究極の全自動お料理ロボット

 くっ!時間が足りない。何故、一日は二十四時間しかないのだ。寝る時以外は全て研究と開発に費やしたい。食事を作る時間なんて馬鹿げている。が、しかし、毎日外食では健康も気になるし、お金も持たない。どうしたものか。博士は悩みになやんだ。


 既に料理以外の家事の全てが自動化を果たしていた。空気清浄機能付き全自動お掃除ロボットに、全自動洗濯乾燥折りたたみ収納ロボット、ルームクリーン機能付きトイレとバスルーム。全自動化の波は庶民の家庭にくまなくいきわたっていた。


 髭剃りは脱毛技術の発達で不要となり、歯磨きだってスプレーをシュっとするだけのものとなった。着るだけで汗や垢を分解する高機能衣類でお風呂はリラクゼーション目的以外で入る人はもういない。


 文明の進歩はAIが発明をはじめてから加速度的に進展した。くそっ。AIのやつめ。医者や弁護士の仕事ならいざ知らず、私の領域まで手を出してくるとは。想定外だった。が、負けてなるものか。そうだ、私が、未だにAIですら実現できない『全自動お料理ロボット』を作り出してやる!


 そこで博士は料理の工程をリストにまとめた。


 まずは、献立を決める。毎日の事となるとなかなか決めきれずに意外と時間をとる工程だ。栄養バランスやカロリーバランスを考えたりと更に面倒だ。最新のトレンドも取り入れんとならんし、どうせなら最高級の味にこだわりたい。


 これはネットに無限にあるプロのレシピを活用しよう。毎朝のトイレで計測される各種健康管理情報をもとに、栄養管理システムを追加して構築しよう。嫌いなものを登録する機能もつけねばならんな。


 さて、次は材料の準備か。毎回やっていることなのに、改めて書き出してみると、なんてめんどくさいんだ!冷蔵庫の食材の種類、量、消費・賞味期限を確認し、不足分を買い足す。追加の食材を決めて、買い物時には産地や使った農薬、保存料のチェック。おっと、ここでも消費・賞味期限を確認しなきゃ。特売と予算との照合も必要だな!


 こいつもネット通販の比較サイトを使ってシステムを構築。家計簿機能と冷蔵庫の中身チェック機能をつけなきゃな。あっ、調味料も必要だ。『全自動お料理ロボット』が発売されない理由が良くわかるな。博士はため息を漏らした。


 ようやく調理だ。ネットの人気レシピをコピーして不足情報を推測しながらロボットアームで調理。家電製品などを自動認識して、取扱説明書をダウンロード。禁止事項も守らないとな。包丁研ぎに・・・。うーん。包丁だけでもこんなに種類が!フライパンや鍋などを入れたらすごい量だ。


 おっと、台所が狭いからヒューマノイド型はムリか。天井にレールを付けてロボットアームを四本吊り下げよう。これなら冷蔵庫、シンク、コンロと移動もスムースというものだ。段々とイメージが形になってきた。


 いよいよ盛り付け。ここまできらた美味しそうに見せるのも料理の醍醐味。適切な食器を選ぶ機能とトッピングを選ぶ機能。これはネットの料理写真のデータベースの構築が必要か。お酒を選んでグラスに注ぐ機能も必要だな。よし、完璧だ!


 最後は洗い物をして食器棚に戻す動作。これは既存の食器洗浄機とロボットアームでできそうだ。ようやくゴールが見えてきた。博士はリストに従って必要なメカを設計し、プログラムを作成した。部品を調達し、一月かけて組み上げる。正に天才!必要は発明の母なのだ。


「やったぞ!『全自動お料理ロボット』の完成だ。早速、使ってみよう」


 ダイニングテーブルに熱々の料理が並ぶ。高級料亭や三ツ星レストランにも引けを取らない。見た目も、香りも、味も完璧。更に栄養管理から家計簿付けまでこなしてくれる。これさえあれば料理の面倒から解放され、やりたいことに全ての時間が回せるよになる。


・・・・・・


 博士の個人的な動機で生まれた『全自動お料理ロボット』は大ヒット。テレビ局の取材が殺到した。特許は高額で売れ、銀行の預金残高もうなぎのぼり。研究資金に困ることが無くなった。文字通り良いこと尽くしだ。助手を雇う余力も出て来た。


「博士。今度のお休みは外でお食事でもいかがですか?」


「私の作った『全自動お料理ロボット』の作る料理で十分だ。が、新しい発見もあるやもしれぬ。たまには外食も悪くないか」


 こうして博士と助手は都内の超高級レストランへと向かった。


「結局、レストランも私の作った『全自動お料理ロボット』を使っていたので意味がなかったな」


「そんなことないです!私は博士と食事が楽しめて幸せでした」


 高層階にあるレストランで夜景を楽しみむドレスに着飾った女性助手。博士はその横顔に見惚れた。そして、恋に落ちた。こうして博士は助手と結婚した。


「今晩の料理は何か変だな。見た目も香りも平凡過ぎる」


 博士は妻となった女性に告げる。


「はい。『全自動お料理ロボット』には休んでもらって、私が手作りしました」


「そっ、そうなのか?」


「食べてみてください」


「うっ。美味い!何だこれは。どうしてこんなことが。私の作った『全自動お料理ロボット』は完璧なはずだ」


 博士はショックのあまり落ち込んだ。だが、直ぐに研究心が頭を持ち上げてくる。是非とも秘密を解き明かして『全自動お料理ロボット』を改良したい。


「何をしたら、こんなに美味しい料理が出来るのか教えてくれ!」


「愛情をこめて普通に作っただけです」


「・・・。愛情か」


 その日を境に、博士の家では『全自動お料理ロボット』のスイッチを入れることが無くなった。






おしまい。

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