第18話 つい面白かったから(一章終了まであと1話)
クラスはお祭り騒ぎだった。
それも、どこかやけくそ気味の。
健吾の男友達は、からかうような祝福の言葉を贈って二人を囃し立ててたし、女子は『彼女つくっちゃうの健吾くん~』『え~っ!!』『淋しい~』などと冗談なのか、本気なのかよく分からない黄色い声を上げてた。
でも、お祭り騒ぎに隠れて目立たなかったけど一番多かったのは、『なにをいまさら』って感じで肩をすくめてる人たち。
「えっ、健吾くんと美紀ちゃんって、つきあってたんじゃないの?」
コレは先輩のセリフ。
「ち、違います!!」
思わずあたしが全力で否定してしまった。
先輩は何を言っているのか。
こんな、ガキっぽくてイタズラ好きのセクハラ親父と、何であたしが恋人同士でなきゃいけないのか。
「あの、その、です……ね、鹿島さん……。健吾くんと、美紀ちゃんは……」
ただの腐れ縁の幼なじみです。
そうはっきり言ってやりたかったけど、混乱しきった頭に残った最後の冷静さがそれを押しとどめた。
今のあたしは『お姉ちゃん』なのだ。
自分に言い聞かせる。お姉ちゃんらしく、お姉ちゃんみたいに……。
そんな努力をあざ笑うように当のお姉ちゃん本人は、
「やだぁ、先輩。あたしと健吾は、ただの腐れ縁の幼なじみですっ。……今日からは違いますけど。アハっ」
もう我慢できなかった。
「美紀ちゃん、ちょっといい?」
「うん、いいよお姉ちゃん。何?」
お姉ちゃんは、今度は大人しく承諾してくれた。
だから、あたしは、お姉ちゃんを引っ張ってトイレに連行する。
「じゃあ、健吾、またあとでね~~」
恋人に向かって、名残惜しそうに手をふるお姉ちゃん。
その腕を掴んで引っ張っていくお姉ちゃんの格好をしたあたし。
この光景……
先輩には、どう映ったのだろう、と思った。
@
第2校舎の4階のはずれにある、滅多に人の来ない女子トイレ。そこにお姉ちゃんを引っ張り込んで、一つの個室に二人で入って、第一声
「どういうつもりなのっ!!」
「うわ~ん。お姉ちゃんが、こわ~いっ」
「お姉ちゃんっ~~!!」
「アハハ、ごめんごめん、冗談だから、そんなに怒らないで? ね、お姉ちゃんっ♪」
あたしは眉根を寄せてお姉ちゃんを睨みつけながら、青いリボンを外して無言でお姉ちゃんに突き返した。
お姉ちゃんは、もう一度、あたしみたいにアハハって笑ってから、トレマを外した。
リボンのないお姉ちゃん。
セミロングの黒髪の少女が、なぜか、『美紀』でも『優紀』でもない、全然知らない人みたいに感じられた。
でも、お姉ちゃんは、いつものお姉ちゃんみたいに静かな話し方に戻って、
「ふふっ、ごめんなさいね美紀ちゃん……。つい、おもしろかったから……」
「ふざけないでっ! 『つい、面白かった』、であたしの生活をメチャクチャにする気なの!?」
お姉ちゃんに向かってこんなに怒鳴ったのは初めてだった。
話してるだけですごく腹が立ってくる。
まるで、健吾と話してるみたいだった。
「どうしてくれるのよっ!! 何であたしが健吾なんかとつきあわなきゃいけないの!?」
「えっと、それは……。本当にごめんなさいね。でもね……。美紀ちゃんが健吾くんとつきあう必要はないと思うの……」
意外な言葉。少しだけ冷静さが戻ってくる。
確かに、さっきの冗談みたいな告白なら、取り消すのは簡単かもしれないなかった。
でも……。
「そんなこと言ったって、みんな見てたし、先輩だっていたんだよ?」
まだ舌の根も乾かないうちに、さっきのナシ、
なんて言おうモノなら、あたしの人格が疑われてしまう。
健吾はああ見えて、クラスの女子には人気があるし。
第一、そんなにふざけた女の子を、先輩が好きになってくれるとは絶対に思えなかった。
でも、お姉ちゃんの考えは全然違ったみたいだ。
「あのね、美紀ちゃん。取り消す必要はないの」
「取り消す必要ない? って、だって、えっ?……」
「だって……
(つづく)
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