他人の不幸は蜜の味

 日本古来より八百万神(やおよろずのかみ)と言われ、八百万もの神々がいると伝えられている。しかし、こうした神々は名の知られたかなり有名な神々で氷山の一角と言えた。実際は森羅万象(しんらばんしょう)をつかさどる全ての物事に、名も知られていない神が存在する。


 まあ、西洋の文化で言えば精霊(せいれい)と呼ばれ、日本でも別名、妖怪と呼ばれる存在も含まれる。悪霊や悪魔も神々の一つと言えた。簡単に言うと単語の数たけ神は存在し、人々がその言葉を唱えたり、意識すればするほど、その神様の神通力が高まると言った具合だ。


 なので、神々の世界でもブームはある。無名の神が流行に乗って神通力を高めるなんて日常茶飯事。流行語大賞は、その代表例だ。


 例えば、忖度(そんたく)の神。かなり古くから存在するが、ちょっとした切っ掛けで力を付けた神様だ。インスタの神様は最近生まれた若い神様であるにもかかわらず、若い世代から崇拝されて、古来よりの八百万神を追い抜く勢いで強大な神通力を有している。


 んな訳で俺様にも、ひょんなことでブームが訪れないとは言い切れない。神々の神通力は人間どもの意志の力によって高まるのだ。テレビ番組が、ドッキリの神様を生み出したときは、そいつとタッグを組んで俺様も随分と活躍した。最近になって俺様にも新しい友達ができた。名前は投稿動画の神様。こいつのおかげで、俺様は再び脚光を浴びつつある。


 講義の時間だと言うのに、大学の学食に集(つど)っているアホな女子大生が三人。俺様の大好きなシチュエーションだ。話題を提供する。ホイッ!


「最近の投稿動画って、今一つまんねーよねー」


「だよねー。倫理とか規制とか。どうだって良いじゃん」


「可愛い系の動物動画なんて、あんなのやらせじゃん。ハッキリ言って、動物虐待だよねー」


「てかさー。最近のテレビって海外のネット動画、ばっかり配信してねー。ちゃんと番組つくんないとさー。うちらの求めているものって、もっと腹抱えて笑えるやつだよねー」


「だよねー。笑いは健康に良いらしいよ。この間、心理学の授業で教授が言っていた」


「ねっ。うちらもスマホで動画とって投稿しない。ヘタなバイトより稼げるかもよ」


「いいね。んで、どんな動画を作る?」


「うちのクラスにさー。男子に『氷の女帝』なんて呼ばれている子がいるんだよねー。いつも一人で、分厚い本とか読んでさー。ちょっとくらい可愛くって頭がいいからって生意気なんだよね」


「知っている。その子。ああ言うすました美人さんはさー、思いっきり恥をかかせてやりたいよねー」


「他人の不幸は蜜の味」


「そうそう。蜜の味」


「ふふっ。他人の不幸って美味なんだよね」


「じぁあ、ターゲットは決まりね。どんな悪戯をするか作戦会議だ」


 おおっ!素晴らしい展開。俺様の活躍の場にピッタリじゃんか。俺様、ときめいちゃう!




 かくして一週間後。悪戯動画の確認会。俺様、大活躍なのだ。


「あっはー。この子、バナナの皮でスッ転んでるー。マンガみたい」


 適当に投げたバナナの皮で転ぶなんて俺様の力がなければ絶対にありえない。この子たちの計画は無茶苦茶(むちゃくちゃ)だ。


「うけるー。お弁当箱の箸入れから鉛筆出てきたー。鉛筆で食ってるし。おまけにほほに米粒。天然じゃん」


 お前らが入れ替えたんだろ。鉛筆を箸だと思い込ませたのは俺様の力。途中で気付かせて恥ずかしがらせたのも俺様。米粒も何ならなにまで俺様の力。


「ハハハ。男子トイレに入っている。あっ、顔を真っ赤にして飛び出してきた」


 トイレの男子と女子のマークを入れ替えたくらいで普通は間違えない。もちろん俺様の力。こんな感じで彼女のドジは全て俺様の力だ。感謝して欲しい。


「ねっ。手分けして全部、一気に投稿しちゃおうよ」


「だよねー」


「これじぁ恥ずかしくて大学、来れなくなるかも。いい気味だ」


 と言うことで、あっという間に『氷の女帝』の恥ずかしい動画は全て投稿された。


「うわっ。視聴者数がどんどん増えている」


「ほんとだ。再生回数、十万回を突破した」


「うけるー。ざまあみろだわ」


「あれっ?」


「どうしたの?」


「ねえ。この書き込みおかしくない?」


「うそっ。ドジっ子、可愛い!だって」


「なんでー。彼女、男子に大人気なんだけど。萌えもえだって」


「てか、撮影している私たちに避難が集中してるんだけど・・・」


「こわっ!私たちの名前とか電話番号がネットにさらされている」


「うっそ。もう、大学に行けない」


 はい。他人の不幸は蜜の味。タップリ堪能させていただきました。俺様、大満足。俺様の名前は不幸の神。キミたち、これから不幸のどん底なのね!






おしまい。

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