笑えない異世界のお話
僕はひょんなことから異世界なるものに勇者として転生させられてしまった。
転生後の人生を満喫しようと思ったけど、僕の転生した異世界は今まで聞いたことの無い様な世界だった。
何と言うか、魔物がダンジョンに出没するのは普通なんだけど剣や魔法は全く効かない。笑わせて幸せにしてあげると成仏して死んでしまう。奴らを倒す方法は唯一これだけだった。
ね、変な世界でしょ!んでもってドロップアイテムがこりゃまたいただけない。お金や宝石なら生活の役に立つんだけど、座布団なんだな。これが。
強い魔物を倒すと枚数が増えるんだけど、普通に役立たず。まあ、座布団なんて一家にそう何枚もいらない。
ダンジョンだって、単なる地下洞窟だから、一般人には用なんて無い。要するに魔物が住まおうが、外に出てきて悪さをしない限り全く関係ないって感じた。
ちなみに、この世界の魔物はダンジョンから滅多に出てこない。危険な魔物の巣窟に忍び込んで、害のない魔物を倒して座布団を得ようんなて変わり者は勇者の僕だけなのだ。
「おい、カンタ。今日もダンジョンか!いい加減、おらの畑さ手伝ってけろさ」
「じいさん。俺は勇者だ。魔物を倒すためにこの世界に呼ばれたんだ。だから魔物を倒す」
「んなこと言ったって、村の衆が笑ろうとるわ」
「俺のギャグはお笑いテレビ仕込みだからな。娯楽のない異世界とはレベルが違うんだよ」
「バカにされとると言う意味なんじゃが・・・」
「何か言ったか!老いぼれじじい。今日も座布団集めに行ってくる」
自棄(やけ)をおこしたわけじゃない。俺は転生する時に神の声を聞いたのだ。座布団を百枚集めて、その上に座ることができれば、神様より天界旅行と言う褒美がもたらされる。
天界はどんな希望も、欲望さえも叶う夢の国。砂ぼこりで薄汚れた中世みたいな異世界とは大違いなのだ。俺は魔物たちの笑いを取って、毎日せっせと座布団集めに勤(いそ)しんだ。
「魔王を笑い死にさせて、ついに座布団百枚が集まった。今晩、天界に旅立とう」
俺は村人が寝静まった真夜中に起き出した。月明かりの元、じいさんの家の裏庭に座布団を堆く積んでいく。
「百枚かー。けっこうな高さだな。さてと、登るとするか」
座布団を崩さないように慎重に登る。ただひたすら登る。ようやく頂上に辿り着き、後は座るだけという時だった。
「おーい!カンタ。夜中に、何、おかしなことしてんだばさ。危ないじゃろが」
「くっ!じいさんか。いいんだよ!崩れるから触るなボケ」
俺が頂上の座布団に腰を掛けた時、天から声が響いてきた。
「おーい。座布団一枚持っていきなさい!」
じいさんは嬉々として一番下の座布団を引きぬいた。
「うわっ!」
高々と積まれた座布団が崩れて行く。笑えない。
「師匠!今、そっちに1人送りますから」
じいさんの声が夜空に向かって木霊した。
おしまい。
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