第2章 片割れのハンプティ

第20話 それでなくても初デート

待ち合わせは十二時半。


何の待ち合わせかというと、今日はデートの日なのだ。

駅前のバス停を降りたところで、あたしは先輩を待った。

お昼どきの駅前は、日曜だからなのか結構にぎやかだった。ベンチもあったけど、何となく落ち着かなくて、あたしはその場に立ったままあたりの人通りを眺めていた。


腕を組んで歩くカップル達に混ざって、なんだか、今日はやけに双子連れが目に付いた。


ショーウインドを指さしてはしゃいでいる姉妹。

『ケチ』だの『バカ』だの言って口げんかしてる男の子四人組がいて、その様子を困った風に笑いながら見守っている双子のお母さんたち。


……みんな、仲が良さそうだった。


気が付けば、唇を尖らせて仏頂面を作っていた。

何が面白くないのかは分からない。でも、原因は絶対にお姉ちゃんだ。


あれから二日たったけど、お姉ちゃんとはろくに話しもしていない。

入れ替わるって決めたんだったら、口裏合わせのために、お互いの友達関係とか、仕草とか、趣味とか、よく話し合った方がいいのは分かる。お姉ちゃんもそう言って何度も話しかけてきた。けど、あたしはどうしてもそんな気分にならなくて、ツンとそっぽむいて取り合わないようにしていた。

もちろん、それだけじゃあたしだって困ってしまうから、必要最低限のことはこっちが勝手に決めてTWINEツインで送っておいたけど。


たとえば、部活にもお姉ちゃんが代わりに出ることとか、出歩く時はお互いの服を使うこととか、スマホは入れ替えるけど来たメッセージは全部相手にも転送することとか、返信の時もちゃんと中継を挟むこと。

なんだかプライバシーも何もあったもんじゃないけど、文句なんて言わせない。


元はと言えば、全部お姉ちゃんが悪いんだから。

なにもかも全部お姉ちゃんのせいなんだから。

あたしを嵌めて、先輩を騙して、健吾まで引っ張り込んで人の生活をメチャクチャにして、それなのに『あたしのため』なんてふざけたこと言って……。


そもそも、好きじゃないなら断れば良かったのだ。


そうすれば、あたしは正々堂々アプローチ出来た。

たしかに振り向いてもらえる可能性は低いかもしれないけど、つきあえても代役っていう気分が晴れないかもしれないけど、その方が何十倍も何万倍もマシだと思う。


変な作戦考えて、好きな人を騙して、そんなの最低の最低の最低なのだ。

ううう~~。


……ああ、もうっ。


 お姉ちゃんのことなんて考えてたら、頭が腐ってしまう。

 あたしは勢いよくぶんぶんと頭を振って気持ちを切り替えることにする。

 なにしろ今日はデートなのだ。こんな仏頂面してたら先輩がどう思うことか。こんなんじゃ、お姉ちゃんの格好をしてたって先輩に好きになどなってもらえない。


 ……うん、そうだ。

 お姉ちゃんのことなんて考えてる場合じゃない。

 あたしは、一刻も早く先輩に好きになってもらわなくてはならないのだ。騙されたことなんて気にならないくらいに、お姉ちゃんのことなんて忘れちゃうくらいに。


 何か、考えただけで気が遠くなってしまいそうだけど、もうやるしかないのだ。

 ポーチからコンパクトを取り出す。

 覗き込んだ鏡には、お姉ちゃんの顔が映っていた。

 頬を持ち上げて目を細めて笑う。ほんの少し小首を傾げて、指先で口元を隠して上品に、……ふふっ。

 

 よし、完璧。

 

 両手を上げて大きく伸びをしたかったけど、お姉ちゃんの格好でそんなにはしたないマネはできないから、両手は下で組んだまま、上を見上げて大きく太陽の光を吸いこむ。

 

 うん、今日もいい天気。


 昨日の夜はずっと緊張で寝れなかったけど、明け方からお昼までずっと寝こけていたから睡眠はバッチリ。鏡の前で研究したお姉ちゃんの仕草もOK。服装は長めのワンピースとカーディガン。全体的に白とピンクで清楚にまとめた。


 もう、槍でも鉄砲でも大砲でも何でも来い! って感じになってきたけど、


 お化けでも幽霊でもどーんと来いって感じだけど……、それでもやっぱり


 先輩が来たらきっと、ドキドキして、ビクビクして、オロオロして、どうしようもなくなってしまう気がした。


 それでなくても初デート。

 

 緊張のあまり、簡単にボロを出してしまう恐れは恐ろしすぎて考えたくも

 

 「……待った? 美紀ちゃん」

 

 来た!


 (続く 次回更新予定2月29日)

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