初秋 前編
中学三年生、九月。
うだるような暑さの中、私たちは屋外でテントを張る作業をしていた。今年は二学期が始まって一週間もしないうちに文化祭があるというので、文化祭本部委員はかなり大忙しだ。例年は少しのんびり組み立てられるであろうテントを、一日でやり切る。そこそこにきつい。そんな中私は、謎の女の子にからま、、、話しかけられていた。同じクラスの持田さん、一学期は一度も話していないのになぜか本部委員では沢山話しかけてくる。内容は大体が恋愛関連だ。
「ねぇ、吉川君と仲いいって本当??マインでいっぱい話してるんでしょ?見せて~!」
これが初めて話しかけられた時の一言。
(マインとは、無料チャットアプリの名前で、学校ではほとんどの人の連絡手段として使われている。)
私と吉川君がマインでたくさん話しているのも事実なのだが、私はそのことを持田さんに言った事はない。なぜ知っているのだろうかと、すごく疑問に思う。
持田さんは面白いことに、彼女は吉川君がいないところではあまり話しかけてこない。男子がいるところでしか話しかけてこないのも少しびっくりだが、それ以上に初対面でチャットの内容を見せろと言えてしまう非常識さに驚いてしまう。すごく仲のいい友達にしか許されない質問じゃないのか、それ。おそらく彼女の目的は吉川君と仲良くなることだろう。そのために私と仲良くしているところを吉川君に見せておきたいのだとなんとなく予想はつく。そういうところが確実に反りが合わないと確信させてくれたので、私から話しかけることはしないようにしよう、とそう決めたのだった。
文化祭当日。文化祭本部委員は運動部の招待試合の設営を頼まれていた。とはいっても、椅子を少し運ぶだけなのだが。私が手伝いに行ったのは男子バスケ部の試合のセットだった。次はバスケの試合か、弦楽アンサンブルの発表が終わったらすぐ見に来よう。そんなことを考えていると、仲の良い友達がいるのが目に入った。そうか、あいつもバスケ部だったっけ。そう思いながら話しかけに行く。
「ミヤもこの試合出るの?」
ミヤは宮崎の愛称だ。中一の頃から仲良くしてくれているからか、いつのまにか愛称呼びが定着した。
「お、渋谷じゃん。俺は今日は出ないよ、でも俺らの学年のやつらは後半に結構出る。」
それはいいことを聞いた。弦楽アンサンブルが終わったらすぐ見に来よう。後半には間に合うはずだ。
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