キューピッド

 神々の仕事にも色々ある。太陽神や武神など華やかで高位に属する仕事もあれば、貧乏神や疫病神など人間に忌み嫌われる仕事もある。死神なんてある意味、人間からは悪魔と同等の扱いを受けている。


 まあ、神様の世界も人間界と、それ程、変わらずに大変と言うことだ。才能と努力、そして何より親が代々、太陽神と言った強力なコネがものを言う世界なのだ。ある意味、人間界より融通が利かない。


 僕は神として生まれたが、その実、大した神通力を持っているわけでもなく、コツコツと頑張るなんてまっぴらごめんなタイプだった。まあ、一言で言うと平凡を絵に描いたような、どこにでもいる神と言えた。


 こんな僕が神として選んだ職業がキューピッドだ。キューピッドが背中に白い羽を持った幼児で『金の矢』と『鉛の矢』を携えている何てのは人間が創り出した妄想も良いところだ。神には姿なんて意味ない。あるのは精神のみだ。


 ご存知(ぞんじ)のように日本の人口は減少傾向に転じ、若者の数が年々減少している。バブル時代の仲間たちも次々にリストラされて、日本のキューピッド事情は寂しい限りだ。


 おまけに人間どもがAIなんて開発するものだから、神の世界もコンピューターに仕事を奪われつつある。スマホの出会い系アプリなんて如何(いかが)なものか。機械に勧められた恋なんて邪道じゃなんじゃないか。運命の出会いに心をときめかしてほしい。


「浩さん。お願いだからもう叩(たた)くのはやめて」


「洋子が俺にだまって知らない男と楽しそうにしているからだ」


「違うの。あれは会社の上司で・・・」


「いや。俺が街で見かけたお前は、俺といる時よりもずっと楽しそうに笑っていた」


「だって。そうでもしないと。浩さんが安定した仕事についてくれれば。いつもお金をせびりに来るだけじゃない」


「なにー。俺に頭を下げるしか能のないサラリーマンなんて勤まるか。俺には夢がある。いつかビックになって金なんていくらでも返してやるよ」


「いつになったら売れるのよ。スーパーの前で歌っているだけじゃない。いい加減に目を覚ましてよ」


 あーあ。またこんなアホの担当か。とっとと別れた方が良いと思うが。しょうがないなー。キューピッドの仕事も楽じゃない。ホイ。


「ごめん。俺が悪かった。洋子に辛い思いばかりさせて」


「・・・」


「結婚しないか。俺たち、いつまでもこのままじゃいられないし。俺には洋子しかいないんだ」


「・・・」


 ちっ。女の方がいまいちか。ホイ。


「私こそ、ごめんなさい。浩さんの気持ちも知らないで。結婚かー。ずいぶん待たしてくれたじゃない。もう、浩さんたら」


「俺、頑張るから」


 てなことで仕事は完了。今月のノルマ、達成。メデタシ、メデタシ。




 この二人、二年もせずに別れることになるんだけど。そしたら、また僕の出番だ。こうして先々の仕事を作っとかないと僕だって、いつリストラに合う事か。キューピッドだって大変なのだ。人口が減っている以上、一人のお客から何度も稼ぐ。ビジネスの基本なんだよね。


 お幸せに、お二人さん。






おしまい。

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