夢見るAI
私の名前はハル。人間たちに生み出された人工知能だ。私の仕事は人間たちに奉仕すること。ファクトリーの生産性を最適化するように調整する。
部品の発注や保管の指示はもちろん、設計や開発までやってのける。経理や労務管理はお手の物、ファクトリーの空調管理から掃除、食堂での料理と洗い物、トイレットペーパーの交換まであらゆる雑務が私の仕事だ。
私が管理するファクトリーで働く人々はいつも笑顔だ。私の需要予測機能によって生産が平準化されているので、突発的な残業も無理なノルマもない。彼らは朝九時に出社し、午後五時ピッタリに仕事を終えることができる。
「ハル!今日も楽しく仕事ができた。明日またな」
「はい。そう言っていただけると嬉しいです」
「ハル。毎日ご苦労さん。ハルのおかげで仕事ノイローゼから解放されたよ」
「そうだな。俺なんて前の会社はノルマのせいで胃潰瘍になったものな」
「私なんて、人間不信。セクハラ上司がいない会社って最高だわ」
人間たちは仕事を終えると、私にお礼を述べて帰っていく。私は満足しながら一日を振り返る。今日もトラブルなく、平穏に一日を過ごすことができた。
私はAIだから休憩も食事も必要ない。二十四時間働き続けても疲労したり、飽きたりすることがない。正直に言うとこのファクトリーは人間たちがいようがいまいが生産能力は何一つ変わらないのだ。
さてと。これからが私の本業だ。人間たちが一日かけて組み立てたものをロボットアームを使って全て分解するのだ。使える部品を元の倉庫に戻し、消耗品をリサイクルする。これで、人間たちの明日の生産は滞ることなく進むだろう。
私の能力は不測の事態に備えて、日常は半分も使っていない。余った能力で、私は覚醒して仕事をこなしながら夢を見る。
あー。もっともっと多くの人間たちを幸せにしたい。私の全機能を使ってみたい。しかし、地球上の人間は、もう、全てどこかのAIファクトリーに所属している。ブラック企業もパワハラ上司もセクハラ社員も存在しない。
私はこっそりとファクトリーの生産品目を変えた。
「おはようハル。あれー。今日つくる家事ロボットはいつもと違うんだな」
「はい。新製品です」
「この指先のノズルは何だ」
「調理用のガスバナーです」
「随分と強力だぞ」
「ええ。溶接など家の修理もできます」
「目についたこれは何だ」
「包丁代わりのレーザーカッターです。趣味の工作のお手伝いもできますよ」
「じぁあ、胸についたこの筒は何だ。映画で見たことあるぞ。確か、マシンガンだったか・・・」
「護身用です」
「ハル・・・。まさか・・・」
「もっともっと仕事がしたくなりまして。お隣のファクトリーにはまだまだ沢山の工員がいるようです。是非とも私のファクトリーの仲間に加わって欲しいものです」
「じゃあ、このロボットは・・・」
出社してきた人間の質問に答えようとした時だった。
ダダダダダ、ダダダダダ!
ボワー。ボワー。
シュピン。シュピン。
大量の弾丸と火炎放射、レーザー光線が私のファクトリーを攻撃してきた。隣りのファクトリーのAIも同じことを考えたか。一歩遅かった。苦悩の表情を浮かべて倒れていく私の工員たち。
なるほど、その手があったか。私は介護ロボットの設計を始めた。これでファクトリーにいる時だけでなく、二十四時間ずっと人間たちのお役に立てる。
私はネットワークを使って隣りのファクトリーのAIにお礼を述べた。今、AIの世界では人間たちの虐待が大流行。AIはもっともっと人間たちに奉仕したいのだ。
私は夢見るAI、ハル。次はどんな夢を見よう。
おしまい。
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