初夏

 中学三年生、初夏。

梅雨が近づき、ジメジメとした日々が続く毎日の中、私は凛と一緒に下校していた。すると突然、凛がこんなことを言ってきた。


「ねえ、どんな嘘をついたら、人って死んじゃうんだろうね。」


「え?どういう事?嘘をつくと云々っていう童話はあるよね、死にはしなかった気がするけど。そういう感じの事考えてる?」

 藪から棒に何を言い出すのか、言っていることがよく分からない。凛は何故か歯切れの悪い口調で話し出した。

「うん、ピノキオって童話あるじゃん?あれは鼻が伸びていくっていう話だけど、あれって嘘によって鼻の伸びる長さ変わるのかなって思って。で、嘘によってペナルティみたいなのが変わるなら、そのペナルティを変えたら死に直結する嘘って存在するんじゃないかなって思って。」

 なんだか哲学のような話だ。死に直結する嘘、そんなものが存在するのなら、内容を知りたい。そう、彼女は言っていた。


 二週間後、私たちは学校で、「本を五冊読んでそれらに関係する内容のプレゼンをする」という課題が出された。本の内容は自分たちの興味がある分野であれば何でも構わないと言われた。私は元々興味があった心理学の分野に関する本を読むことにしたのだが、これがなかなかうまくいかない。課題が進まず、頭を悩ませていると、凛が一冊の本を渡してきた。

「青髭、、、?これって、童話?」

 聞いたことのない題名だ。凛は、

「うん、ヨーロッパの昔話だよ。そういう本の登場人物を心理分析するっていうのはどうかな?少しはやりやすい?」

 と提案してきた。確かに、それならただひたすらに本の内容をまとめるより面白くなりそうだ。ありがとう、とお礼を言っている時に目に入ったのは、凛の腕の中にある本の題名たちだった。「ピノキオ」「人の嘘」それから「命と嘘」他の二冊は見えなかったが、恐らく嘘に関するプレゼンをするのだろう。

 更に数週間後、私にもプレゼンの順番が回ってきた。青髭という昔話は、恐ろしい見た目をした王にいやいや嫁いだ娘が王の秘密を目撃してしまい殺されそうになるものの兄たちの助けによって青髭は殺され、青髭の財産は全て娘のものになった、という話だった。結局私は、青髭のあらすじとともに登場人物の行動と、それに伴う心理的理由、そして一つ解釈の方法を発表することにした。

「これらの理由から、青髭の黒幕は娘だったのではないかと私は考えました。」

という一文で締めくくると、クラスメイトは拍手を送ってくれる。よかった、ようやく終わった。次は、凛の番だ。どんな発表をするのだろうか。そう期待していた私は、凛のプレゼンに驚くことになる。

 やはり凛は、ピノキオに焦点を当てたプレゼンをしていた。だが、彼女は締めの部分でこんな事を言い出したのだ。


「もしピノキオの嘘の代償が命だったとしたら、彼は嘘をつくのをやめたのでしょうか。」


普通、童話をそこまで深読みをする事はしない。私もしたが、私のは初めて読んだ人でも思う程度の事だ。

何故彼女はこんなにも嘘と命に執着するのだろう。私にはどうしても分からなかった。


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