初秋 後編

三十分後。弦楽アンサンブルの演奏を終えた私は体育館に急いでいた。同級生の活躍を見逃したくない一心で体育館に駆け込むとクラスメイトの真由も試合を観戦していた。どうやら、私たちの学校が勝っているようだ。

 試合の後半になるとミヤの言った通り同級生メインのフォーメーションが組まれ、私たちは応援に更に力を入れた。私の学年の男子バスケ部は、人気の高い人が数人入っており、ファンも少なくない。かく言う私もそのファンの一人なのだが、私は人が目当てではなく、バスケットボールの試合を観戦すること自体が大好きなのだ。真由は吉川君のファンらしく、彼が活躍する度に黄色い歓声をあげている。確かに容姿端麗な彼がバスケットボールをプレイしている姿はかっこいい、と私も思ってしまう。だが、集中しているからとはいえ、バスケットゴールのすぐ後ろのギャラリーにいる私たちに目もくれないのはいかがなものか。二人はそこが更にクールでかっこいいと言っているが、正直私にはよく分からない。気づいて手を振ってくれたミヤの方がかわいいじゃないか。そう言うと真由は、

「優香は人気な人たちとも仲がいいからわかんないかもしれないけど、宮崎君は人見知りだから仲良くならないとそんな対応をしてくれないからね?それならクールなイケメンを見てた方が目の保養になるんです~!」

と言ってきた。なるほど、私にはよく分からない感覚だ。


招待試合は私たちの学校の勝利に終わった。試合の後の片付けは文化祭終了後で良いと伝えられた私は、自分のクラスを手伝うために教室に戻ってきたのだが、シフトに入っている人で十分企画は機能していた。暇になってしまった私は、楽屋で暇を持て余していた。二十分ほどすると、

「お、渋谷じゃん。何してんの?」

という声とともに吉川君が楽屋に入ってきた。

「あ、吉川だ。試合お疲れ様。私は、見ての通り暇を持て余しているのです。なので、話し相手になって~!」

正直吉川君はそんなにたくさん話す方じゃない。マインで話している時はかなり饒舌なのだが、現実ではかなり無口だ。だから、話し相手になってほしいというのはダメ元で言ってみただけだったのだが、意外なことに快く了承してくれた。

「そういえば、渋谷達試合見に来てくれてたよね、ありがとう。」

体育館では私たちに目もくれなかったのに、なんだ、ちゃんと気づいていてくれたのか。そう考えると案外嬉しいな。真由やほかの吉川君ファンの気持ちも今ならわかる気がする。

三十分ほど話していたのだろうか、文化祭の終了時刻が近づいてきて、本部委員は召集がかかる。吉川君も先生に手伝いを頼まれているらしく、そこで雑談会は終わった。吉川君と現実でこんなに長い時間二人きりで話したのは初めてだったと思う。途中誰かが楽屋に入ってこようとしたのか、ドアが一瞬開いたが、入ることなくいなくなったようだった。話してみて分かったのだが、吉川君は育ちの良さが出る話し方をする。いつもはかなり無表情なのに話していると結構笑顔が出るし、これがギャップ萌えということなのだろうか。吉川君ファンの気持ちがまた少し、分かるようになった一日だった。


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