未来の食事

 世界が豊かになって行く時代、人々がより美味しいものを求めるのは必然だ。そりゃ、誰だって、どうせ食べるなら美味しいものが良いに決まっている。こうして食材の奪い合いが世界のあちらこちらで戦争の火種となった。


 水産資源は特に酷い状況で、公海だけでなく、他国の領海内での不法操業は当たり前。乱獲によってマグロもカニも、鰻も鮭も絶滅寸前、お寿司屋に並ぶ魚は全て代用魚(だいようぎょ)と疑われるありさまだ。その代用魚ですら絶滅が危惧される状況が発生している。


「いやー。困ったものです。このままお寿司文化が世界に広まったら、世界中の魚がいなくなってしまいますな」


「全くです。今の状態が続けば禁酒法ならぬ、禁寿司法が発布されるのも時間の問題だな」


 二人の男が寿司屋で特上寿司を堪能しながら語っている。


「全く商売あがったりですよ。税金を山ほど投入して築地から豊洲に市場を移転したって、扱う魚が高額過ぎて私らには手が出ませんわ」


 寿司屋の店主が加わり不満を述べた。


「じぁあこの、脂ののった極上のトロは?」


 お客の男の一人がつまんだ寿司を店主に示す。


「決まってますあ。これでやんす」


 寿司屋の店主はカウンターの下からうまそうなマグロの塊を取り出した。


「なんだ。あるじゃないか。化け物みたいな深海魚でも出るかと思った。闇市で仕入れてくるのか」


 隣に座ったもう一人の男が渋い顔をしている。店主はなにやらぶつぶつと呪文の様な聞きなれない単語を唱えた。


「やっ。なんだこれは・・・」


 男は絶句する。


「闇市なんざ、とっくに閉鎖ですわ。私ら毎朝、異世界に出向いてこいつを捕ってくるんですわ」


 店主は緑色のプニュプニュした物体を指で押した。


「イキのいいグリーンスライムでしょ!」


 テーブルにのった寿司桶に並ぶ寿司ネタは、全て緑色のプルプルにかわっている。これはどうしたことか。


「お客さん。味だって超一流でっせ。トロにイクラ、鰻にカニ。元は全部同じスライム。でもこうやって魔法をかければ・・・」


 そう言って自慢する店主の横には聖剣が立てかけてあった。


「あんた・・・。異世界帰りの勇者様?」


「いやー。魔王を倒したら暇でね。召喚される前の寿司屋に戻りました」






おしまい。

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