにした。
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