超強力万能テープ
私が経営していた会社は「粘着テープの製造メーカー」と言う地味なものだった。下町でコツコツと引っ越し向けのテープを造る、零細企業だ。ところが、海外の4N社の参入であっという間に、市場を奪われた。私の会社は荒波に翻弄(ほんろう)される小舟のように、あっさりと倒産した。
私は新製品を開発し、不死鳥のようによみがえった。たかがテープ、されどテープなのだ。私は最先端の技術を学び、一つのテープを作り上げた。
人工のクモの糸の技術を使って、引っ張り強度はなんと鉄の5倍。厚さはセロハンテープと変わらず、無色透明。さらに真横からなら手で簡単にちぎれる優れモノだ。粘着用のノリもまた人工のクモの粘着液を応用した。一度くっついたら剥離剤を使わない限り、取れなかった。
さらに形も改良した。50メートルのテープを薄い樹脂板に巻きつけて、ポケットティッシュサイズにした。今では街を歩く人のほどんどが持ち歩いている。
どんな使い方ができるかって?よくぞ聞いてくれた。
例えば海外旅行でスーツケースの留め金が壊れたとする。ポケットから出してクルクル。
お土産を買い過ぎて持てない。これもクルクル。接着面を合わせて二つ折りにすれば取ってもベルトも、ほれこの通り。
ハイヒールのかかとが折れた!大丈夫。透明だから手でちぎってペタペタ。靴底だってこの通り。破れたズボンも裏からペタ。
火事になっても大丈夫。耐熱温度は三百度。人間が十人ぶら下がっても切れない。片側をベランダの手すりに貼り付けて命綱がわりだ。
折れたバットも釣り竿もなんだって直せる。少々の傷なら止血をかねてペタ。骨折だってギプス替わりにペタ。正に万能。
その上、有機素材だから体にも環境にもやさしい。土に埋めればバクテリアが分解してくれる。夢のテープだ。
私は特許を取得して大金持ちになった。高層マンションの最上階に暮らし、ワインを片手に地上の夜景を眺めている。
「素晴らしい」
ガシャン。
窓ガラスを割って複数の賊(ぞく)が侵入してきた。やつらは私の開発したテープをロープにして飛び込んできた。私はテープでぐるぐる巻きにされてしまう。
「おとなしくしな!金庫はどこだ」
「まったくこのテープのおかげて強盗がやりやすくなったものだ」
賊(ぞく)の一人が私のワインを奪って飲んだ。
「金庫なら隣りの部屋だ。ダイヤルは900110(クモノイト)。金はやる。はやく出て行ってくれ」
賊(ぞく)たちは隣りの部屋に入った。
シャー。
天井に取りつけられたスプリンクラーが作動した。だが、賊(ぞく)たちに降りそそいだのは水ではない。クモの糸の原理から開発中の液体テープだ。液体は空気に触れて糸状になり、彼らを絡めとった。新製品が完成した瞬間に、彼らは立ち会うことができたのだ。
おしまい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます