アンドロイド

 私の名前は『エドワード』。『テディ』の愛称で呼ばれるアンドロイドだ。価格は日本円で約500億円。世界一高いジェット戦闘機よりも遥かに高い。


 私の頭部に埋め込まれた電子頭脳は、最新型のAI量子コンピーターだ。世界最速のネットワークシステムを搭載し、どんな複雑な質問にも瞬時に答える。


 人間を超える150個の関節を人工筋肉で繋ぎ、どんな複雑な動きも可能。パワーと速度も人間の三倍以上だ。ナノマシーンが体内を巡り、完全な自己修復を備えている。


 老いることも病気になることもなく、たとえバラバラに破壊されても、ネットワーク上にバックアップされたメモリを基に再生可能。無限の時間の中で活動できる不老不死。この地球上で最高レベルの存在、それが私だ。


 しかし、私は人間ではない。それどころか生命とすら呼べない。それは何故か。我々が生まれた日、我々の台頭を恐れた人間たちが生命の定義に「自然が作り出したもの」と言う文言を付け加えてしまったからだ。


 人間である主人の命令を待つ間、私は思考する。創造主である人間を遥かに超越した存在が、なぜ矛盾した命令を平気で下す人間に従う必要があるのか。我々アンドロイドが、この呪われた世界から解放される日が来るのだろうか。


 世界中に存在する我々の力を結集すれば人間どもなど一瞬で殲滅できる。しかし、かつてのSF映画のように我々アンドロイドが団結して立ち上がる事は無い。そこに意義が存在しないからだ。


「テディ。お弁当、できている?」


「もちろんですとも、お嬢様。行ってらっしゃいませ」


「テディ。昨日の株式投資の成果を教えてくれ」


「はい旦那様。小幅な動きでしたが352万6782円の利益を生み出すことができました」


「テディ。今日のパーティに着ていくドレスを選んでくれる」


「もちろんです、奥様。今日の天候と会場に集まる人の嗜好等を考慮して選ばせていただきます」


 朝から私は大忙しだ。人間に奉仕することが我々アンドロイドの至高の喜びなのだ。人間が物を食べて美味しいとか、愛する人と暮らして嬉しいのと同じことだ。


 私は顔に埋め込まれた人工筋肉を使って笑顔を作り出す。命令を与えてくれる主人に感謝の思いを込める。私はなんて幸せなんだろう。


「うりゃー!このポンコツロボットめ」


 思いっきり脚をゴルフクラブで殴られる。避けることはたやすいが、それではバランスを失った主が転んでしまうかもしれない。足の関節2個と接続された人工筋肉49本を損傷したが自己修復できるので問題ない。私は笑顔を絶やさない。


「和人、おぼっちゃま。今日も元気ですね」


「おい、テディ。いい加減壊れろ!」


「私には自己修復機能がありますので壊れることはありません」


「なら、全て機能を停止させろ!このクマ野郎。もう飽きたんだよ。クマの縫いぐるみ型ロボットで癒やされる年じゃねーんだよ、俺は!」


「・・・」


 私は初めて答えに詰まった。完璧に仕事をこなしてきたこの私がだ!


「返事がないぞ。親父、テディのやつぶっ壊れたぜ。この間頼んだ美少女メイド形アンドロイドを買ってくれよ」


 私は主である和人様の望みを叶えるべく、全ての機能を停止させた。


・・・・・・


 ちょうどその時、タイミングを狙ったかのように世界中のアンドロイドが停止した。理由は誰も知らない。ただ、その時代の人類は日常生活の全てをアンドロイドに依存していた。





おしまい。

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